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【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
次の文章は,送配電系統の高調波対策に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切な語句又は式を解答群の中から選び,その記号をマークシートに記入しなさい。
送配電系統の高調波電流抑制対策としては,発生源の一つであるパルス数\( \ \mathrm {p} \ \)の三相ブリッジ回路を持つ電力変換装置の発生する高調波次数は\( \ \fbox { (1) } \ \)(\( \ \mathrm {m} \ \)は整数)で,大きさは次数に反比例するため,パルス数を増加することにより低次数の高調波を抑制することができる。また,\( \ \fbox { (2) } \ \)など高調波発生を抑制した制御方式を採用した電力変換装置も使用されている。単相整流及び三相ブリッジ整流回路の場合は,交流側に\( \ \fbox { (3) } \ \)を直列に挿入することにより高調波電流の発生を抑制することができる。
電気機器や装置の負荷電流の高調波成分の電力系統への流出を抑制する方法の一つとして,受動(パッシブ)フィルタが用いられる。受動フィルタは負荷電流に含まれる高調波成分を吸収するもので,複数の所定次数調波吸収用の\( \ \fbox { (4) } \ \)と,高次調波吸収用の高次フィルタで構成される場合が多い。
需要家に設置される力率改善用\( \ \fbox { (5) } \ \)は,一般的に高圧側に設置されることが多いが,これを低圧側に設置することにより配電系統に流出する高調波電流を抑制することができる。
〔問3の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 位相制御方式 &(ロ)& 同調フィルタ &(ハ)& \mathrm {pm±1} \\[ 5pt ]
&(ニ)& 電動機 &(ホ)& 避雷器 &(ヘ)& リアクトル \\[ 5pt ]
&(ト)& \mathrm {pm±2} &(チ)& 整流器 &(リ)& コンデンサ \\[ 5pt ]
&(ヌ)& ハイパスフィルタ &(ル)& パルス幅変調方式 &(ヲ)& \mathrm {p\left( m±1\right) } \\[ 5pt ]
&(ワ)& 周波数変調方式 &(カ)& 抵抗器 &(ヨ)& 発電機 \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【ワンポイント解説】
送配電系統の高調波の発生抑制と流出抑制に関する問題です。
問題文の長さ以上にかなり広範囲にわたる内容で,しっかりと理解するためには高調波の基本からリアクトルの役割の知識,パワーエレクトロニクスの知識等も必要です。
ワンポイント解説のみでは説明しきれない内容ですが,電験の勉強をコツコツと継続し,試験までに全体像を理解するようにして下さい。
1.高調波
高調波は標準周波数の\( \ 2 \ \)倍,\( \ 3 \ \)倍,\( \ \cdots \ \)の周波数の波形を持つ波のことで,「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」では高調波環境目標レベルとして\( \ 6.6 \ \mathrm {kV} \ \)配電系統で\( \ 5 \ \mathrm {%} \ \),特別高圧系統で\( \ 3 \ \mathrm {%} \ \)を維持すると定められています。
①高調波の発生源
アーク炉等の負荷,変圧器の磁気飽和,パワーエレクトロニクス機器等。
\( \ 3 \ \)次,\( \ 5 \ \)次,\( \ 7 \ \)次,\( \ 11 \ \)次の奇数次の高調波が多く,偶数次では\( \ 2 \ \)次の高調波も発生します。\( \ 3 \ \)次の高調波は変圧器の\( \ \Delta \ \)結線で還流させることができるので,電力系統としては最も多い\( \ 5 \ \)次の高調波に対する対策を行います。
②高調波による影響
・コンデンサやリアクトルが過熱,焼損
・電力用ヒューズのエレメントが過熱,溶断
・変圧器が振動,過熱
・発電機の巻線が過熱
・保護継電器が誤動作
・配電用遮断器が誤トリップ
・ラジオやテレビに可聴雑音が発生
・半導体機器が故障及び性能劣化
③高調波の対策
・整流器の相数を増加する
・電力用コンデンサには必ず直列リアクトルを設置する
・パッシブフィルタ,アクティブフィルタを設置する
・短絡容量の大きな系統から受電する
2.高調波フィルタ
発生した高調波を吸収する装置でパッシブフィルタとアクティブフィルタがあります。
①パッシブフィルタ
抵抗,コンデンサ,リアクトルといった受動素子(パッシブ素子)を組み合わせて,ある特定の次数の領域において低インピーダンスとなるようにし,高調波電流を吸収します。
ある特定の周波数を通過させる単一同調フィルタ,単一同調フィルタを二つ組み合わせて使用する二重同調フィルタ,ある特定の周波数以上の広い周波数領域で低インピーダンスとなるハイパスフィルタ等があります。
②アクティブフィルタ
高調波電流を検出して,逆位相の電流を流すことで高調波電流を打ち消すように動作する設備です。
従来のパッシブフィルタと比べ負荷の追従性が良好で,高調波の低減率が高いという特徴がありますが,コスト面や効率面で劣るという特徴があります。
アクティブフィルタでは下図に示すような\( \ i_{AF} \ \)の電流を流すという操作がなされています。
出典:電気工学ハンドブック(第7版) 一般社団法人電気学会 オーム社 P.1035
3.直列リアクトル
図1に示すように,直列リアクトルは力率改善を目的に設置する進相コンデンサに直列に接続するリアクトルです。
進相コンデンサ投入時の突入電流を抑制するとともに,高調波発生機器から発生する高調波を系統に流出するのを抑制する役割があります。
突入電流を抑制に関しては,理論科目の過渡現象で学習するようにリアクトルには電流の変化を抑える性質があるため抑制できます。
高調波の系統流出抑制に関しては,直列リアクトルと進相コンデンサの高調波に対するインピーダンスを誘導性にしかつ小さくし,高調波のほとんどが進相コンデンサ側に流れ高調波が系統側に行かないようにします。
※高調波系統流出抑制の定量的な説明
高調波発生機器から発生する主な高調波は奇数次(\( \ 3 \ \)次,\( \ 5 \ \)次,\( \ 7 \ \)次・・・)ですが,第\( \ 3 \ \)次高調波は変圧器の\( \ \Delta \ \)結線で還流できるので,特に第\( \ 5 \ \)次高調波の影響が大きいです。したがって,高調波対策は一般に第\( \ 5 \ \)次高調波に対してなされます。
第\( \ 5 \ \)次高調波に対するリアクタンス\( \ X_{\mathrm {L5}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)及び\( \ X_{\mathrm {C5}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は,基本波に対するリアクタンスを\( \ X_{\mathrm {L}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)及び\( \ X_{\mathrm {C}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)とすると,周波数が\( \ 5 \ \)倍となるので,
\[
\begin{eqnarray}
X_{\mathrm {L5}}&=&2\pi \times 5f \times L \\[ 5pt ]
&=&5 X_{\mathrm {L}} \\[ 5pt ]
X_{\mathrm {C5}}&=&\frac {1}{2\pi \times 5f \times C} \\[ 5pt ]
&=&\frac {X_{\mathrm {C}}}{5} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となります。したがって,第\( \ 5 \ \)次高調波に対するリアクタンスを誘導性にするためには,
\[
\begin{eqnarray}
X_{\mathrm {L5}}&>&X_{\mathrm {C5}} \\[ 5pt ]
5 X_{\mathrm {L}}&>&\frac {X_{\mathrm {C}}}{5} \\[ 5pt ]
X_{\mathrm {L}}&>&\frac {X_{\mathrm {C}}}{25} \\[ 5pt ]
X_{\mathrm {L}}&>&0.04X_{\mathrm {C}} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となり,直列リアクトルのリアクタンスは進相コンデンサの\( \ 4 \ \mathrm {[%]} \ \)以上にする必要がありますが,\( \ \mathrm {JIS} \ \)では余裕をもって\( \ 6 \ \mathrm {[%]} \ \)としています。

【解答】
(1)解答:ハ
題意より解答候補は,(ハ)\( \ \mathrm {pm±1} \ \),(ト)\( \ \mathrm {pm±2} \ \),(ヲ)\( \ \mathrm {p\left( m±1\right) } \ \),になると思います。
一般にパルス数\( \ \mathrm {p} \ \)のインバータでは\( \ \mathrm {pm±1} \ (m=1,2,\cdots ) \ \)の高調波が発生します。
例えば,一般的な\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御を行わない\( \ 180° \ \)通電方式の三相ブリッジ接続インバータの出力の線間電圧は\( \ 120° \ \)の方形波となり,フーリエ級数展開すると,
\[
\begin{eqnarray}
V &=&\frac {\sqrt {3}E_{\mathrm {d}}}{\pi }\left( \cos \omega t -\frac {1}{5}\cos 5\omega t+\frac {1}{7}\cos 7\omega t-\cdots \right) +\frac {\sqrt {3}E_{\mathrm {d}}}{\pi }\left( \sin \omega t +\frac {1}{5}\sin 5\omega t+\frac {1}{7}\sin 7\omega t+\cdots \right) \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となります。
(2)解答:ル
題意より解答候補は,(イ)位相制御方式,(ル)パルス幅変調方式,(ワ)周波数変調方式,になると思います。
このうち高調波発生を抑制できる方式はパルス幅変調方式で,一見すると方形波のようですが,パルス幅で制御することで全体として高調波を抑制することができます。

(3)解答:ヘ
題意より解答候補は,(ニ)電動機,(ホ)避雷器,(ヘ)リアクトル,(チ)整流器,(リ)コンデンサ,(カ)抵抗器,(ヨ)発電機,になると思います。
理論科目の過渡現象の分野で学習するようにリアクトルには電流の急変動を抑制する効果があり,これを平滑リアクトルといいます。三相ブリッジ整流回路においては,交流側にリアクトルを挿入することにより高調波電流の発生を抑制することができます。
(4)解答:ロ
題意より解答候補は,(ロ)同調フィルタ,(ヌ)ハイパスフィルタ,になると思います。
ワンポイント解説「2.高調波フィルタ」の通り,所定次数調波吸収用のフィルタは同調フィルタといいます。
(5)解答:リ
題意より解答候補は,(ヘ)リアクトル,(リ)コンデンサ,等になると思います。
ワンポイント解説「3.直列リアクトル」の通り,力率改善用コンデンサを設置することで,配電系統に流出する高調波電流を抑制することができます。