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【問題】
【難易度】★★★☆☆(普通)
次の文章は,油入変圧器の劣化診断方法の一つである,油中ガス分析に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる語句を解答群の中から選び,その記号をマークシートに記入しなさい。ただし,負荷時タップ切換装置油槽の絶縁油に関しては,対象外とする。
\( \ \mathrm {a.} \ \)油入変圧器の内部で異常が発生した場合,異常部位での\( \ \fbox { (1) } \ \)により絶縁油や絶縁物が分解し,正常な状態では発生しない分解ガスが発生し,絶縁油中に溶解する。油中ガス分析による劣化診断は,絶縁油中に溶解した可燃性ガス成分から内部異常の有無を推定する方法である。
\( \ \mathrm {b.} \ \)可燃性ガス成分の中でも,\( \ \fbox { (2) } \ \)は内部異常時の特徴的なガスであり,微量であっても検出された場合は内部異常の可能性が高いので特に注意する必要がある。
\( \ \mathrm {c.} \ \)油中ガス分析の結果から異常と判定された場合には,ガスパターンや組成比及び特定ガスによる\( \ \fbox { (3) } \ \)を行い,\( \ \fbox { (1) } \ \)現象,異常の部位及び大きさの程度や進展度合いを診断する。その結果,内部に異常ありと診断された場合は,確度の高い診断をするため\( \ \fbox { (4) } \ \),外部一般点検,運転履歴や改修履歴などを総合して診断を行い,内部点検又は修理の要否などを決定する。
\( \ \mathrm {d.} \ \)なお,変圧器絶縁油が大気に直接接触しない隔膜式コンサベー夕方式の油入変圧器では,絶縁油中の\( \ \fbox { (5) } \ \)測定も,ガスケットの劣化やピンホール有無の診断に有効である。
〔問4の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& メタンやエタン &(ロ)& 窒素濃度 &(ハ)& アセチレンやエチレン \\[ 5pt ]
&(ニ)& 化学的試験 &(ホ)& 二酸化炭素濃度 &(ヘ)& 水素や一酸化炭素 \\[ 5pt ]
&(ト)& 振 動 &(チ)& 電気的試験 &(リ)& 寿命診断 \\[ 5pt ]
&(ヌ)& 圧力上昇 &(ル)& 水素濃度 &(ヲ)& 機械的試験 \\[ 5pt ]
&(ワ)& 強度診断 &(カ)& 様相診断 &(ヨ)& 過熱や放電 \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【ワンポイント解説】
油入変圧器の油中ガス分析に関する問題です。
油中ガス分析に関しては二次試験にも出題される可能性がある内容なので,本問で出題されている内容はある程度説明できるレベルまで引き上げておくようにして下さい。
一方で,専門性も強い内容で専門書では分析方法やガス量の基準値等の記載もありますが,細かな内容は不要なので専門書ではなく本ワンポイント解説の内容を中心に学習するようにしましょう。
1.油中ガス分析
油入変圧器の寿命を簡易的に診断する方法で,変圧器内の絶縁油には絶縁材料の経年劣化や内部異常等により発生したガスが溶け込むため,その種類や量により変圧器の異常を診断します。ただし,油中ガス分析のみで異常の確定はせず,異常が見つかった場合には電気的試験等で総合診断を行います。経年劣化や内部異常で発生するガスは以下のガスがあります。
①経年劣化
\( \ \mathrm {H_{2}} \ \)(水素),\( \ \mathrm {CH_{4}} \ \)(メタン),\( \ \mathrm {C_{2}H_{4}} \ \)(エチレン),\( \ \mathrm {C_{2}H_{6}} \ \)(エタン),\( \ \mathrm {C_{3}H_{8}} \ \)(プロパン),\( \ \mathrm {CO} \ \)(一酸化炭素),\( \ \mathrm {CO_{2}} \ \)(二酸化炭素)
②内部異常
\( \ \mathrm {H_{2}} \ \)(水素),\( \ \mathrm {CH_{4}} \ \)(メタン),\(\mathrm { \ C_{2}H_{2}} \ \)(アセチレン),\( \ \mathrm {C_{2}H_{4}} \ \)(エチレン)
上記のうち,\( \ \mathrm {C_{2}H_{2}} \ \)(アセチレン)はアーク放電や部分放電等高温熱分解時,\( \ \mathrm {C_{2}H_{4}} \ \)(エチレン)は低温分解時に発生します。\( \ \mathrm {C_{2}H_{2}} \ \)(アセチレン)が微量でも検出された場合は,総合診断を行うか検討する必要があります。
総合診断としては電気的試験(巻線抵抗測定,部分放電測定等),外部一般点検(放圧管の動作,タンクの変形),運転履歴・改修履歴の調査(過負荷運転等)等があり,これらを総合して,変圧器の運転継続可否,内部点検・修理,更新の要否等の検討をします。
2.変圧器の呼吸作用
変圧器に使用される絶縁油は温度上昇等により膨張収縮を繰り返すため,圧力の逃がし場所を設ける必要があります。
しかしながら,そのまま外気に触れると絶縁油が酸化劣化してしまうため,変圧器本体とは別にコンサベータという油の膨張室を設けます。
コンサベータ内の油と空気はゴム隔膜で絶縁されているため,直接触れ合うことがなく絶縁油の劣化が防止できます。
また,コンサベータ内の結露を防ぐ目的で,空気の吸気口には吸湿材(シリカゲル)を配置できるブリーザを設けます。

【解答】
(1)解答:ヨ
題意より,解答候補は(ト)振動,(ヌ)圧力上昇,(ヨ)過熱や放電,になると思います。
ワンポイント解説「1.油中ガス分析」の通り,絶縁油や絶縁物が分解し,正常な状態では発生しない分解ガスが発生し絶縁油中に溶解するのは異常部位での過熱や放電となります。
(2)解答:ハ
題意より,解答候補は(イ)メタンやエタン,(ハ)アセチレンやエチレン,(ヘ)水素や一酸化炭素,になると思います。
ワンポイント解説「1.油中ガス分析」の通り,内部異常時の特徴的なガスであり,微量であっても検出された場合は内部異常の可能性が高いので特に注意する必要があるのはアセチレンやエチレンとなります。
(3)解答:カ
題意より,解答候補は(リ)寿命診断,(ワ)強度診断,(カ)様相診断,になると思います。
一般に油中ガス分析の結果から異常と判定された場合に,過熱や放電現象,異常の部位及び大きさの程度や進展度合いを診断することを様相診断といいます。
(4)解答:チ
題意より,解答候補は(ニ)化学的試験,(チ)電気的試験,(ヲ)機械的試験,になると思います。
ワンポイント解説「1.油中ガス分析」の通り,内部に異常ありと診断された場合は,確度の高い診断をするため,巻線抵抗測定,部分放電測定等の電気的試験を行います。
(5)解答:ロ
題意より,解答候補は(ロ)窒素濃度,(ホ)二酸化炭素濃度,(ル)水素濃度,になると思います。
空気中の濃度は,窒素が約\( \ 78 \ \mathrm {%} \ \),酸素が約\( \ 21 \ \mathrm {%} \ \)なので,隔膜式コンサベー夕方式の油入変圧器において,ガスケットの劣化やピンホール有無の診断に有効なのは絶縁油中の窒素濃度測定となります。