《電力・管理》〈電気施設管理〉[H21:問6]電力需要に対する供給力の分類と供給予備力に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)

時々刻々変動する電力需要に対する供給力の運用上の分類と供給予備力について,次の問に答えよ。

(1) 次の三つに区分された供給力について,それぞれ①日負荷曲線上の分担とその役割,及び②対応する電源種別について述べよ。ただし,水力発電所については,発電方式(水の使用方法による分類)別に示すこと。 また,火力発電所については,運用における技術的特性の概要を示すこと。

 a.ベース供給力

 b.ミドル供給力

 c.ピーク供給力

(2) 次の三つの供給予備力について,①それぞれを必要とする対象要因,②予備力を発揮するまでの時間特性,及び③対応する発電所について述べよ。

 d.待機予備力

 e.運転予備力

 f.瞬動予備力

【ワンポイント解説】

電力需要に対する供給力の運用上の分類と供給予備力に関する問題です。
電力需要は気温,天候,時間,等により日々刻々と変化するため,コストを最小化し,かつ環境面も考慮に入れた運用がなされる必要があります。特に近年は太陽光発電をはじめとした新エネルギー発電の普及により,さらに運用が複雑化しています。

1.供給力の区分
電力は原則蓄えることができない(同時同量の原則)ため,日負荷曲線で示される需要カーブに応じて,常に発電所全体の出力をコントロールする必要があり,供給力は主に以下の三つに区分されます。

① ベース供給力
 需要カーブに関係なくほぼ一定に運転するもので,原子力,石炭火力,流れ込み式水力,地熱,等があります。一般に発電コストが安いもの,出力調整ができないもの,が該当します。

② ミドル供給力
 \( \ 1 \ \)日の需要カーブに沿って出力を調整しながら運転,もしくは停止するもので,コンバインドサイクル発電をはじめとする\( \ \mathrm {LNG} \ \)火力,等があります。ベース供給力よりは発電コストは高いですが出力調整がしやすいもの,が該当します。

③ ピーク供給力
 \( \ 1 \ \)日の需要カーブのピークに合わせて運転を行い,需要が低い時間帯は停止もしくは最低負荷運転,揚水発電においては揚水,等を行うもので,石油火力,揚水式水力,調整池式・貯水池式水力,等があります。発電コストが高いものや調整がしやすいもの,が該当します。

2.近年の電力需給カーブと電源構成
近年は太陽光発電をはじめとした自然エネルギーの普及に伴い電力需給のバランスが変化してきており,特に下図に示すように気候が比較的穏やかで日照量も多い5月等は日中の発電量が電力需要を上回り,太陽光発電の出力制限をかける事例も発生してきています。
一方\( \ \mathrm {NAS} \ \)電池をはじめとした,電力貯蔵用の大型の蓄電池の技術も向上し,こちらは負荷平準化に貢献しています。
自然エネルギー普及前から使用されている電源はベース供給力(原子力,石炭火力,流れ込み式水力等),ミドル供給力(天然ガス等),ピーク供給力(石油火力,揚水式水力)に分けられていましたが,これに自然エネルギーの要素が加わり,より高度な需給調整が必要になってきたと言えるでしょう。

出典:自然エネルギー庁 広報パンフレット 日本のエネルギー
URL:https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2022.pdf

3.供給予備力の種類
日々刻々と変化する電力需要に対する供給予備力は,その変動量や応答時間等により以下の\( \ 3 \ \)種類に分けられています。

① 待機予備力
 主に火力発電所,特に石油火力発電所等で,発電機を停止して,数時間後に立ち上げられるような状態にしておくものを言います。
 電源系統や送電系統の不具合等により計画的に停止しなければならない場合等に立ち上げることがあります。

② 運転予備力
 部分負荷運転中の火力発電,ダム式や揚水式水力等数分後に供給力を上げることができる発電設備の割合です。
 不具合等で電源を即時停止しなければならない場合等に立ち上げることがあります。

③ 瞬動予備力
 ガバナフリー運転時の余力等があり,\( \ 10 \ \)秒以内に急速に出力を上昇して,部分負荷運転中の火力発電が出力上昇するまで,系統周波数を許容範囲内に維持する予備力となります。

【解答】

(1)各供給力の日負荷曲線上での分担とその役割,対応する電源種別
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.供給力の区分」の通りです。
・近年の動向を考慮し「2.近年の電力需給カーブと電源構成」の内容も入れても良いかと思います。

(試験センター解答)
a.ベース供給力
①日負荷曲線上の分担とその役割
 \( \ 1 \ \)日の変動する需要のうち,ほぼ一定のベース部分を分担し,長時間安定的に発電する。

②対応する電源種別
 流れ込み式水力発電所,地熱発電所,原子力発電所及び高効率の火力発電所が充てられる。

b.ミドル供給力
①日負荷曲線上の分担とその役割
 ベース需要とピーク需要の中間部分を分担し,需要の日間変化に応じて,日間起動停止を行うとともに出力調整運転を行う。

②対応する電源種別
 ベース火力より熱効率が多少劣っても,毎日の起動停止の容易な火力発電所が充てられる。

c.ピーク供給力
①日負荷曲線上の分担とその役割
 \( \ 1 \ \)日の変動する需要のうち,需要が最も大きくなるピーク部分を分担し,急激な出力変化や負荷変動に対応する。

②対応する電源種別
 急激な出力変化能力を有する水力発電所のうち,調整池式及び貯水池式の一般水力発電所と揚水式水力発電所が充てられる。また,水力発電所以外では,ベース火力やミドル火力よりも熱効率が劣っても始動時間が短く負荷追随性のよい火力発電所が充てられる。

(2)供給予備力について,それぞれを必要とする対象要因,予備力を発揮するまでの時間特性,対応する発電所
(ポイント)
・ワンポイント解説「3.供給予備力の種類」の通りです。
・予備力は保有するほどコストがかかりますので,大きく\( \ 3 \ \)つに区分されることになります。

(試験センター解答)
d.待機予備力
①必要とする対象要因
 需要想定値に対する持続的増加,水力の渇水,停止までに相当の時間的余裕のある電源に対応する。

②予備力を発揮するまでの時間特性
 始動から最大出力まで数時間かかる。

③対応する発電所
 必要な出力到達後は長時間運転継続できる停止待機中の火力発電所が対応する。

e.運転予備力
①必要とする対象要因
 天候急変などによる需要の急増や電源を即時又は短時間内に停止・出力抑制しなければならない場合に対応する。

②予備力を発揮するまでの時間特性
 \( \ 10 \ \)分程度以内の短時間で供給力増加が可能である。

③対応する発電所
 待機予備力が発電するまでの間,継続して運転できる部分負荷運転中の発電所が対応する。

f.瞬動予備力
①必要とする対象要因
 電源脱落時の大きな周波数低下に対して,即座に出力増加しなければならない場合に対応する。

②予備力を発揮するまでの時間特性
 運転予備力の一部であるが\( \ 10 \ \)秒程度以内で対応する。

③対応する発電所
 運転予備力が発電するまでの間継続して運転できるガバナフリー運転の発電所が対応する。



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