【問題】
【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)
電力系統の周波数制御に関して,次の問に答えよ。
(1) 電力系統の周波数が規定範囲を超えて低下すると,電気使用側では精密機械の誤動作や製品の品質低下などの問題が発生する可能性がある。一方,このとき,電力供給側の汽力発電設備にはどのような問題が発生する可能性があるか\( \ 50 \ \)字程度で答えよ。
(2) 系統事故時を除く周波数変動の主な原因には,負荷の変動と再生可能エネルギー電源の出力変動がある。このうち,負荷の変動は,変動周期により次のa)~c)に大別される。a)~c)について,どのように発電量を調整するか,それぞれ\( \ 80 \ \)字程度で答えよ。
a) 日間周期変化を持つもので工場の稼働,事務所の冷暖房,夕方の点灯などによって生じる負荷変動
b) 数分~数十分ぐらいの比較的短時間の間に頻繁に起きる負荷変動
c) きわめて短時間の偶発的な負荷変動
(3) 日本の電力系統では,連系状態に応じて,\( \ 2 \ \)種類の負荷周波数制御方式が採用されている。これについて次の問に答えよ。
a) 制御方式の一つは定周波数制御方式である。この制御方式はどのような系統に採用されているか\( \ 50 \ \)字程度で答えよ。
b) 日本で採用されているもう一つの負荷周波数制御方式の名称を答えよ。
【ワンポイント解説】
電力系統における周波数変動の影響と周波数制御に関する問題です。
いずれの内容も\( \ 1 \ \)種や\( \ 2 \ \)種の過去問において,出題されたことがある内容なので,答えられる受験生も多かったと予想されます。
今後の類題の再出題も十分に考えられる問題なので,必ず理解しておくようにしましょう。
1.周波数変動による影響
系統周波数は有効電力の需給バランスにより変動し,供給>需要の場合には周波数増加,供給<需要の場合には周波数が低下します。周波数が変動すると電力供給側,電気使用側それぞれに以下のような悪影響が生じてしまいます。
①電力供給側
・火力発電設備のタービン(特に低圧タービン最終段翼)の振動
・ボイラ燃焼制御,給水制御の不安定化
・発電機補機の出力減退
・発電機電圧の不安定
・変圧器の過励磁
・電力会社間連系線の潮流制御の困難化
②電気使用者側
・工場の精密機械の誤動作
・電動機の回転数が変化することによる製品の悪化(特に紡績工場や製紙工場ではその影響が大きい)
・周波数低下による電動機の運転効率低下
・周波数積分偏差値の影響による電気時計の誤差の増大
2.電力系統における周波数調整方法
①微小変動(数秒~数十秒の変動)
負荷の自己制御性を利用して調整します。一般的な回転機負荷は周波数が上がると消費電力が増え,周波数が下がると消費電力が減少します。この特性を利用し周波数を制御します。
②短周期変動(数秒~数分程度の変動)
発電系統のガバナフリー運転で調整します。発電機の調速機によって周波数変化量から出力変化量を約\( \ 1.0 \ \mathrm {[%MW/0.1Hz]} \ \)程度で調整します。例えば火力発電所であったら,タービン入口のガバナ開度を周波数が低い場合は増加し,周波数が高い場合は減少させて蒸気流入量を調整します。
③長周期変動(数分~数十分の変動)
系統の周波数と基準周波数の偏差を検出して中央給電指令所からの制御信号に伴い,負荷周波数制御\( \ \left( \mathrm {LFC}\right) \ \)で調整します。火力発電所であれば,中央給電指令所からの信号に合わせ出力をコントロールさせます。
④日負荷変動(数十分~数時間の変動)
天候,気温,湿度等のデータを元に需要予測を決定し,出力配分を各発電所の信号へ送ります。経済負荷配分制御\( \ \left( \mathrm {ELD}\right) \ \)により最も経済的な配分を行い,各発電機の出力調整,起動停止等を行います。
3.負荷周波数制御\( \ \left( \mathrm {LFC}\right) \ \)の種類
①定周波数制御\( \ \left( \mathrm {FFC}\right) \ \)
系統周波数の変化量を検出して,\( \ 50 \ \mathrm {Hz} \ \)もしくは\( \ 60 \ \mathrm {Hz} \ \)の規定周波数を維持するように発電出力を調整する制御です。単独系統の北海道電力,沖縄電力または最も大きな系統である東京電力ホールディングスで採用されている方式です。
②定連系線電力制御\( \ \left( \mathrm {FTC}\right) \ \)
連系線の潮流を検出して,連系線の潮流を維持するように発電出力を調整する制御です。連系系統内の小系統側が連系線の潮流を制御する場合に適した方式ですが,日本では採用されていません。
③周波数バイアス連系線電力制御\( \ \left( \mathrm {TBC}\right) \ \)
系統周波数の変化量と連系線の潮流を検出して,自系統内で負荷変動が生じた場合に発電出力を調整する制御です。北海道電力,沖縄電力,東京電力ホールディングス以外の電力会社で採用されている方式です。
【解答】
(1)周波数が規定範囲を超えて低下した際に,電力供給側の汽力発電設備に発生する可能性がある問題
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.周波数変動による影響」の通りです。
・試験センターの解答には触れられていないですが,補機の出力が低下するので,ボイラ燃焼制御,給水制御の不安定化も正答と判断されると考えられます。
(試験センター解答)
翼長の長い低圧タービン動翼に共振により振動が発生,又は補機の出力が低下して運転が停止する可能性がある。
(2)a)日間周期変化によって生じる負荷変動の調整
(ポイント)
・ワンポイント解説「2.電力系統における周波数調整方法」の通りです。
・模範解答では使用されていませんが,経済負荷配分制御\( \ \left( \mathrm {ELD}\right) \ \)という用語を使用しても加点対象になるかと思います。
(試験センター解答例)
予想日負荷曲線を作成し,発電事業者等の発電計画により対処する。予想から外れた部分については,調整力である水力発電所又は火力発電所等に指令して発電量を調整する。
(2)b)数分~数十分ぐらいの比較的短時間の間に頻繁に起きる負荷変動の調整
(ポイント)
・ワンポイント解説「2.電力系統における周波数調整方法」の通りです。
・こちらも模範解答では使用されていませんが,負荷周波数制御\( \ \left( \mathrm {LFC}\right) \ \)という用語を使用しても加点対象になるかと思います。
(試験センター解答例)
系統周波数を計測して基準周波数からの偏差を検出し,調整力である水力発電所又は火力発電所等に,変動分に応じた出力調整を自動で指令して発電量を調整する。
(2)c)きわめて短時間の偶発的な負荷変動の調整
(ポイント)
・ワンポイント解説「2.電力系統における周波数調整方法」の通りです。
(試験センター解答例)
発電所の内,周波数が下がった場合に出力を上昇させ,周波数が上がった場合に出力を低下させるガバナフリー運転機能を有する発電機により発電量を調整する。
(3)a)定周波数制御方式どのような系統に採用されているか
(ポイント)
・ワンポイント解説「3.負荷周波数制御\( \ \left( \mathrm {LFC}\right) \ \)の種類」の通りです。
・最も大きい系統のみでなく,単独系統でも使用されていることも記載するべきでしょう。
(試験センター解答例)
交流の単独系統,又は連系している他の交流系統に比べて,系統容量が大きい系統に採用されている。
(3)b)日本で採用されているもう一つの負荷周波数制御方式の名称
(ポイント)
・ワンポイント解説「3.負荷周波数制御\( \ \left( \mathrm {LFC}\right) \ \)の種類」の通りです。
(試験センター解答例)
周波数バイアス連系線電力制御方式\( \ \left( \mathrm {TBC}\right) \ \)