《電力》〈変電〉[H20:問2]変圧器の電気的保護装置と機械的保護装置に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,変圧器の保護装置に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切な語句を解答群の中から選び,その記号をマークシートに記入しなさい。

変圧器保護装置の種類には,電気的保護装置と機械的保護装置がある。

電気的保護装置として主に用いられるものに,過電流リレーや比率差動リレーがある。比率差動リレーは,変圧器一次と二次間の差電流によって事故電流の小さな内部事故も検出できるものであるが,変圧器充電操作に伴う\( \ \fbox {  (1)  } \ \)電流や各変流器の特性差などによって誤動作しないよう対策が必要である。\( \ \fbox {  (1)  } \ \)電流には事故電流に比べて\( \ \fbox {  (2)  } \ \)が多く含まれることを利用した\( \ \fbox {  (2)  } \ \)抑制付きリレーなどの誤動作対策がある。

電気的保護装置では検出できない変圧器内部の\( \ \fbox {  (3)  } \ \)事故やターン間の絶縁不良事故などを検出するために,機械的保護装置が設置される。これには,絶縁油の分解ガスを検出するガス蓄積形と油流の増大を検出する油流形,この二つを組み合わせた\( \ \fbox {  (4)  } \ \)リレー,そして分解ガス発生による圧力の急上昇を検出する\( \ \fbox {  (5)  } \ \)リレーなどがある。\( \ \fbox {  (4)  } \ \)リレーは,地震等の振動による誤動作の心配があることから,耐震性の優れた\( \ \fbox {  (5)  } \ \)リレーが多く採用されている。

〔問2の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 開閉サージ     &(ロ)& 断 線     &(ハ)& 分解ガス圧 \\[ 5pt ] &(ニ)& ヤンセン式     &(ホ)& 油 温     &(ヘ)& 逆相成分 \\[ 5pt ] &(ト)& フルフラール       &(チ)& ブッフホルツ       &(リ)& 励磁突入 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 零相成分     &(ル)& 高調波     &(ヲ)& 相間短絡 \\[ 5pt ] &(ワ)& 衝撃油圧     &(カ)& 回り込み     &(ヨ)& 一次・二次間短絡 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

変圧器の保護装置に関する問題です。
変圧器は基本的に外箱で囲われているため目視点検では異常を見つけにくく,内部異常を早期に発見するためには様々な保護継電器を組み合わせる必要があります。
\( \ 2 \ \)種でも類題が出題されたことがあるため,過去問学習を多くされている方は完答も目指せる問題かと思います。

1.変圧器に用いられる保護継電器
変圧器内部で発生する事故には,巻線間短絡事故,巻線と鉄心間の地絡事故,高圧巻線と低圧巻線の混触事故,巻線の断線事故,等があり以下の電気的,機械的及び熱的保護装置により検出されます。

①電気的保護装置
変圧器で最も多いのは巻線間短絡事故ですが,一般の過電流リレーや地絡リレーでの検出が困難なため,図1に示すような比率差動継電器が用いられます。
比率差動継電器は,変圧器の一次側と二次側電流を\( \ \mathrm {CT} \ \)を介して検出し,一次側と二次側の差が分かるようにする継電器で,通常時は図1(a)のように動作コイルに流れる電流がほぼ零となるように整定され,異常発生時は図1(b)のように動作コイルに流れる電流が零でなくなります。しかし,一次側と二次側\( \ \mathrm {CT} \ \)の違いや誤差等により,厳密に動作コイルに流れる電流を零とすることができないため,抑制コイルを設けています。また,抑制コイルには外部事故が発生した際等の誤動作防止の役割もあります。

②機械的保護装置
事故発生時には,変圧器内部の油圧変化,ガス圧変化,油流変化等が起こります。代表的な保護装置には以下の継電器があります。また,変圧器内の圧力上昇を抑制するために放圧装置というものも変圧器上部に設けられています。
・衝撃圧力継電器
 タンク内の側壁に取り付けられ,事故時に発生する分解ガスによる内部の圧力上昇を検出します。
・ブッフホルツ継電器
 タンク内とコンサベータを結ぶ連結部に用いられ,ガスが徐々に溜まりマイクロスイッチを叩くと動作します。地震等の振動で誤動作しやすいので、信頼度もあまり高くなく警報回路のみに使用されることが多いです。


出典:公益財団法人 日本電気技術者協会 電気技術解説講座 特別高圧用変圧器の機械的保護継電器
URL:https://jeea.or.jp/course/contents/08204/

③熱的保護・監視装置
変圧器に使用する絶縁油の油温度や巻線温度の上昇を検出するために,ダイヤル温度計や巻線温度指示装置が設けられています。
もちろん通常運転時にも油温度や巻線温度は上昇するため,異常に温度が上昇したときのみ警報が発信されるようになっています。

2.励磁突入電流
変圧器を遮断器投入によって電路に接続すると,投入時の電圧の位相によっては定格電流の数倍から十数倍の大きな励磁電流が流れることがあり,これを励磁突入電流といいます。
ファラデーの電磁誘導の法則より,電圧\( \ e \ \mathrm {[V]} \ \)と磁束\( \ \phi \ \mathrm {[Wb]} \ \)には,
\[
\begin{eqnarray}
e&=&-N\frac {\mathrm {d}\phi }{\mathrm {d}t} \\[ 5pt ] N\mathrm {d}\phi &=&-e\mathrm {d}t \\[ 5pt ] N\int \mathrm {d}\phi &=&-\int e\mathrm {d}t \\[ 5pt ] N\phi &=&-\int e\mathrm {d}t \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] という積分の関係があるため,仮に正弦波の電圧が加わっている状態で図2の+から-に切り替わる\( \ 0 \ \mathrm {[V]} \ \)付近で投入された場合には,最大で\( \ 2 \ \)倍程度の磁束が発生し,残留磁束の影響でさらに磁束が大きくなると鉄心の飽和磁束密度を超えて大きな励磁電流が流れる可能性があります。
したがって,励磁突入電流の対策としては励磁磁束と残留磁束の合計値を小さくすれば良いので,残留磁束の消去や投入位相の制御等が有効となります。
また,励磁突入電流の特徴として,
 ・第二調波成分を多く含む。
 ・残留磁束と同極性の電圧が位相差がなく印加された時最大となる。
 ・励磁突入電流の大きさは最大で定格の\( \ 10 \ \)倍以上となることがある。
 ・励磁突入電流の継続時間は小容量で数秒程度,大容量では\( \ 10 \ \)秒以上にもなる。
等があるので,比率差動継電器においても,
・変圧器投入後一定時間継電器をロックする方法
・第二調波抑制付比率差動電器を用いる方法
等の対策がとられます。

【解答】

(1)解答:リ
題意より解答候補は,(イ)開閉サージ,(リ)励磁突入,(ル)高調波,(カ)回り込み,になると思います。
ワンポイント解説「2.励磁突入電流」の通り,変圧器充電操作により発生するのは励磁突入電流となります。

(2)解答:ル
題意より解答候補は,(ヘ)逆相成分,(ヌ)零相成分,(ル)高調波,になると思います。
ワンポイント解説「2.励磁突入電流」の通り,励磁突入電流に含まれるのは第二調波を主とした高調波で,高調波抑制付きリレーなどの誤動作対策があります。

(3)解答:ロ
題意より解答候補は,(ロ)断線,(ヲ)相間短絡,(ヨ)一次・二次間短絡,等になると思います。
電気的保護装置では検出できない変圧器内部の断線事故やターン間の絶縁不良事故などを検出するために,機械的保護装置が設置されます。

(4)解答:チ
題意より解答候補は,(チ)ブッフホルツ,(ワ)衝撃油圧,等になると思います。
ワンポイント解説「1.変圧器に用いられる保護継電器」の通り,絶縁油の分解ガスを検出するガス蓄積形と油流の増大を検出する油流形,の二つを組み合わせたリレーをブッフホルツリレーといいます。

(5)解答:ワ
題意より解答候補は,(チ)ブッフホルツ,(ワ)衝撃油圧,等になると思います。
ワンポイント解説「1.変圧器に用いられる保護継電器」の通り,ブッフホルツリレーは地震等の振動による誤動作の心配があることから,耐震性の優れた衝撃油圧リレーも採用されます。



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