【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
次の文章は,電力貯蔵装置に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
太陽光発電や風力発電などの変動性再生可能エネルギーの普及拡大に応じて,近年では電力貯蔵装置の普及も進展している。電力貯蔵装置は,その原理から電気化学式,機械式,化学式,蓄熱式等に分類される。
電気化学式としては,高エネルギー密度で充放電効率が高いリチウムイオン電池が幅広く実用化されているが,希少資源を用いる点や\( \ \fbox { (1) } \ \)などの課題もある。リチウムイオン電池と比較すると,レドックスフロー電池はエネルギー密度がやや低い課題があるが,大容量化が比較的容易であり,\( \ \fbox { (2) } \ \)などの利点がある。
機械式としては,圧縮空気エネルギー貯蔵\( \ \left( \mathrm {CAES}\right) \ \)が挙げられる。再生可能エネルギーの余剰電力で空気を圧縮・貯蔵し,ピーク需要時に\( \ \fbox { (3) } \ \)を回して発電に用いることで,余剰電力のタイムシフトが可能となる。
化学式の一つである水素製造は,年間・季節間を通じた余剰電力のタイムシフトが比較的容易に実現できる利点がある。製造した水素を燃料電池(業務・産業用)を用いて再び電力へ変換する場合,総合での効率(電気分解による水素製造と,水素を用いた発電の両方を考慮した効率)は,廃熱利用を考慮しなければ\( \ \fbox { (4) } \ \)程度になる。
変動性再生可能エネルギーの普及拡大により課題となる慣性力の確保や電圧維持のために,電力貯蔵装置の系統連系用インバータを系統の電圧と周波数に依存しない\( \ \fbox { (5) } \ \)型へとする研究開発が国内外で進められている。
〔問6の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 設置面積が小さい &(ロ)& メモリー効果が大きい \\[ 5pt ]
&(ハ)& 30\sim 40 \ % &(ニ)& 充放電の繰り返しによる劣化が小さい \\[ 5pt ]
&(ホ)& 総合効率が高い &(ヘ)& コンプレッサ \\[ 5pt ]
&(ト)& 風車 &(チ)& 耐用年数が短い \\[ 5pt ]
&(リ)& \mathrm {SST} &(ヌ)& グリッドフォーミング \\[ 5pt ]
&(ル)& 50 \sim 60 \ % &(ヲ)& タービン \\[ 5pt ]
&(ワ)& グリッドフォローイング &(カ)& 80 \sim 90 \ % \\[ 5pt ]
&(ヨ)& 応動時間が長い && \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【ワンポイント解説】
近年導入が進められている電力貯蔵装置に関する問題です。
それぞれの電力貯蔵装置の概要を理解していれば正答を導き出すことが可能です。発展的な内容も含まれているため,\( \ 3 \ \)つ正答できれば十分かと思います。
1.リチウムイオン電池
リチウムイオンが移動することにより充放電を行うことから「リチウムイオン電池」と呼ばれます。エネルギー密度が非常に高く高い起電力を得ることができ,常温で使用可能なので,パソコンや携帯電話等日常的に扱うものにも多く採用されています。
①材料(反応式は暗記不要です)
正 極:\( \ \mathrm {LiCoO_{2}} \ \)等
負 極:黒鉛等
電解質:有機電解質
②特徴
・エネルギー密度が高く(鉛蓄電池の約\( \ 5 \ \)倍),公称電圧も\( \ 3.6~3.7 \ \mathrm {V} \ \)と高い。
・浅い充電と放電を繰り返すことで電池の容量が減ってしまうメモリー効果という現象が発生しない。
・\( \ 500 \ \)回以上の充放電が可能で,高寿命である。
・高速充電が可能で,充放電効率も良い。
・液体を使用せず凍ることがないため,氷点下から\( \ 60 \ {}^{\circ }\mathrm {C} \ \)の高温まで使用可能である。
・充放電時における材料の不安定化により,発火・爆発等の危険性があるため,充放電時の監視保護が別に必要となる。
2.レドックスフロー電池
正負極での還元反応\( \ \left( \mathrm {\color {red} {Red}uction }\right) \ \)と酸化反応\( \ \left( \mathrm {\color {red} {Ox}idation }\right) \ \)を下図に示すように循環させる\( \ \left( \mathrm {\color {red} {Flow} }\right) \ \)構造の電池で,名称もその頭文字からとっています。正極負極の反応と特徴は下記の通りとなります。
①放電時の反応式(充電時は逆です)
正極: \( \ \mathrm {V^{5+}} + \mathrm {e^{-}} → \mathrm {V^{4+}}\)
負極: \( \ \mathrm {V^{2+}} → \mathrm {V^{3+}} + \mathrm {e^{-}}\)
②特徴
・電解液のみが化学反応をするため,電極や電解液の劣化が少なく非常に長寿命となる。
・\( \ \mathrm {NAS} \ \)電池よりも構造が簡単で安全性が高い。
・電解液タンクの大きさで電池容量を決めることができる。
・単セルでの電圧が\( \ 1.4 \ \mathrm {V} \ \)と小さい。
・ポンプの動力が必要である。
出典:住友電気工業株式会社HP 特集 2016年02月号(Vol.461)
https://sei.co.jp/newsletter/2014/07/info10.html
3.圧縮空気エネルギー貯蔵\( \ \left( \mathrm {CAES}\right) \ \)
軽負荷時に空気圧縮機により空気を圧縮し,タンク等に貯蔵し,重負荷時にガスタービンを回転させ電気エネルギーを取り出します。
原理は単純なので,大容量のタンクがあれば実用化が可能であり,欧米では大陸の特性を利用して圧縮空気の貯蔵に地下空洞が利用され,実用化もされています。
①動作原理
・交流電力エネルギーで\( \ 3 ~ 6 \ \mathrm {[MPa]} \ \)の圧縮空気を貯蔵し,その圧縮空気をガスタービンに供給し,電力を発生させる。
②特徴
・圧縮ガスのエネルギー密度はさほど大きくない。
・貯蔵場所に地下空洞などを用い,大容量化が可能である。
・電力に変換するときは,ガスタービンに\( \ \mathrm {LNG} \ \)などの燃料が必要なため,純粋な電力貯蔵とは異なる。
出典:電気工学ハンドブック 第7版 P.1644 一般社団法人電気学会
4.燃料電池
燃料電池は燃料極(負極またはアノードとも言います)に燃料として水素,空気極(正極またはカソードとも言います)に酸素を供給して,化学変化から電気エネルギーを取り出す方法で,正極と負極では以下の反応があります。
負極では水素が電子を失う酸化反応,正極では酸素が電子を受け取る還元反応が起こります。
①反応式
\[
\begin{eqnarray}
負極&:&\mathrm {H_{2} → 2H^{+} +2e^{-}} \\[ 5pt ]
正極&:&\mathrm {\frac {1}{2}O_{2} + 2H^{+} +2e^{-} →H_{2}O} \\[ 5pt ]
\hline
全体&:&\mathrm {H_{2}+\frac {1}{2}O_{2} →H_{2}O}
\end{eqnarray}
\]

②特徴
水素と酸素の化学反応を利用して直流の電力を得る発電方式で,以下のような特徴があります。
・エネルギー変換効率が良く(低温形で\( \ 30\sim 45 \ \mathrm {%} \ \),高温形で\( \ 40\sim 65 \ \mathrm {%} \ \)程度),排熱利用により熱効率も大幅に上昇する
・発電時の騒音や振動が少ない
・燃料の水素の調達に課題がある
・出力が直流であるため,系統連系の際には交流に変換が必要
・スケールメリットがほとんどなく,コスト面で不利
5.グリッドフォローイングとグリッドフォーミング
再生可能エネルギーの比率が高まると,系統全体の慣性力・同期化力が低下し,小規模なじょう乱でも大規模停電につながる可能性があるため,次世代インバータ制御としてグリッドフォーミング型の開発が進められています。
①グリッドフォローイング\( \ \left( \mathrm {GFL}\right) \ \)
系統の電圧位相を検出し,それに合わせて電流を出力する方式です。系統が健全で十分な慣性力を持つ前提では有効ですが,系統が乱れたり弱系統化すると位相同期が外れ,安定度を損なう原因になります。
②グリッドフォーミング\( \ \left( \mathrm {GFM}\right) \ \)
自らが内部起電力(目標電圧・位相)を独立して持ち,同期発電機のように振る舞う制御を行います。系統に事故や急激な周波数・電圧の変動が生じた際にも,制御の遅れなく瞬時に電力(慣性エネルギー相当)を注入・吸収し,系統を支えることができます。
【解答】
(1)解答:チ
題意より,解答候補は(ロ)メモリー効果が大きい,(チ)耐用年数が短い,(ヨ)応動時間が長い,等になると思います。
ワンポイント解説「1.リチウムイオン電池」及び「2.レドックスフロー電池」の通り,リチウムイオン電池は比較的高寿命ですが,電力貯蔵装置としては希少資源を用いる点や耐用年数が短いなどの課題があります。
(2)解答:ニ
題意より,解答候補は(イ)設置面積が小さい,(ニ)充放電の繰り返しによる劣化が小さい,(ホ)総合効率が高い,等になると思います。
ワンポイント解説「2.レドックスフロー電池」の通り,レドックスフロー電池は充放電の繰り返しによる劣化が小さい利点があります。
(3)解答:ヲ
題意より,解答候補は(ヘ)コンプレッサ,(ト)風車,(ヲ)タービン,になると思います。
ワンポイント解説「3.圧縮空気エネルギー貯蔵\( \ \left( \mathrm {CAES}\right) \ \)」の通り,圧縮空気エネルギー貯蔵\( \ \left( \mathrm {CAES}\right) \ \)は,再生可能エネルギーの余剰電力で空気を圧縮・貯蔵し,ピーク需要時にタービンを回して発電に用います。
(4)解答:ハ
題意より,解答候補は(ハ)\( \ 30\sim 40 \ % \ \),(ル)\( \ 50 \sim 60 \ % \ \),(カ)\( \ 80 \sim 90 \ % \ \),になると思います。
ワンポイント解説「4.燃料電池」の通り,燃料電池の発電時の効率が\( \ 40\sim 65 \ \mathrm {%} \ \),水素製造時の電気分解の効率\( \ 70 \ % \ \)なので,総合効率は\( \ 30\sim 40 \ % \ \)程度となります。
(5)解答:ヌ
題意より,解答候補は(リ)\( \ \mathrm {SST} \ \),(ヌ)グリッドフォーミング,(ワ)グリッドフォローイング,になると思います。
ワンポイント解説「5.グリッドフォローイングとグリッドフォーミング」の通り,系統の電圧と周波数に依存しない電力貯蔵装置の系統連系用インバータはグリッドフォーミング型となります。






【令和8年度版2種一次試験】






