【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
次の文章は,同期発電機の回転子の軸の両端間に発生する電圧に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切な語句を解答群の中から選び,その記号をマークシートに記入しなさい。
同期発電機の回転中に回転子の軸の両端間に電圧が発生する。この発生のメカニズムは,次の二つに大別することができる。
その一つは,構造上の原因から,回転子鉄心の\( \ \fbox { (1) } \ \)が円周方向に不同であると,回転子の軸と鎖交する交番磁束が発生し,軸に起電力を誘導することによるものである。この起電力は,通常,\( \ \fbox { (2) } \ \)程度の大きさである。同期発電機の回転中には,回転子の軸は軸受の油膜の上に乗っているので,この電圧では油膜の絶縁が破壊されるようなことはない。しかし,給油不足などにより油膜が切れて軸と軸受面が金属接触すると,軸,軸受,固定子又はベースからなるほとんど短絡状態に近い閉回路ができ,かなり大きな電流が流れる。この電流は\( \ \fbox { (3) } \ \)と呼ばれている。この電流が大きくなると,それによって軸受面を損傷し,著しい場合には,軸受の過熱損傷を招いて軸に過大な振動が生じ,事故の発生につながる。これを防止するためには,\( \ \fbox { (4) } \ \)に対する鉄心の分割数が最適になるように設計すればよいが,工作上のばらつきは免れないので,軸受メタルの支持部,軸受ブラケットの固定子枠の間,あるいは軸受台とベースの間に絶縁物を入れるなどの対策が採られている。
他の一つは,蒸気タービンに接続された同期発電機に見られる現象で,蒸気の粒子が相互に摩擦したり,あるいはタービンの動翼や軸に高速で衝突又は摩擦したりする際にイオン化し,タービンの軸に\( \ \fbox { (5) } \ \)が生じ,それが軸に蓄積されて電位を高めていくことによるものである。この電位が軸受の油膜の耐電圧以上になると,絶縁を破壊して間欠的に放電し,軸受を損傷することにより,軸振動が増大して事故の発生につながる。これを防止するためには,軸にブラシを取り付ける方法が採られている。
〔問1の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 数ボルト &(ロ)& 短絡電流 &(ハ)& スロット数 \\[ 5pt ]
&(ニ)& 数ミリボルト &(ホ)& 軸電流 &(ヘ)& 磁極数 \\[ 5pt ]
&(ト)& 摩耗粉 &(チ)& 磁気抵抗 &(リ)& 転 位 \\[ 5pt ]
&(ヌ)& 熱起電力 &(ル)& 漏れ電流 &(ヲ)& 静電荷 \\[ 5pt ]
&(ワ)& 数百ボルト &(カ)& 熱伝導率 &(ヨ)& 界磁巻線の巻回数 \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【ワンポイント解説】
タービン発電機に発生する軸電流に関する問題です。
専門性が非常に高く,火力発電を専門にされている方でもしっかりと説明できる方の方が少ない印象の内容です。図解をすれば比較的理解がしやすいので,概要だけでも理解しておくようにして下さい。
1.タービン発電機に発生する軸電流
タービン発電機に発生する軸電流は回転子軸内に発生する電流で,軸受部の損傷や振動が発生する場合があり,以下の2つの要因により発生します。
①回転子鉄心に鎖交する磁束に起因するもの
図1に示すように軸の周りに交番磁束が発生することにより,回転子軸に数\( \ \mathrm {V} \ \)程度の起電力が発生することがあり,それにより軸電流が流れることになります。
通常状態で軸受部に絶縁油が供給され絶縁が確保されている状態であれば軸電流は流れませんが,給油不足等により軸受部の金属同士が接触すると,図1に示すような閉回路ができ抵抗値が小さいため大きな軸電流が流れることになります。
軸の周りの交番磁束は図2に示すように,固定子部のギャップ等により磁気抵抗が一定でないと,固定子上の磁束が不均一となり,合成した磁束が軸の周りを通過するようになり発生します。これを防止するために磁極数に対する鉄心の分割数が最適になるように(図2の例でいくと\( \ 6 \ \)極にする等)し,軸の周りに発生する磁束をなくす方法があります。
また,軸電流を抑制する対策としてタービンの軸受台とベースの間等に絶縁体を挿入する等の対策がなされます。
②タービン軸に蓄積される電荷に起因するもの
図3に示すように,蒸気タービンは\( \ 3 \ 000 \ \mathrm {min}^{-1} \ \)や\( \ 3 \ 600 \ \mathrm {min}^{-1} \ \)で回転し,そこを蒸気が通過するため,衝突したり摩擦によりイオン化し,タービンに正電荷が蓄積されることがあります。この電荷が徐々に蓄積され絶縁油の絶縁を破壊すると放電し,間欠的に電流が流れることになります。
この対策として,タービン軸に電荷が蓄積されないように軸上に黒鉛ブラシを設け,常に大地に放電する等の対策がなされます。

【解答】
(1)解答:チ
題意より解答候補は,(ハ)スロット数,(チ)磁気抵抗,(ヌ)熱起電力,(カ)熱伝導率,(ヨ)界磁巻線の巻回数,等になると思います。
ワンポイント解説「1.タービン発電機に発生する軸電流」の通り,固定子のギャップ等により磁気抵抗が円周方向に不同であると,回転子の軸と鎖交する交番磁束が発生し,軸に起電力を誘導することになります。
(2)解答:イ
題意より解答候補は,(イ)数ボルト,(ニ)数ミリボルト,(ワ)数百ボルト,になると思います。
ワンポイント解説「1.タービン発電機に発生する軸電流」の通り,軸に発生する起電力は数ボルト程度です。
(3)解答:ホ
題意より解答候補は,(ロ)短絡電流,(ホ)軸電流,(ル)漏れ電流,になると思います。
ワンポイント解説「1.タービン発電機に発生する軸電流」の通り,回転子軸上に発生する電流は軸電流と呼ばれます。
(4)解答:ヘ
題意より解答候補は,(ハ)スロット数,(ヘ)磁極数,(ヨ)界磁巻線の巻回数,になると思います。
ワンポイント解説「1.タービン発電機に発生する軸電流」の通り,磁極数に対する鉄心の分割数が最適になるように設計すると,起電力は発生しないことになります。例えば,図4のように\( \ 6 \ \)極とすることで,軸を鎖交する磁束がなくなることがわかるかと思います。

(5)解答:ヲ
題意より解答候補は,(ト)摩耗粉,(リ)転位,(ヌ)熱起電力,(ヲ)静電荷,等になると思います。
ワンポイント解説「1.タービン発電機に発生する軸電流」の通り,蒸気の粒子が相互に摩擦したり,あるいはタービンの動翼や軸に高速で衝突又は摩擦したりする際にイオン化し,タービンの軸に静電荷が生じ,それにより電圧が発生することになります。