《機械》〈パワーエレクトロニクス〉[H19:問5]汎用インバータの制御回路構成に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

次の文章は,汎用インバータの制御回路構成に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる語句を解答群の中から選び,その記号を記述用紙の解答欄に記入しなさい。

図は,三相かご形誘導電動機を\( \ 2 \ \)レベル三相ブリッジ形のインバータによって速度制御する場合の制御回路構成例である。

信号\( \ \mathrm {A} \ \)は周波数基準信号である。ブロック\( \ \mathrm {B} \ \)の内部では,周波数基準信号にほぼ比例し,また,出力電圧の振幅に比例した大きさの信号\( \ \mathrm {C} \ \)と,出力周波数と同一周波数,かつ,一定振幅で位相角がそれぞれ\( \ 120 \ \)度ずつずれた三相の正弦波信号群\( \ \mathrm {D} \ \)を発生させ,それらの積で三つの\( \ \fbox {  (1)  } \ \)となる信号群\( \ \mathrm {E} \ \)を生成する。この信号群\( \ \mathrm {E} \ \)を三角波などの\( \ \fbox {  (2)  } \ \)信号\( \ \mathrm {F} \ \)と三つの比較器\( \ \mathrm {G} \ \)で比較して,インバータの主回路を構成するパワーデバイス\( \ \mathrm {IGBT} \ \)などの\( \ \fbox {  (3)  } \ \)を決める信号群\( \ \mathrm {H} \ \)を発生する。この部分は\( \ \fbox {  (4)  } \ \)制御と呼ばれる。

さらに,インバータ主回路の上下アームのパワーデバイスが短絡しないようにブロック\( \ \mathrm {I} \ \)でデッドタイム処理を行い,パワーデバイスを駆動するためのゲートドライブ回路\( \ \mathrm {K} \ \)に六つのオン・オフ信号群\( \ \mathrm {J} \ \)を供給する。

このような速度制御方式を誘導電動機の\( \ \fbox {  (5)  } \ \)制御と呼ぶ。

〔問5の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& ベクトル     &(ロ)& キャリヤ     &(ハ)& 位 相 \\[ 5pt ] &(ニ)& スイッチングのタイミング        &(ホ)& 電流基準     &(ヘ)& V / f \ 一定 \\[ 5pt ] &(ト)& トルク基準     &(チ)& 基本波     &(リ)& オン電圧 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 滑り周波数        &(ル)& \mathrm {PWM}       &(ヲ)& 高調波 \\[ 5pt ] &(ワ)& 電圧フィードバック     &(カ)& 電圧基準     &(ヨ)& 振 幅 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

汎用インバータの制御回路構成に関する問題です。
複数の文献を見ましたが,全く同じ制御回路が掲載されている文献が見つかりませんでしたので,受験生にその場で考えさせる問題であると考えて良いかと思います。
\( \ V / f \ \)制御と\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御を理解した上で,電圧と周波数が問題図上でどのような信号になるか考えると正答が見えてくるかと思います。

1.\( \ V / f \ \)一定制御
電動機の回転速度を周波数で制御する際に,電動機の磁束が飽和しないように\( \ \displaystyle \frac {V}{f} \ \)を一定とする制御です。
ここでは図1に示すような誘導電動機の\( \ \mathrm {L} \ \)形等価回路を用いて説明します。ただし,図1において,\( \ {\dot V}_{1} \ \mathrm {[V]} \ \)は一次側端子電圧,\( \ {\dot I}_{1} \ \mathrm {[A]} \ \)は一次電流,\( \ {\dot I}_{2}^{\prime } \ \mathrm {[A]} \ \)は二次電流の一次換算,\( \ {\dot I}_{0} \ \mathrm {[A]} \ \)は励磁電流,\( \ r_{1} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は一次巻線抵抗,\( \ r_{2}^{\prime } \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は二次巻線抵抗の一次換算,\( \ x_{1} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は一次漏れリアクタンス,\( \ x_{2}^{\prime } \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は二次漏れリアクタンスの一次換算,\( \ g_{0} \ \mathrm {[S]} \ \)は励磁コンダクタンス,\( \ b_{0} \ \mathrm {[S]} \ \)は励磁サセプタンス,\( \ s \ \)は滑りとなります。
界磁磁束\( \ \mathit {\Phi } \ \mathrm {[Wb]} \ \)は励磁電流\( \ I_{0} \ \mathrm {[A]} \ \)に比例し,図1において,励磁電流\( \ I_{0} \ \mathrm {[A]} \ \)は\( \ g_{0} \ \mathrm {[S]} \ \)が小さいとすると\( \ b_{0} \ \mathrm {[S]} \ \)にほぼ比例します。
\( \ \displaystyle b_{0}=\frac {1}{2\pi fL} \ \)であり,\( \ b_{0} \ \mathrm {[S]} \ \)は周波数\( \ f \ \mathrm {[Hz]} \ \)に反比例するので,磁束\( \ \mathit {\Phi } \ \mathrm {[Wb]} \ \)は周波数\( \ f \ \mathrm {[Hz]} \ \)にほぼ反比例することがわかります。
また,図1の等価回路において,オームの法則より励磁電流\( \ I_{0} \ \mathrm {[A]} \ \)は\( \ V_{1} \ \mathrm {[V]} \)に比例するので,磁束\( \ \mathit {\Phi } \ \mathrm {[Wb]} \ \)は\( \ \displaystyle \frac {V}{f} \ \)にほぼ比例することが分かります。
したがって,磁束を飽和させないためには周波数を変動させると同時に電圧を変化させる必要があることがわかります。

2.三相\( \ \mathrm {PWM} \ \)インバータの回路構成と出力波形
図2に三相インバータ(\( \ 2 \ \)レベル)の回路構成を示します。
\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御では図2において,対になっているスイッチ\( \ \mathrm {Q_{1}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{2}} \ \),\( \ \mathrm {Q_{3}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{4}} \ \),\( \ \mathrm {Q_{5}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{6}} \ \)を図3のように搬送波(三角波)と信号波を大小比較することでオンオフ切換を行い交流出力を得ます。
図2の例においては信号波>搬送波のとき\( \ \mathrm {Q_{1}} \ \)をオン,\( \ \mathrm {Q_{2}} \ \)をオフし,搬送波>信号波のとき\( \ \mathrm {Q_{1}} \ \)をオフ,\( \ \mathrm {Q_{2}} \ \)をオンしてパルス幅により出力電圧を調整しています。
そして,信号波を\( \ \displaystyle \frac {2}{3}\pi \ \)ずつずらして\( \ \mathrm {Q_{3}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{4}} \ \),そして\( \ \mathrm {Q_{5}} \ \)と\( \ \mathrm {Q_{6}} \ \)をオンオフ制御することで出力に三相交流を得ることができます。


【解答】

(1)解答:カ
題意より解答候補は,(ホ)電流基準,(ト)トルク基準,(カ)電圧基準,になると思います。
空欄の前の文章で「出力電圧の振幅に比例した大きさの信号\( \ \mathrm {C} \ \)」となっていることから,電圧基準となる信号群\( \ \mathrm {E} \ \)が生成されることになります。

(2)解答:ロ
題意より解答候補は,(ロ)キャリヤ,(チ)基本波,(ヲ)高調波,になると思います。
ワンポイント解説「2.三相\( \ \mathrm {PWM} \ \)インバータの回路構成と出力波形」の通り,\( \ \mathrm {PWM} \ \)インバータでは三角波などのキャリヤ信号(搬送波)を比較し,素子のオンオフを決定します。

(3)解答:ニ
題意より解答候補は,(ニ)スイッチングのタイミング,(リ)オン電圧,(ワ)電圧フィードバック,(ヨ)振幅,等になると思います。
ワンポイント解説「2.三相\( \ \mathrm {PWM} \ \)インバータの回路構成と出力波形」の通り,\( \ \mathrm {PWM} \ \)インバータでは信号群\( \ \mathrm {E} \ \)と三角波などのキャリヤ信号を比較し,素子のスイッチングのタイミングを決定します。

(4)解答:ル
題意より解答候補は,(リ)オン電圧,(ヌ)滑り周波数,(ル)\( \ \mathrm {PWM} \ \),等になると思います。
ワンポイント解説「2.三相\( \ \mathrm {PWM} \ \)インバータの回路構成と出力波形」の通り,信号波と搬送波を比較し,素子のスイッチングのタイミングを決定する制御を\( \ \mathrm {PWM} \ \)制御といいます。

(5)解答:ヘ
題意より解答候補は,(イ)ベクトル,(ハ)位相,(ヘ)\( \ V / f \ \)一定,等になると思います。
ワンポイント解説「1.\( \ V / f \ \)一定制御」の通り,本問のような誘導電動機の制御方式を\( \ V / f \ \)一定制御といいます。



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