【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
次の文章は,電池に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切な語句又は数値を記述用紙の解答欄に記入しなさい。ただし,リチウムの原子量は\( \ 6.94 \ \),亜鉛の原子量は\( \ 65.4 \ \)とする。
電池には一次電池と二次電池がある。このうち充電しない一次電池の代表はマンガン乾電池である。近年では,一次電池にもエネルギー密度の高いリチウムを利用した電池が数多く利用されるようになってきた。このリチウム一次電池では金属リチウムが負極として利用され,そこでは金属リチウムが\( \ \fbox { (1) } \ \)され,リチウムイオンとなる。マンガン乾電池では負極に亜鉛が利用される。負極の単位質量当たりで比べると,得られるリチウム一次電池とマンガン乾電池での電気量比は,理論的にリチウム/亜鉛で\( \ \fbox { (2) } \ \)倍となる。すなわち,リチウム電池が圧倒的に大きな電気量が得られることになる。 リチウムは金属の中でも酸化還元電位が最も卑な金属である。したがって,正極に二酸化マンガンを利用するリチウム電池は,マンガン乾電池公称電圧の\( \ \fbox { (3) } \ \mathrm {[V]} \ \)に比べて高い電圧が得られる。電解液としては水溶液を用いることはできないので,炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)のような\( \ \fbox { (4) } \ \)溶媒に過塩素酸リチウムを加えたものが多く利用されている。
マンガン乾電池では電解液として塩化アンモニウム,水酸化カリウム等の水溶液が用いられる。ここで亜鉛は水素に比べると\( \ \fbox { (5) } \ \)の大きいことが,電圧を決めるとともに,亜鉛負極の腐食問題に大きく関係している。
【ワンポイント解説】
リチウム一次電池とマンガン乾電池の比較や特徴を問う問題です。
近年はリチウムイオン二次電池が普及し,その知識が問われることが圧倒的に多いので,そこから正答を導き出せるようにすると良いかと思います。
1.マンガン乾電池
正極に二酸化マンガン,負極に亜鉛,電解液に塩化亜鉛を用いるものが一般的で,電解液に水酸化カリウムを用いたものをアルカリマンガン乾電池(アルカリ乾電池)といいます。
特徴
・一次電池として最も広く長く利用されている
・公称電圧は\( \ 1.5 \ \mathrm {V} \ \)程度
・アルカリマンガン乾電池の方が容量は大きいが,マンガン乾電池はしばらく時間が経過すると電圧が回復する性質がある
・アルカリマンガン乾電池の低価格化に伴い,現在はアルカリマンガン乾電池が主流となっている
2.リチウムイオン電池
リチウムイオンが移動することにより充放電を行うことから「リチウムイオン電池」と呼ばれます。エネルギー密度が非常に高く高い起電力を得ることができ,常温で使用可能なので,パソコンや携帯電話等日常的に扱うものにも多く採用されています。
①化学反応式(反応式は暗記不要です)
正 極:\( \ \displaystyle \mathrm {CoO_{2}+Li^{+} + e^{-}\array { 放電 \\ ⇄ \\ 充電 }LiCoO_{2}} \ \)
負 極:\( \ \displaystyle \mathrm {LiC_{6} \array { 放電 \\ ⇄ \\ 充電 } C_{6} + Li^{+}+ e^{-}} \ \)
全 体:\( \ \displaystyle \mathrm {LiC_{6}+CoO_{2} \array { 放電 \\ ⇄ \\ 充電 }LiCoO_{2} + C_{6}} \ \)
②特徴
・エネルギー密度が高く(鉛蓄電池の約\( \ 5 \ \)倍),公称電圧も\( \ 3.6~3.7 \ \mathrm {V} \ \)と高い。
・浅い充電と放電を繰り返すことで電池の容量が減ってしまうメモリー効果という現象が発生しない。
・\( \ 500 \ \)回以上の充放電が可能で,高寿命である。
・高速充電が可能で,充放電効率も良い。
・液体を使用せず凍ることがないため,氷点下から\( \ 60 \ \)℃の高温まで使用可能である。
・充放電時における材料の不安定化により,発火・爆発等の危険性があるため,充放電時の監視保護が別に必要となる。
3.金属のイオン化傾向
金属のイオンのなりやすさを示す指標で以下のような順番になります。高校の化学で覚え方も習ったと思います。
\[
\begin{eqnarray}
\mathrm {K}→\mathrm {Ca}→\mathrm {Na}→\mathrm {Mg}→\mathrm {Al}→\mathrm {Zn}→\mathrm {Fe}→\mathrm {Ni}→\mathrm {Sn}→\mathrm {Pb} \\[ 5pt ]
→\mathrm {( H ) }→\mathrm {Cu}→\mathrm {Hg}→\mathrm {Ag}→\mathrm {Pt}→\mathrm {Au} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【覚え方】
かそうかな、まああてにするな、ひどすぎる借金
【解答】
(1)解答:酸化
ワンポイント解説「2.リチウムイオン電池」の通り,負極では金属リチウムが電子を失いリチウムイオンとなる酸化反応が起こります。この空欄は電子を失う反応が酸化反応,電子を受け取る反応が還元反応であることが問われています。
(2)解答:\(4.71\)
リチウムは\( \ 1 \ \)価の原子,亜鉛は\( \ 2 \ \)価の原子であり,それぞれの反応は以下の通りとなります。
\[
\begin{eqnarray}
\mathrm {Li}&→&\mathrm {{Li}^{+} + e^{-}} \\[ 5pt ]
\mathrm {Zn}&→&\mathrm {{Zn}^{2+} + 2e^{-}} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
それぞれ\( \ 1 \ \mathrm {g} \ \)から取り出せる電気量のモル換算\( \ M_{L} \ \mathrm {[mol]} \ \)及び\( \ M_{Z} \ \mathrm {[mol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
M_{L}&=&\frac {1}{6.94}\times 1 \\[ 5pt ]
&=&\frac {1}{6.94} \\[ 5pt ]
M_{Z}&=&\frac {1}{65.4}\times 2 \\[ 5pt ]
&=&\frac {1}{32.7} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
なので,その比は,
\[
\begin{eqnarray}
\frac {M_{L}}{M_{Z}}&=&\frac {\displaystyle \frac {1}{6.94}}{\displaystyle \frac {1}{32.7}} \\[ 5pt ]
&=&\frac {32.7}{6.94} \\[ 5pt ]
&≒&4.71 \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
と求められる。
(3)解答:\(1.5\)
ワンポイント解説「1.マンガン乾電池」の通り,マンガン乾電池の公称電圧は\( \ 1.5 \ \mathrm {[V]} \ \)となります。
(4)解答:有機
炭酸プロピレンのような炭素を含む溶媒を有機溶媒といいます。
(5)解答:イオン化傾向
ワンポイント解説「3.金属のイオン化傾向」の通り,亜鉛は水素よりもイオン化傾向が大きいので,酸化しやすく腐食しやすい特徴があります。