ここでは,電験においてベクトルが便利な理由を解説します。
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【復習】交流電源の電圧・電流の変化を表すサインカーブとは
三角関数を学習したとき,なぜ三角関数を学ぶかというと,交流電源の電圧・電流が三角関数の一種であるサインカーブで変化するからだと説明しました(三角関数①)。
「サインカーブで変化する」とは,時間によって電圧や電流がこのように変わることです(図\( \ 1 \ \))。

サインカーブとは何かというと,円運動のことでした。
円周上を一定の速度で動く点があるとして,
その点の動きのうち,縦方向(\( \ y \ \)軸方向)だけに注目したものがサインカーブです(図\( \ 2 \ \))。
詳しくは三角関数③をご覧ください。

サインカーブとベクトルの共通点
前述の通り,サインカーブは円運動から生まれるものです。
次に,ベクトルとは何でしょうか。「大きさ」と「向き」を同時に表すものです。「位置」は関係ありません。
位置は関係ないのですから,原点に移動させても構いません(図\( \ 3 \ \))。

そして,円周上の点は,ベクトルを使って表すことができます。
例えば図\( \ 4 \ \)の点\( \ \mathrm {P} \ \)であれば,原点が始点,点\( \ \mathrm {P} \ \)が終点のベクトルで表現できます。

円の半径がベクトルの大きさ,原点から点\( \ \mathrm {P} \ \)の方向が,ベクトルの向きになるのですね。
ちなみに,なにも円周上の点に限らず,座標上のすべての点をベクトルの終点とすることができます。
しかしここでは,円周上の点と考えておいた方が分かりやすいでしょう。
つまり,サインカーブもベクトルも,”円”が共通していることが分かります。
サインカーブの表現にベクトルが使える
以上をまとめると,
- 交流電源の電圧・電流はサインカーブで変化する
- サインカーブは円運動から生まれたもの
- 円周上の点はベクトルでも表現できる
となるので,交流電源の電圧・電流を,ベクトルを使って表すことができます。
例えば,電圧が図\( \ 5 \ \)のサインカーブで変化するとします。
最大値が\( \ V_{\mathrm {m}} \ \),最小値が\( \ -V_{\mathrm {m}} \ \)です。

①電圧が\( \ 0 \ \)でこれから最大値に向かうとき(図\( \ 6 \ \))。
円運動に戻すと座標は\( \ ( V_{\mathrm {m}} ,0 ) \ \)ですから,ベクトルは右向きです。

電圧が最大値のとき(図\( \ 7 \ \))。
円運動に戻すと座標は\( \ ( 0,V_{\mathrm {m}} ) \ \)ですから,ベクトルは上向きです。

電圧が\( \ 0 \ \)でこれから最小値に向かうとき(図\( \ 8 \ \))。
円運動に戻すと座標は\( \ ( -V_{\mathrm {m}},0 ) \ \)ですから,ベクトルは左向きです。

電圧が最小値のとき(図\( \ 9 \ \))。
円運動に戻すと座標は\( \ ( 0,-V_{\mathrm {m}} ) \ \)ですから,ベクトルは上向きです。

このようにして,交流電源の電圧の変化をベクトルであらわすことができます(図\( \ 10 \ \))。

ベクトルの向きは,時間とともに反時計回りに変わっていきます(図\( \ 11 \ \))。
電圧・電流を同時に表す
ここから,電圧と電流の両方をベクトルで考えましょう。
電圧を黒,電流を赤とします。
電圧と電流の位相が同じ場合
まずは,電圧と電流の位相が同じ場合です(図\( \ 12 \ \))。

位相が同じですから,\( \ 2 \ \)つのベクトルの向きは同じです(図\( \ 13 \ \))。

始点をそろえてベクトル図を描くと図\( \ 14 \ \)となります。

\( \ 2 \ \)本が重なった状態で,ベクトルの向きが反時計回りに変わっていきます(図\( \ 15 \ \))。

電圧と電流の位相が異なる場合
続いて,電流が遅れる場合です(図\( \ 16 \ \))。

電圧ベクトルについてはこれまでと同様です(図\( \ 17 \ \))。

電流ベクトルについても,電圧と同様に,円運動に戻せばベクトルの向きが分かります。
電流が最小値のとき,ベクトルは下向き。
電圧が\( \ 0 \ \)でこれから最大値に向かうとき,ベクトルは右向き,といった具合です(図\( \ 6~9 \ \)参照)。
電流ベクトルの変化は図\( \ 18 \ \)のようになります。

始点をそろえてベクトル図を描くと図\( \ 19 \ \)となります。

\( \ 2 \ \)本が一定の角度を保った状態で,ベクトルの向きが反時計回りに変わっていきます(図\( \ 20 \ \))。

今回の例だと,時計の\( \ 3 \ \)時の針の形のままで,反時計回りに回るということです。
ベクトル図で位相差を表現する
ベクトル図で,電圧と電流の位相差を表す方法を解説します。
例えば,電流が電圧に対して\( \ \displaystyle \frac{\pi}{2} \ \)遅れるベクトル図を描いてみましょう。
①まずは,電流ベクトルと電圧ベクトルのうち,どちらかを基準ベクトルに決めます。
今回は,”電圧に対して”と言っているので,電圧ベクトルを基準と決めましょう。
②基準となるベクトルを,\( \ x \ \)軸の正方向,つまり右向きに置きます。
③続いて電流ベクトルを描きます。
\( \ \displaystyle \frac{\pi}{2} \ \)だけ遅れるベクトルです。
上向きと下向きどちらになるか分かるでしょうか。
サインカーブは円運動からできていると説明しました。回転は反時計周りです。
したがって,”遅れ”とは時計回りです。
“\( \ \displaystyle \frac{\pi}{2} \ \)だけ遅れる”とは,下向きとなります。
もし”進み”であれば,反時計回りに,位相差の分だけ回すことになります。
もともとの円運動が反時計回りだったことから連想してください。
以上より,電流が電圧に対して\( \ \displaystyle \frac{\pi}{2} \ \)遅れるベクトル図が描けました(図\( \ 21 \ \))。

サインカーブとベクトル図
以上を整理すると,”電流が電圧に対して\( \ \displaystyle \frac{\pi}{2} \ \)遅れる回路”は,サインカーブとベクトル図で図\( \ 22 \ \)のように表現できます。

サインカーブであれば,時間の経過とともに\( \ x \ \)軸の正方向に進みます。
ベクトル図であれば,電流ベクトルと電圧ベクトルは角度を保ったまま,反時計周りにグルグルと回ります。
ベクトル図の便利さ
ここまでの説明で,サインカーブで表せる電流・電圧の情報を,ベクトル図でも表せることを解説しました。
しかし,”ベクトル図の方が便利だ”とは,まだ感じられないと思います。
ベクトル図が便利になるのは,電圧と電流の関係がもっと複雑になった場合,つまりもっと複雑な回路のときです。
サインカーブで考えると三角関数の複雑な計算が必要になってしまいますが,
ベクトル図で考えると,幾何の問題,つまり図形問題のように解くことができるのです。
ベクトルの大きさは実効値
ベクトルの大きさは,サインカーブの最大値,つまり瞬間的に最大の値となりそうですが,そうではありません。
一般的に,交流電源の電圧や電流の変化をベクトルで表すとき,ベクトルの大きさには,瞬時値ではなく実効値を使います。
実効値とは直流に換算した時の値のことで,この方が取り扱いに便利だからです。
実効値は瞬時値を\( \ \sqrt{2} \ \)で割ったものですから,ベクトルの大きさはこのようになります(図\( \ 23 \ \))。

ベクトルの表記方法①極座標表示
ベクトルは大きさと向きをもつ量です。
例えば\( \ \dot{A} \ \)ベクトルが,大きさ\( \ 100 \ \),角度が\( \ \pi \ \)であれば,次のように書くことができ,これを極座標表記といいます。
\[
\begin{eqnarray}
\dot{A}=100 \angle \pi \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
一般式にすると,大きさ\( \ A \ \),角度が\( \ \theta \ \)であれば,こちらの式になります(図\( \ 24 \ \))。
\[
\begin{eqnarray}
\dot{A}=A \angle \theta \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
ベクトルの表記方法②直交座標表示
表記方法にはもう一種類あります。
ベクトルの始点を原点において,終点が座標上のどの点にくるかを表す方法です。
例えば\( \ \dot{A} \ \)ベクトルが,大きさ\( \ 100 \ \),角度が\( \ \pi \ \)だとしましょう。
始点を原点におくと,終点は\( \ ( 100 , 0 ) \ \)となるので,このように表記します。
\[
\begin{eqnarray}
\dot{A}=(100,0) \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
一般式にすると,こちらです(図\( \ 25 \ \))。
\[
\begin{eqnarray}
\dot{A}=(\mathrm {x},\mathrm {y}) \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]

