《機械》〈電気化学〉[R06:問6]鉛蓄電池の反応に関する計算・空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,鉛蓄電池に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

鉛蓄電池は\( \ 100 \ \)年以上の歴史を持ち,自動車用,産業用の非常用電源装置,電動フォークリフト等の様々な用途があり,充放電の電極反応は以下の式で表される。

 正極  \( \ \mathrm {PbO_{2}} + \ \fbox {  (1)  } \ \mathrm {H^{+}} + \mathrm {{HSO_{4}}^{-}} + 2 \mathrm {e^{-}} ⇄ \mathrm {PbSO_{4}} + 2 \mathrm {H_{2}O} \ \)
 負極  \( \ \mathrm {Pb} + \mathrm {{HSO_{4}}^{-}} ⇄ \mathrm {PbSO_{4}} + \mathrm {H^{+}} + 2 \mathrm {e^{-}} \ \)
 全反応 \( \ \mathrm {Pb} + 2 \mathrm {H_{2}SO_{4}} + \mathrm {PbO_{2}} ⇄ 2 \mathrm {PbSO_{4}} + 2 \mathrm {H_{2}O} \ \)

全反応は,二酸化鉛と鉛が硫酸と反応して硫酸鉛と水になる反応であり,放電反応で正極の二酸化鉛は\( \ \fbox {  (2)  } \ \)される。公称電圧は\( \ 2 \ \mathrm {V} \ \)であり,ニッケル-水素化物電池などの他の水溶液電解質を用いる電池と比較して\( \ \fbox {  (3)  } \ \)い。また,放電すると電解質は\( \ \fbox {  (4)  } \ \)くなる。鉛蓄電池の構成材料のモル質量をそれぞれ\( \ \mathrm {Pb} \ \)は\( \ 207.2 \ \mathrm {g / mol} \ \),\( \ \mathrm {H_{2}SO_{4}} \ \)は\( \ 98.1 \ \mathrm {g / mol} \ \),\( \ \mathrm {PbO_{2}} \ \)は\( \ 239.2 \ \mathrm {g / mol} \ \),硫酸濃度\( \ 38 \ \mathrm {%} \ \)とすると,質量あたりの理論容量は\( \ \fbox {  (5)  } \ \mathrm {A\cdot h / kg} \ \)である。公称電圧\( \ 12 \ \mathrm {V} \ \),\( \ 20 \ \)時間率容量\( \ 12.0 \ \mathrm {A\cdot h} \ \),重量\( \ 3.9 \ \mathrm {kg} \ \)の集合電池の重量エネルギー密度は\( \ \fbox {  (6)  } \ \mathrm {W\cdot h / kg} \ \)である。
なお,ファラデー定数は\( \ 26.80 \ \mathrm {A\cdot h / mol} \ \)とせよ。

〔問6の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 1.86          &(ロ)& 2         &(ハ)& 3 \\[ 5pt ] &(ニ)& 3.08     &(ホ)& 4      &(ヘ)& 36.9 \\[ 5pt ] &(ト)& 41.7     &(チ)& 55.7     &(リ)& 83.4 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 高     &(ル)& 低     &(ヲ)& 活性化 \\[ 5pt ] &(ワ)& 酸化     &(カ)& 還元     &(ヨ)& 変わらな \\[ 5pt ] &(タ)& 薄     &(レ)& 濃        && \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

鉛蓄電池の反応と容量やエネルギー密度の計算に関する問題です。
リチウムイオン電池全盛期の現在ですが,鉛蓄電池もガソリン自動車のバッテリーや産業用の機械,非常用電源装置等に広く利用されています。
まだまだ鉛蓄電池の需要はなくならず,活躍は続くと思いますので,本問の内容は必ず理解するようにしましょう。

1.鉛蓄電池
代表的な二次電池(蓄電池)の一つで,正極と負極では以下のような反応となります。
放電時は,正極では鉛原子の価数が\( \ 4 \ \)の\( \ \mathrm {PbO_{2}} \ \)から価数が\( \ 2 \ \)の\( \ \mathrm {PbSO_{4}} \ \)に変わり電子を受け取る還元反応,負極では鉛原子の価数が\( \ 0 \ \)の\( \ \mathrm {Pb} \ \)から価数が\( \ 2 \ \)の\( \ \mathrm {PbSO_{4}} \ \)に変わり電子を放出する酸化反応となります。充電時は逆に正極が電子を放出する酸化反応,負極が電子を受け取る酸化反応となります。

【反応式】
\[
\begin{eqnarray}
 正極&:& \mathrm {PbO_{2}} &+& \mathrm {3H^{+}} + \mathrm {{HSO_{4}}^{-}} + \mathrm {2e^{-}} &\array { 放電 \\ ⇄ \\ 充電 }& \mathrm {PbSO_{4}} &+& \mathrm {2H_{2}O } \\[ 5pt ]  負極&:& \mathrm {Pb} &+& \mathrm {{HSO_{4}}^{-}} &\array { 放電 \\ ⇄ \\ 充電 }& \mathrm { PbSO_{4}} &+& \mathrm {H^{+}} + \mathrm {2e^{-} } \\[ 5pt ] \hline
 全体&:& \mathrm {Pb} &+& \mathrm {PbO_{2}} + \mathrm {2H_{2}SO_{4}} &\array { 放電 \\ ⇄ \\ 充電 }& \mathrm {2PbSO_{4}} &+& \mathrm {2H_{2}O } \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

2.電気分解におけるファラデーの法則
電極に析出する物質の質量\( \ W \ \mathrm {[g]} \ \)は溶液を通過する電気量\( \ Q \ \mathrm {[C]} \ \)に比例する(第\( \ 1 \ \)法則)もしくは物質の化学当量(=原子量\( \ m \ \)/原子価\( \ n \ \))に比例する(第\( \ 2 \ \)法則)という法則で,ファラデー定数を\( \ F≒96 \ 500 \ \mathrm {[C / mol]} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&\frac {1}{F}\cdot \frac {m}{n} Q \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。また,電流\( \ I \ \mathrm {[A]} \ \)を時間\( \ t \ \mathrm {[s]} \ \)通電していたとすると,\( \ Q=It \ \)の関係から,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&\frac {1}{F}\cdot \frac {m}{n} It \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

※ファラデーの法則を覚えても良いですが,できるだけ単位や化学式を用いた解法をマスターするようにしましょう。

【解答】

(1)解答:ハ
題意より解答候補は,(ロ)\( \ 2 \ \),(ハ)\( \ 3 \ \),(ホ)\( \ 4 \ \),になると思います。
ワンポイント解説「1.鉛蓄電池」の反応式の通りですが,正極の反応における水素原子の数を左辺右辺比較すると,右辺が\( \ \mathrm {2H_{2}O} \ \)で\( \ 4 \ \)個,左辺が\( \ \mathrm {\mathrm {{HSO_{4}}^{-}}} \ \)で\( \ 1 \ \)個なので,\( \ \mathrm {H^{+}} \ \)の係数は\( \ 3 \ \)となります。

(2)解答:カ
題意より解答候補は,(ヲ)活性化,(ワ)酸化,(カ)還元,になると思います。
ワンポイント解説「1.鉛蓄電池」の通り,正極の二酸化鉛は電子を受け取る還元反応となります。

(3)解答:ヌ
題意より解答候補は,(ヌ)高,(ル)低,(ヨ)変わらな,になると思います。
ニッケル-水素化物電池は一般に乾電池の代替として充電池に使用され,公称電圧が約\( \ 1.2 \ \mathrm {V} \ \)であるため,鉛蓄電池の方が公称電圧は高いです。

(4)解答:タ
題意より解答候補は,(タ)薄,(レ)濃,になると思います。
ワンポイント解説「1.鉛蓄電池」の全反応の通り,電解質である希硫酸の\( \ \mathrm {H_{2}SO_{4}} \ \)は放電することにより減っていくため,電解質はくなっていきます。

(5)解答:チ
全反応式より,\( \ \mathrm {Pb} \ \),\( \ \mathrm {H_{2}SO_{4}} \ \),\( \ \mathrm {PbO_{2}} \ \)のモル比は,
\[
\begin{eqnarray}
M_{\mathrm {Pb}}:M_{\mathrm {H_{2}SO_{4}}}:M_{\mathrm {PbO_{2}}}&=&1:2:1 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であり,質量比は,
\[
\begin{eqnarray}
m_{\mathrm {Pb}}:m_{\mathrm {H_{2}SO_{4}}}:m_{\mathrm {PbO_{2}}}&=&207.2:\frac {2\times 98.1}{0.38}:239.2 \\[ 5pt ] &≒&207.2:516.3:239.2 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。よって,\( \ 1 \ \mathrm {kg} \ \)あたりの鉛の質量\( \ m_{\mathrm {Pb}} \ \mathrm {[g]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
m_{\mathrm {Pb}}&=&\frac {207.2}{207.2+516.3+239.2}\times 1 \ 000 \\[ 5pt ] &≒&215.2 \ \mathrm {[g]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となるので,\( \ \mathrm {Pb} \ \)のモル数\( \ M_{\mathrm {Pb}} \ \mathrm {[mol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
M_{\mathrm {Pb}}&=&\frac {215.2}{207.2} \\[ 5pt ] &≒&1.039 \ \mathrm {[mol]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であり,負極の反応式より,このときの電子のモル数\( \ M_{\mathrm {e}} \ \mathrm {[mol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
M_{\mathrm {e}}&=&2M_{\mathrm {Pb}} \\[ 5pt ] &=&2\times 1.039 \\[ 5pt ] &=&2.078 \ \mathrm {[mol]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。よって,理論容量\( \ W \ \mathrm {[A\cdot h / kg]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&26.80\times M_{\mathrm {e}} \\[ 5pt ] &=&26.80\times 2.078 \\[ 5pt ] &≒&55.7 \ \mathrm {[A\cdot h / kg]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(6)解答:ヘ
公称電圧\( \ 12 \ \mathrm {V} \ \),\( \ 20 \ \)時間率容量\( \ 12.0 \ \mathrm {A\cdot h} \ \),重量\( \ 3.9 \ \mathrm {kg} \ \)なので,重量エネルギー密度\( \ U \ \mathrm {[W\cdot h / kg]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
U&=&\frac {12\times 12.0}{3.9} \\[ 5pt ] &≒&36.9 \ \mathrm {[W\cdot h / kg]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

※\( \ 20 \ \)時間率容量は例えば本問の例である場合,\( \ \displaystyle \frac {12.0}{20}=0.6 \ \mathrm {[A]} \ \)で運転したら\( \ 20 \ \)時間電圧が下がらず放電が維持できるという意味です。



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