【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
次の文章は,変電所の環境調和に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
変電所は,通常の運転をするうえでは,排ガスや汚水など,環境を汚染する廃棄物はほとんど発生しないが,地域との共生や周囲との調和を図るためには,以下のような様々な対応が必要となる。
・変電所から発生する騒音には,変圧器騒音や開閉器操作音,空気圧縮機の騒音などがある。これらの騒音対策としては,低騒音機器の採用,騒音源となる機器を屋内に設置,騒音源となる機器の周囲を防音壁で囲むなどの処置がとられる。変圧器自体の騒音の発生原因としては,①鉄心の\( \ \fbox { (1) } \ \)による振動,②鉄心のつなぎ目及び成層間に働く\( \ \fbox { (2) } \ \)による振動,③巻線導体間又は巻線間に働く\( \ \fbox { (3) } \ \)による振動,④強制冷却の場合,ポンプ,ファンなどの補機が発生する振動などがある。鉄心から発生する騒音を低減するためには,主な原因である①を小さくすることが有効であり,具体的には,経時変化の少ない材料を使用したり,鉄心の\( \ \fbox { (4) } \ \)密度の値を低減させたりする方法が考えられる。
・変電所の有効な景観対策としては,変電所周囲の緑化,目隠し効果のある壁の設置,\( \ \fbox { (5) } \ \)の採用,屋内式又は\( \ \fbox { (6) } \ \)式変電所の採用などがあるがコストが高くなる欠点がある。
・変電所から発生する電磁界\( \ \left( \mathrm {EMF}\right) \ \)のレベルを低減させる対策として,磁界を閉じ込める方法と発生する磁界そのものを小さくする方法がある。前者は,磁界発生源の周囲を覆うものとして,\( \ \fbox { (7) } \ \)素材や鉄などが用いられる。後者は,三相交流の特徴を利用し,電流が流れる\( \ 3 \ \)本の導体を均等に配置して,発生する磁界を打ち消す方法や,隣接する機器やケーブルに流れる電流方向を\( \ \fbox { (8) } \ \)て打ち消す方法などが採用されている。
〔問5の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 慣性力 &(ロ)& アモルファス &(ハ)& 熱ひずみ \\[ 5pt ]
&(ニ)& 気中絶縁 &(ホ)& 直角に交差させ &(ヘ)& 電流 \\[ 5pt ]
&(ト)& ローレンツ力 &(チ)& 電束 &(リ)& 充電部隠ぺい化機器 \\[ 5pt ]
&(ヌ)& 地下 &(ル)& 磁束 &(ヲ)& 磁気ひずみ \\[ 5pt ]
&(ワ)& クーロン力 &(カ)& 応力ひずみ &(ヨ)& 静電力 \\[ 5pt ]
&(タ)& 磁気吸引力 &(レ)& 向かい合わせ &(ソ)& アルミ \\[ 5pt ]
&(ツ)& 電磁力 &(ネ)& ライブタンク機器 && \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【ワンポイント解説】
変電所及びその周囲の騒音,景観,電磁界対策に関する問題です。
本問は実際に変電設備を扱っている方が圧倒的に有利な問題となりますが,発電所や工場等でも同様な対策を取られることは多いため,ぜひ覚えておくと良いかと思います。
1.変圧器の振動の主な発生原因とその対策
変圧器には以下の発生原因により振動が発生し,騒音の発生源となる可能性があるため,その対策が取られています。
①発生原因
・コイルに交流電流を流した際,鉄心が磁気ひずみにより伸縮することにより発生
・コイルに電流が流れることでコイルに発生する電磁力により発生
・鉄心のつなぎ目及び成層間に働く磁気吸引力により発生
・強制冷却の場合,ポンプ,ファンなどの回転体が回転することにより発生
②振動に対する対策
・鉄心の磁束密度を下げる(ただし,経済性が悪くなる)
・磁気ひずみの経時変化の少ない材料を使用する
・鉄板やコンクリート製の防音壁等で周囲を覆う
・防振ゴムやスプリング等で吸収する
2.変電所の景観対策
変電所は変圧器,遮断器,断路器等多くの機器で構成され,都市部や市街地にも施設されるため,以下のような環境対策をします。
・屋内式変電所,地下式変電所の採用
・充電部隠ぺい化機器の採用
・変電所周囲の緑化(植樹)
・建築物の低層化,半地下式の採用
・建築デザインの工夫による周囲との調和
3.変電所から発生する電磁界\( \ \left( \mathrm {EMF}\right) \ \)への対策
変電所における電気機器に流れる電流により周囲に磁界が発生しますが,以下のような対策が取られています。
・磁界の発生源からの離隔距離を十分に保つ
・磁界発生源をアモルファス素材や鉄等で覆う
・三相交流の各相の導体を三角配列等にし均等に配置して打ち消す
・隣接する機器やケーブルに流れる電流を向かい合わせに配置して打ち消し合う
【解答】
(1)解答:ヲ
題意より解答候補は,(ハ)熱ひずみ,(ヲ)磁気ひずみ,(カ)応力ひずみ,等になると思います。
ワンポイント解説「1.変圧器の振動の主な発生原因とその対策」の通り,磁気ひずみにより鉄心が伸縮するため,変圧器の振動が発生します。振動の周波数は商用周波数の倍数波(\( \ 50 \ \mathrm {Hz} \ \)であれば\( \ 100 \ \mathrm {Hz} \ \),\( \ 200 \ \mathrm {Hz} \ \)等)が多いことがわかっています。
(2)解答:タ
題意より解答候補は,(イ)慣性力,(ト)ローレンツ力,(ワ)クーロン力,(ヨ)静電力,(タ)磁気吸引力,(ツ)電磁力,等になると思います。
ワンポイント解説「1.変圧器の振動の主な発生原因とその対策」の通り,鉄心のつなぎ目及び成層間には磁気吸引力が働くことにより振動が発生します。
(3)解答:ツ
題意より解答候補は,(イ)慣性力,(ト)ローレンツ力,(ワ)クーロン力,(ヨ)静電力,(タ)磁気吸引力,(ツ)電磁力,等になると思います。
ワンポイント解説「1.変圧器の振動の主な発生原因とその対策」の通り,巻線導体間又は巻線間には電磁力が働くことにより振動が発生します。
(4)解答:ル
題意より解答候補は,(ヘ)電流,(チ)電束,(ル)磁束,等になると思います。
ワンポイント解説「1.変圧器の振動の主な発生原因とその対策」の通り,磁束密度の低減が騒音対策として有効です。磁束密度の低減は,変圧器の大きさ,重量などに影響を与えるため,通常の設計値に比べ,大容量器では磁束密度の低減は\( \ 10 \ \mathrm {[%]} \ \)程度,中容量器では\( \ 20 \ \mathrm {[%]} \ \)程度が限度とされています。
(5)解答:リ
題意より解答候補は,(リ)充電部隠ぺい化機器,(ネ)ライブタンク機器,等になると思います。
ワンポイント解説「2.変電所の景観対策」の通り,景観対策として有効なのは充電部隠ぺい化機器となります。
(6)解答:ヌ
題意より解答候補は,(ニ)気中絶縁,(ヌ)地下,等になると思います。
ワンポイント解説「2.変電所の景観対策」の通り,景観対策として有効なのは地下式変電所で,都市部では多く採用されています。
(7)解答:ロ
題意より解答候補は,(ロ)アモルファス,(ソ)アルミ,になると思います。
ワンポイント解説「3.変電所から発生する電磁界\( \ \left( \mathrm {EMF}\right) \ \)への対策」の通り,アモルファス素材で周囲を覆うことで磁界を遮断することができます。
(8)解答:レ
題意より解答候補は,(ホ)直角に交差させ,(レ)向かい合わせ,になると思います。
ワンポイント解説「3.変電所から発生する電磁界\( \ \left( \mathrm {EMF}\right) \ \)への対策」の通り,隣接する機器やケーブルに流れる電流方向を向かい合わせにすることで,発生する磁界を打ち消すことができます。