《機械》〈電動機応用〉[H22:問5]電気鉄道システムに関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★★★(難しい)

次の文章は,電気鉄道システムに関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切な語句を解答群の中から選びなさい。

電気車の走行性能はレールと車輪踏面との摩擦で決まる\( \ \fbox {  (1)  } \ \)によって制限されるが,限界を超えると車輪が空転・滑走(巨視滑り)を起こし,牽引力・ブレーキ力が著しく低下する。この空転・滑走は電動機制御系には負荷急変の外乱となり,速やかな制御応答が要求される。近年普及した誘導電動機のインバータ制御による駆動方式はその制御応答に優れ,なかでも小形化が求められる電車方式には\( \ \fbox {  (2)  } \ \)駆動方式が一般的に多数採用されている。また,エネルギーの有効利用を図るために\( \ \fbox {  (3)  } \ \)が採用されている。

電気車への電力供給方式には,直流き電方式と交流き電方式とがある。交流き電方式には数種類あるが,変電所間隔が大きくでき,かつ,通信誘導障害にも比較的有利な\( \ \fbox {  (4)  } \ \)が多く採用されている。また,\( \ 275 \ \mathrm {[kV]} \ \)系から受電する新幹線の変電所の場合には,き電変圧器に\( \ \fbox {  (5)  } \ \)を使用し,中性点を接地することによって経済的な絶縁レベルとしている。

〔問5の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 発電ブレーキ     &(ロ)& 電流形 \ \mathrm {PWM} \ 制御インバータ \\[ 5pt ] &(ハ)& 粘着係数     &(ニ)& 電力回生ブレーキ \\[ 5pt ] &(ホ)& 電圧形 \ \mathrm {PWM} \ 制御インバータ         &(ヘ)& 直接き電方式 \\[ 5pt ] &(ト)&  \ \mathrm {\Delta – Y} \ 結線変圧器     &(チ)& 変形ウッドブリッジ結線変圧器 \\[ 5pt ] &(リ)& 減衰係数     &(ヌ)&  \ \mathrm {BT} \ き電方式 \\[ 5pt ] &(ル)& 共振形インバータ      &(ヲ)& 渦電流ブレーキ \\[ 5pt ] &(ワ)& 滑り係数      &(カ)& スコット結線変圧器 \\[ 5pt ] &(ヨ)&  \ \mathrm {AT} \ き電方式 && \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

電気鉄道システムに関する問題です。
実際に実務で扱っている方が有利な専門性の強い問題です。完答は目指さなくても良いですから,\( \ 2 \ \)つか\( \ 3 \ \)つが得点できるレベルまで知識をつけるようにしましょう。
多くの受験生が鉄道業務に携わっていないことを考えると,この問題は非常に厳しい問題であったかなと思います。

1.粘着係数
鉄道の車輪とレール間の静止摩擦係数のことを粘着係数といい,鉄道はこの摩擦によって加速したり減速したりします。この粘着係数を超えると加速時には車輪が空転,制動時には車輪が滑走をしてしまいます。
空転や滑走が起こった際には,車輪とレール間には静止摩擦係数より小さい動摩擦係数が作用するため,牽引力や制動力は大きく低下してしまいます。

2.交流き電方式の種類
①直接き電方式
レールを帰線として,交流電圧を架線とレール間に印加する方式です。架線電流による電磁誘導やレールからの漏れ電流により,通信回線や電子機器に妨害を与える恐れがあるので,外国では採用されることがありますが,人口密度の高い日本では採用されない方式です。

②\( \mathrm {BT} \ \)き電方式
日本で鉄道が普及した当初から導入された方式で,一次巻線と二次巻線の巻き数比が\( \ 1 \ \)の吸上変圧器を適当な間隔ごとに設置する方式です。負き電線(図の\( \ \mathrm {NF} \ \))を帰線電流が流れることにより,レールにはほとんど電流が流れないため,通信回線への誘導障害等を防止することができますが,原理上,\( \ \mathrm {BT} \ \)セクションと呼ばれるエアセクションをパンタグラフが通過する際,アークが発生することがあります。

③\( \mathrm {AT} \ \)き電方式
吸上変圧器の代わりに単巻変圧器を用いた方式で,\( \mathrm {BT} \ \)き電方式の後に導入された方式です。\( \mathrm {BT} \ \)き電方式で問題となっていたエアセクションを設ける必要がないため,アークの発生や保守面において有利となります。また,変電所の間隔を大きくすることもできるので,近年,新規で建設する場合には最も多く採用される方式となります。

④同軸ケーブルき電方式
同軸ケーブルをトロリー線を並行に施設して架線電流をトロリー線と内部導体,帰線電流を外部導体に流す方式で,都心部等用地や施設条件に制約がある場所に採用されます。\( \mathrm {AT} \ \)き電方式と異なりトロリー線やき電線に大きな絶縁間隔を必要としない方式となります。


出典:電気工学ハンドブック(第7版) 一般社団法人電気学会 オーム社 P.1962

【解答】

(1)解答:ハ
題意より解答候補は,(ハ)粘着係数,(リ)減衰係数,(ワ)滑り係数,になると思います。
ワンポイント解説「1.粘着係数」の通り,レールと車輪踏面との摩擦で決まるのは粘着係数となります。

(2)解答:ホ
題意より解答候補は,(ロ)電流形\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御インバータ,(ホ)電圧形\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御インバータ,(ル)共振形インバータ,になると思います。
誘導電動機のインバータ制御による駆動方式で,小形化が求められる電車方式で採用されるのは電圧形\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御インバータとなります。電圧形\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御インバータは平成29年機械科目問2で出題されていますので,見ておくと良いかと思います。

(3)解答:ニ
題意より解答候補は,(イ)発電ブレーキ,(ニ)電力回生ブレーキ,(ヲ)渦電流ブレーキ,になると思います。
このうちエネルギーの有効利用に繋がるのは電力回生ブレーキで,ブレーキにより発生するエネルギーを電車線に回収し,他の電車の駆動用のエネルギーに有効利用します。

(4)解答:ヨ
題意より解答候補は,(ヘ)直接き電方式,(ヌ)\( \ \mathrm {BT} \ \)き電方式,(ヨ)\( \ \mathrm {AT} \ \)き電方式,になると思います。
ワンポイント解説「2.交流き電方式の種類」の通り,電気車への電力供給方式として多く採用されているのは,\( \ \mathrm {AT} \ \)き電方式となります。

(5)解答:チ
題意より解答候補は,(ト)\( \ \mathrm {\Delta – Y} \ \)結線変圧器,(チ)変形ウッドブリッジ結線変圧器,(カ)スコット結線変圧器,になると思います。
電気鉄道では主にスコット結線変圧器が使用されていますが,\( \ 275 \ \mathrm {[kV]} \ \)系から受電する新幹線の変電所の場合には中性点を接地することによって経済的な絶縁レベルを確保できる一次側を\( \ \mathrm {Y} \ \)結線,二次側を\( \ \mathrm {\Delta} \ \)結線し一相分を並列に接続した変形ウッドブリッジ結線変圧器が用いられます。この空欄は専門的すぎるので捨て問として良いでしょう。



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