《機械》〈電気化学〉[R07:問6]マンガン一次電池に関する計算・空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,一次電池に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

マンガン乾電池は一次電池として広く利用されている。その負極活物質は亜鉛\( \ \left( \mathrm {Zn} \right) \ \)であり,正極活物質は二酸化マンガン\( \ \left( \mathrm {MnO_{2}} \right) \ \)である。この正極では還元反応が起こり,オキシ水酸化マンガン\( \ \left( \mathrm {MnOOH} \right) \ \)が生成する。ここではマンガン\( \ \left( \mathrm {Mn} \right) \ 1 \ \)原子当たり\( \ \fbox {  (1)  } \ \)電子反応が起こっている。負極では\( \ \mathrm {Zn} \ \)が酸化反応して\( \ \mathrm {Zn\left( {NH}_{3} \right) _{2}Cl_{2}} \ \)となる。\( \ \mathrm {Zn} \ 1 \ \)原子当たりでは\( \ \fbox {  (2)  } \ \)電子反応が起こる。

この電池の公称電圧,すなわち一般的な作動状態での電圧は\( \ 1.5 \ \mathrm {V} \ \)であり,この電池の開回路の電圧は\( \ 1.5 \ \mathrm {V} \ \fbox {  (3)  } \ \)。ここで,\( \ \mathrm {Zn} \ \),\( \ \mathrm {Mn} \ \),\( \ \mathrm {O} \ \),\( \ \mathrm {H} \ \)の原子量はそれぞれ\( \ 65 \ \),\( \ 55 \ \),\( \ 16 \ \),\( \ 1 \ \),ファラデー定数は\( \ 27 \ \mathrm {A\cdot h/mol } \ \)とすると,この電池が放電して正極の\( \ \mathrm {MnO_{2}} \ 7.1 \ \mathrm {g} \ \)を消費したときに得られる電気量は\( \ \fbox {  (4)  } \ \mathrm {A\cdot h} \ \)となる。

このマンガン乾電池の\( \ \mathrm {MnO_{2}} \ \)の代わりに空気中の\( \ \mathrm {O_{2}} \ \)を反応に利用するものとして,亜鉛空気電池がある。この電池の放電に際し\( \ 6.5 \ \mathrm {g} \ \)の\( \ \mathrm {Zn} \ \)を消費したとき,理論的に消費する\( \ \mathrm {O_{2}} \ \)の質量は\( \ \fbox {  (5)  } \ \mathrm {g} \ \)となる。

〔問6の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 0.8     &(ロ)& 1     &(ハ)& 1.2 \\[ 5pt ] &(ニ)& 1.4     &(ホ)& 1.6     &(ヘ)& 1.8 \\[ 5pt ] &(ト)& 2     &(チ)& 2.2     &(リ)& 2.4 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 2.6     &(ル)& 2.8     &(ヲ)& 3 \\[ 5pt ] &(ワ)& 3.8       &(カ)& 4       &(ヨ)& 4.4 \\[ 5pt ] &(タ)& より低い     &(レ)& より高い     &(ソ)& である \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

マンガン乾電池の特徴と化学反応の計算に関する問題です。
亜鉛空気電池で少し応用的な内容が出てきていますが,考え方を理解していれば問題なく解くことが可能です。
ファラデーの法則もそうですが,できるだけ丸暗記には頼らない方が合格への近道になる場合が多いです。

1.マンガン乾電池
正極に二酸化マンガン\( \ \left( \mathrm {MnO_{2}} \right) \ \),負極に亜鉛\( \ \left( \mathrm {Zn} \right) \ \),電解液に塩化亜鉛を用いるものが一般的で,電解液に水酸化カリウムを用いたものをアルカリマンガン乾電池(アルカリ乾電池)といいます。

①化学反応式(反応式は暗記不要です)
 正 極:\( \ \displaystyle \mathrm {MnO_{2}+H^{+} + e^{-} → MnO(OH) } \ \)
 負 極:\( \ \displaystyle \mathrm {Zn → Zn^{2+}+ 2e^{-}} \ \)
 全 体:\( \ \displaystyle \mathrm {Zn+2MnO_{2}+2H^{+} → Zn^{2+} + 2MnO(OH)} \ \)

②特徴
・一次電池として最も広く長く利用されている
・公称電圧は\( \ 1.5 \ \mathrm {V} \ \)程度
・アルカリマンガン乾電池の方が容量は大きいが,マンガン乾電池はしばらく時間が経過すると電圧が回復する性質がある
・アルカリマンガン乾電池の低価格化に伴い,現在はアルカリマンガン乾電池が主流となっている

2.電気分解におけるファラデーの法則
電極に析出する物質の質量\( \ W \ \mathrm {[g]} \ \)は溶液を通過する電気量\( \ Q \ \mathrm {[C]} \ \)に比例する(第\( \ 1 \ \)法則)もしくは物質の化学当量(=原子量\( \ m \ \)/原子価\( \ n \ \))に比例する(第\( \ 2 \ \)法則)という法則で,ファラデー定数を\( \ F≒96 \ 500 \ \mathrm {[C / mol]} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&\frac {1}{F}\cdot \frac {m}{n} Q \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。また,電流\( \ I \ \mathrm {[A]} \ \)を時間\( \ t \ \mathrm {[s]} \ \)通電していたとすると,\( \ Q=It \ \)の関係から,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&\frac {1}{F}\cdot \frac {m}{n} It \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

※ファラデーの法則を覚えても良いですが,できるだけ単位や化学式を用いた解法をマスターするようにしましょう。

【解答】

(1)解答:ロ
題意より解答候補は,(ロ)\( \ 1 \ \),(ト)\( \ 2 \ \),(ヲ)\( \ 3 \ \),(カ)\( \ 4 \ \),になると思います。
ワンポイント解説「1.マンガン乾電池」の通り,正極ではマンガン\( \ \left( \mathrm {Mn} \right) \ 1 \ \)原子当たり\( \ 1 \ \)電子反応が起こっています。

(2)解答:ト
題意より解答候補は,(ロ)\( \ 1 \ \),(ト)\( \ 2 \ \),(ヲ)\( \ 3 \ \),(カ)\( \ 4 \ \),になると思います。
ワンポイント解説「1.マンガン乾電池」の通り,負極では亜鉛\( \ \left( \mathrm {Zn} \right) \ 1 \ \)原子当たりでは\( \ 2 \ \)電子反応が起こっています。

(3)解答:レ
題意より解答候補は,(タ)より低い,(レ)より高い,(ソ)である,になると思います。
乾電池には内部抵抗があるため,開回路の電圧は閉回路の電圧\( \ 1.5 \ \mathrm {V} \ \)より高く\( \ \left( 1.6 \ \mathrm {V} \ \right. \)程度\( \left. \right) \ \)なります。

(4)解答:チ
\( \ \mathrm {MnO_{2}} \ 7.1 \ \mathrm {g} \ \)のモル数\( \ N_{\mathrm {M}} \ \mathrm {[mol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
N_{\mathrm {M}}&=&\frac {7.1}{55+ 16\times 2} \\[ 5pt ] &≒&0.081 \ 61 \ \mathrm {[mol]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,\( \ \mathrm {Mn} \ 1 \ \)原子当たり\( \ 1 \ \)電子反応であるので,電気量\( \ Q \ \mathrm {[A\cdot h]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
Q&=&N_{\mathrm {M}}\times 1 \times 27 \\[ 5pt ] &=&0.081 \ 61\times 1 \times 27 \\[ 5pt ] &≒&2.2 \ \mathrm {[A\cdot h]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(5)解答:ホ
\( \ \mathrm {Zn} \ 6.5 \ \mathrm {g} \ \)のモル数\( \ N_{\mathrm {Z}} \ \mathrm {[mol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
N_{\mathrm {Z}}&=&\frac {6.5}{65} \\[ 5pt ] &=&0.1 \ \mathrm {[mol]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,\( \ \mathrm {Zn} \ 1 \ \)原子当たり\( \ 2 \ \)電子反応であり,酸素原子の価数は\( \ 2 \ \)であるので,反応する\( \ \mathrm {O_{2}} \ \)のモル数\( \ N_{\mathrm {O}} \ \mathrm {[mol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
N_{\mathrm {O}}&=&N_{\mathrm {Z}}\times 2 \times \frac {1}{2} \times \frac {1}{2} \\[ 5pt ] &=&0.1 \times 2 \times \frac {1}{2} \times \frac {1}{2} \\[ 5pt ] &=&0.05 \ \mathrm {[mol]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。よって,酸素の質量\( \ W_{\mathrm {O}} \ \mathrm {[g]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W_{\mathrm {O}}&=&N_{\mathrm {O}}\times 16 \times 2 \\[ 5pt ] &=&0.05\times 16 \times 2 \\[ 5pt ] &=&1.6 \ \mathrm {[g]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。



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