【問題】
【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)
次の文章は,三相かご形誘導電動機の始動法に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
三相かご形誘導電動機の全電圧始動では,大きな始動電流が流れ,始動時間が長い場合には巻線を焼損するおそれや,電源系統に電圧変動を招くなどの問題があり,これらを避けるために以下のような始動方法が採用されている。
\( \ \mathrm {Y-\Delta } \ \)(スターデルタ)始動は,誘導電動機の\( \ \fbox { (1) } \ \)の接続を\( \ \mathrm {Y} \ \)(スター)形として始動し,同期速度近くまで加速した後に\( \ \mathrm {\Delta } \ \)(デルタ)形に切り替える始動方法である。この方法での始動電流はデルタ結線のままで全電圧始動する場合の\( \ \fbox { (2) } \ \)に抑えられ,トルクもまた\( \ \fbox { (2) } \ \)に減少する。巻線接続を切り替えるために,外部に切替器を備えている。
始動補償器始動は,始動補償器と呼ばれる\( \ \fbox { (3) } \ \)の二次電圧で定格電圧以下の電圧を加えて電流を抑え始動する方法である。電動機の回転が同期速度に近づいたところで補償器を回路から切り離し全電圧に切り替える。始動補償器の一次電圧と二次電圧の比を\( \ a:1 \ \)とすれば,電動機の電圧は全電圧の\( \ \displaystyle \frac {1}{a} \ \)となり,このときの始動補償器の一次電流は全電圧始動の約\( \ \fbox { (4) } \ \)倍となる。
その他の始動法として誘導電動機の一次側に直列に抵抗器又は\( \ \fbox { (5) } \ \)を挿入して印加電圧を下げて始動電流を制限し,加速後に全電圧運転とする方法がある。始動補償器を用いる場合に比べて始動トルクが減少する欠点があるが,装置が簡易で安価であるので,始動トルクを小さくして始動時の衝撃を避ける目的で用いられることがある。
〔問4の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& リアクトル &(ロ)& \frac {1}{\sqrt {3}} &(ハ)& スコット変圧器 \\[ 5pt ]
&(ニ)& 単巻変圧器 &(ホ)& \frac {1}{3} &(ヘ)& 変流器 \\[ 5pt ]
&(ト)& 制動巻線 &(チ)& 固定子巻線 &(リ)& \frac {1}{\sqrt {3}a} \\[ 5pt ]
&(ヌ)& \frac {1}{9} &(ル)& \frac {1}{a} &(ヲ)& くま取りコイル \\[ 5pt ]
&(ワ)& \frac {1}{a^{2}} &(カ)& 補償巻線 &(ヨ)& 始動用コンデンサ \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【ワンポイント解説】
誘導電動機の始動法に関する問題です。
いずれも\( \ 2 \ \)種や\( \ 3 \ \)種のときから勉強されている方が多い内容で,令和\( \ 3 \ \)年度の機械科目の中では最も得点しやすい問題であったと思います。
\( \ 1 \ \)種受験生だと多くの受験生が完答もしくは間違えても\( \ 1 \ \)つぐらいと予想されるので,本問の内容は確実に理解しておくようしましょう。
1.全電圧始動法
電動機に始動装置を設けずに全電圧を印加して始動する方法です。始動電流が大きいため\( \ 3.7 \ \mathrm {kW} \ \)以下の小容量の電動機の場合にしか用いられません。
2.\( \ \mathrm {Y}-\Delta \ \)始動法
始動時は\( \ \mathrm {Y} \ \)巻線,定格時には\( \ \Delta \ \)巻線で運転する方法です。\( \ \mathrm {Y} \ \)巻線は\( \ \Delta \ \)巻線と比較して電圧が\( \ \displaystyle \frac {1}{\sqrt {3}} \ \)倍となるので,それぞれの始動電流の大きさの比は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {Y}} &=&\frac {\displaystyle \frac {V}{\sqrt {3}}}{Z} \\[ 5pt ]
&=&\frac {V}{\sqrt {3}Z} \\[ 5pt ]
I_{\mathrm {\Delta }} &=&\frac {\displaystyle \sqrt {3}V}{Z} \\[ 5pt ]
\frac {I_{\mathrm {Y}}}{I_{\mathrm {\Delta }}}&=&\frac {\displaystyle \frac {V}{\sqrt {3}Z}}{\displaystyle \frac {\sqrt {3}V}{Z}} \\[ 5pt ]
&=&\frac {1}{3} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となり,始動トルクの比は,
\[
\begin{eqnarray}
\frac {T_{\mathrm {Y}}}{T_{\Delta }} &=&\frac {\displaystyle \left( \frac {V}{\sqrt {3}}\right) ^{2}}{V^{2}} \\[ 5pt ]
&=&\frac {1}{3} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となります。
3.補償器始動法
始動時のみ,三相単巻変圧器を用いて,変圧器のタップを切り替えることによって始動する方法です。電圧を\( \ \displaystyle \frac {1}{n} \ \)倍にすると,始動電流と始動トルクをともに\( \ \displaystyle \frac {1}{n^{2}} \ \)倍にすることができます。
4.リアクトル始動法
始動時のみ,電動機と直列にリアクトルを接続して始動する方法で,始動時の端子電圧を\( \ \displaystyle \frac {1}{n} \ \)倍にすると,始動電流を\( \ \displaystyle \frac {1}{n} \ \)倍,始動トルクを\( \ \displaystyle \frac {1}{n^{2}} \ \)倍にすることができます。
5.巻線形誘導電動機の始動法(二次抵抗法)
二次巻線にスリップリングを介し,外部可変抵抗を接続して始動する方法で,比例推移の原理を利用して,始動電流を抑制します。
6.特殊かご形電動機
始動電流を抑制するため回転子側の形状を工夫した電動機で,これまで説明した方法と切り口を変えた対策を講じた方法です。
①深溝かご形電動機
深溝かご形回転子の概要を図1に示します。図1に示すように深溝かご形回転子は回転子に深いスロットを設け,そこに導体を入れたような構造となっています。始動時回転子内の漏れ磁束は外側ほど小さくなり,始動時ほとんどの電流が導体の外側を流れ,抵抗が大きくなります。その後回転数が上がると,電流は一様に分布するようになり,抵抗が小さくなります。
②二重かご形電動機
二重かご形回転子の概要を図2に示します。図に示すように,二重かご形回転子は,内側と外側に二つの導体を入れ,外側の方を小さく,すなわち高抵抗となるようにします。始動時,深溝かご形回転子と同様に,外側ほど漏れ磁束が小さいので,ほとんどの電流が外側を流れます。その後,回転数が大きくなると,低抵抗である内側の導体を流れるようになります。
7.単相誘導電動機の始動方法
単相誘導電動機は三相誘導電動機と異なり,始動時のトルクが零であるため,何らかの形で回転磁界を発生させ始動する必要があります。
①くま取りコイル形
主磁極の鉄心の端にスロットを設け短絡コイルを巻き,コイルの磁束の変化を妨げる特性を利用して主磁束\( \ \phi _{\mathrm {A}} \ \)と位相の異なる磁界\( \ \phi _{\mathrm {B}} \ \)を発生し電動機を回転させます。\( \ \phi _{\mathrm {B}} \ \)の方が位相が遅れ,あたかも磁束が移動しているようになるため,回転トルクは図の通りくま取りコイルのある側に向かい発生します。
②分相始動形
図のように電気的に\( \ \displaystyle \frac {\pi}{2} \mathrm {[rad]} \ \)ずらした位置に,抵抗が大きくインダクタンスが小さい補助巻線を設け,主巻線電流と補助巻線電流の間に位相差が生じ,回転磁界を得る方法です。回転数が大きくなると,遠心力スイッチにより補助巻線が切り離されます。
③コンデンサ始動形
図のように分相始動形にコンデンサを追加したような方式です。電源電圧\( \ V \ \)よりも補助巻線電流の位相が進みになり,主巻線電流と補助巻線電流の間の位相差が\( \ \displaystyle \frac {\pi}{2} \mathrm {[rad]} \ \)に近づき,より理想的な回転磁界を得られるようになります。
【解答】
(1)解答:チ
題意より解答候補は,(ト)制動巻線,(チ)固定子巻線,(カ)補償巻線,等になると思います。
\( \ \mathrm {Y-\Delta } \ \)始動は,誘導電動機の一次巻線すなわち固定子巻線を\( \ \mathrm {Y} \ \)形として始動し,同期速度近くまで加速した後に\( \ \mathrm {\Delta } \ \)形に切り替える方法です。
(2)解答:ホ
題意より解答候補は,(ロ)\( \ \displaystyle \frac {1}{\sqrt {3}} \ \),(ホ)\( \ \displaystyle \frac {1}{3} \ \),(ヌ)\( \ \displaystyle \frac {1}{9} \ \),等になると思います。
ワンポイント解説「2.\( \ \mathrm {Y}-\Delta \ \)始動法」の通り,\( \ \mathrm {Y}-\Delta \ \)始動では始動電流・トルクとも\( \ \displaystyle \frac {1}{3} \ \)に減少します。
(3)解答:ニ
題意より解答候補は,(ハ)スコット変圧器,(ニ)単巻変圧器,(ヘ)変流器,等になると思います。
ワンポイント解説「3.補償器始動法」の通り,始動補償器始動における始動補償器は単巻変圧器のことをいいます。
(4)解答:ワ
題意より解答候補は,(リ)\( \ \displaystyle \frac {1}{\sqrt {3}a} \ \),(ル)\( \ \displaystyle \frac {1}{a} \ \),(ワ)\( \ \displaystyle \frac {1}{a^{2}} \ \),になると思います。
ワンポイント解説「3.補償器始動法」の通り,始動補償器の一次電圧と二次電圧の比を\( \ a:1 \ \)とした場合,始動補償器の一次電流は全電圧始動の約\( \ \displaystyle \frac {1}{a^{2}} \ \)倍となります。
(5)解答:イ
題意より解答候補は,(イ)リアクトル,(ヲ)くま取りコイル,(ヨ)始動用コンデンサ,になると思います。
ワンポイント解説「4.リアクトル始動法」の通り,誘導電動機の一次側に直列に挿入する始動方法として適切なのはリアクトルとなります。くま取りコイル及び始動用コンデンサはいずれも単相誘導電動機の始動方法となります。