《機械》〈パワーエレクトロニクス〉[H19:問4]PWMインバータの出力波形制御に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

次の文章は,\( \ \mathrm {PWM} \ \)(パルス幅変調)インバータの出力波形制御に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる語句を解答群の中から選び,その記号をマークシートに記入しなさい。

\( \ \mathrm {PWM} \ \)は,出力電圧をできるだけ正弦波に近づける制御方式の一つである。目的とする出力波形の\( \ \fbox {  (1)  } \ \)成分と搬送波とを比較することにより,パルス幅を変調するので\( \ \mathrm {PWM} \ \)と呼ばれている。

この方式を電圧形インバータに適用した場合には,

① \( \ \fbox {  (2)  } \ \)を制御するための主回路デバイスが不要となり,小形化,低コスト化に寄与する。

② 低次高調波の除去が容易である。

③ \( \ \fbox {  (3)  } \ \)制御のような交流電動機の高速ドライブに不可欠な高速電流制御が可能になる。

等の特長がある。

また,変換器のブリッジを構成する上下アームの短絡を防止するために設けられている\( \ \fbox {  (4)  } \ \)タイムが搬送周波数を高周波化するときの障害になることがあり,安定性を確保するために変換器のバルブデバイスにはできるだけ\( \ \fbox {  (5)  } \ \)を用いるのがよい。

〔問4の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 直流電圧       &(ロ)& チョッパ     &(ハ)& 高速スイッチング素子 \\[ 5pt ] &(ニ)& スカラ     &(ホ)& 低 次     &(ヘ)& デッド \\[ 5pt ] &(ト)& 高調波     &(チ)& 大電流素子        &(リ)& 交流電圧 \\[ 5pt ] &(ヌ)& ライズ     &(ル)& ベクトル     &(ヲ)& 高電圧素子 \\[ 5pt ] &(ワ)& 直流電流     &(カ)& 基本波     &(ヨ)& ターンオフ \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

\( \ \mathrm {PWM} \ \)インバータの出力波形制御に関する問題です。
\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御の単純な内容のみでなく,特徴や用途,実際の回路の問題点等も扱っている高度な問題です。本問の内容をしっかりと理解するためにはまずは回路構成や原理を理解することが重要となります。

1.三相インバータの回路構成と出力波形
図1に三相インバータ(\( \ 2 \ \)レベル)の回路構成を示します。
\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御では図1において,対になっているスイッチ\( \ \mathrm {Q_{1}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{2}} \ \),\( \ \mathrm {Q_{3}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{4}} \ \),\( \ \mathrm {Q_{5}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{6}} \ \)を図2のように搬送波(三角波)と信号波を大小比較することでオンオフ切換を行い交流出力を得ます。
図2の例においては信号波>搬送波のとき\( \ \mathrm {Q_{1}} \ \)をオン,\( \ \mathrm {Q_{2}} \ \)をオフし,搬送波>信号波のとき\( \ \mathrm {Q_{1}} \ \)をオフ,\( \ \mathrm {Q_{2}} \ \)をオンしてパルス幅により出力電圧を調整しています。
そして,信号波を\( \ \displaystyle \frac {2}{3}\pi \ \)ずつずらして\( \ \mathrm {Q_{3}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{4}} \ \),そして\( \ \mathrm {Q_{5}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{6}} \ \)をオンオフ制御することで出力に三相交流を得ることができます。


2.誘導電動機のベクトル制御
誘導電動機のトルク制御法の一つで,誘導電動機の一次電流を磁束を発生する励磁電流成分(\( \ \mathrm {d} \ \)軸成分)とトルクを発生するトルク電流成分(\( \ \mathrm {q} \ \)軸成分)に分け,他励直流電動機のようにトルクを制御することができる方法です。
詳細はかなり複雑になるので割愛しますが,図3に示すように,三相の磁束の検出し,それを励磁電流とトルク電流成分に分解し,その信号を指令値と比較し再び三相に逆変換し,インバータ等をパワーエレクトロニクス技術を用いて誘導電動機のトルクを制御します。

【解答】

(1)解答:カ
題意より,解答候補は(ホ)低次,(ト)高調波,(カ)基本波,等になると思います。
ワンポイント解説「1.三相インバータの回路構成と出力波形」の通り,搬送波と比較するのは信号波であり,信号波は出力波形の基本波成分となります。

(2)解答:イ
題意より,解答候補は(イ)直流電圧,(リ)交流電圧,(ワ)直流電流,等になると思います。
ワンポイント解説「1.三相インバータの回路構成と出力波形」の通り,電圧形インバータで制御する必要がないのは直流電圧となります。

(3)解答:ル
題意より,解答候補は(ロ)チョッパ,(ニ)スカラ,(ル)ベクトル,等になると思います。
ワンポイント解説「2.誘導電動機のベクトル制御」の通り,電圧形インバータを用いることで交流電動機のベクトル制御が可能となります。

(4)解答:ヘ
題意より,解答候補は(ヘ)デッド,(ヌ)ライズ,(ヨ)ターンオフ,等になると思います。
変換器のブリッジを構成する上下アームの短絡を防止するために,図1の例で対になっているスイッチ\( \ \mathrm {Q_{1}} \ \)(もしくは\( \ \mathrm {Q_{2}} \ \))にオフ信号を与えてから\( \ \mathrm {Q_{2}} \ \)(もしくは\( \ \mathrm {Q_{1}} \ \))にオン信号を与えるまでに設ける時間をデッドタイムといいます。

(5)解答:ハ
題意より,解答候補は(ハ)高速スイッチング素子,(チ)大電流素子,(ヲ)高電圧素子,になると思います。
制御の安定性を確保するためにはデッドタイムは短い方が良いため,高速スイッチング素子を用いると効果的となります。



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