《機械》〈電気化学〉[H27:問7]リチウムイオン電池に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,リチウムイオン電池に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選びなさい。

リチウムイオン電池はエネルギー密度が高い二次電池であることから,モバイル機器や電気自動車用の電池として利用されている。現状では,正極材料には\( \ \fbox {  (1)  } \ \),負極材料にはカーボン系材料を用いたものが最も多い。リチウムイオン電池の公称電圧は約\( \ \mathrm {3.6 \ V} \ \)と高いため水溶液は使用できないので,一般的に電解質には\( \ \fbox {  (2)  } \ \)を用いる。この電池の電極反応ではリチウム自体は酸化還元せず,\( \ \fbox {  (3)  } \ \)価のリチウムとして存在するため,リチウムが価数変化して酸化還元するリチウム二次電池とは区別される。また,エネルギー密度が高く,発火などの危険性も高いため,温度が高くなると外部回路の\( \ \mathrm {PTC ( Positive \ Temperature \ Coefficient )} \ \)素子及び電極間のセパレータが電流を遮断するなどの安全対策が施されている。

リチウムイオン電池の充放電に必要なリチウムの量は\( \ \fbox {  (4)  } \ \)の法則で計算することができる。リチウムのモル質量が\( \ 6.90 \ \mathrm {g/mol} \ \)であるとすると,例えば\( \ 1200 \ \mathrm {mA\cdot h} \ \)の充放電に必要なリチウム量は\( \ \fbox {  (5)  } \ \mathrm {mg} \ \)である。ただし,電気素量\( \ e=1.602 \times 10^{-19} \ \mathrm {C} \ \),アボガドロ定数\( \ N_{\mathrm {A}}=6.022\times 10^{23} \ \mathrm {{mol}^{-1}} \ \)とする。

〔問7の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& リチウムコバルト酸化物       &(ロ)& ファラデー \\[ 5pt ] &(ハ)& オーム      &(ニ)& +1 \\[ 5pt ] &(ホ)& 硫酸等の酸性電解液           &(ヘ)& リチウム金属 \\[ 5pt ] &(ト)& 155     &(チ)& リチウム水酸化物 \\[ 5pt ] &(リ)& +2     &(ヌ)& 495 \\[ 5pt ] &(ル)& 0     &(ヲ)& ネルンスト \\[ 5pt ] &(ワ)& 309     &(カ)& 炭酸エステル系の有機電解液 \\[ 5pt ] &(ヨ)& 水酸化ナトリウム等のアルカリ電解液   \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

リチウムイオン電池はリチウムを用いた電池で,電気容量が大きく温度特性が良いため,携帯電話等の電子機器のバッテリーとしてよく使用されます。電力科目でも出題され,近年出題が増えてきている印象があるので,確実に理解しておきましょう。

1.リチウムイオン電池
リチウムイオンが移動することにより充放電を行うことから「リチウムイオン電池」と呼ばれます。エネルギー密度が非常に高く高い起電力を得ることができ,常温で使用可能なので,パソコンや携帯電話等日常的に扱うものにも多く採用されています。

①材料(反応式は暗記不要です)
 正 極:\( \ \mathrm {LiCoO_{2}} \ \)等
 負 極:黒鉛等
 電解質:有機電解質

②特徴
・エネルギー密度が高く(鉛蓄電池の約\( \ 5 \ \)倍),公称電圧も\( \ 3.6 \ \mathrm {V} \ \)と高い。
・浅い充電と放電を繰り返すことで電池の容量が減ってしまうメモリー効果という現象が発生しない。
・\( \ 500 \ \)回以上の充放電が可能で,高寿命である。
・高速充電が可能で,充放電効率も良い。
・液体を使用せず凍ることがないため,氷点下から\( \ 60 \ \)℃の高温まで使用可能である。
・充放電時における材料の不安定化により,発火・爆発等の危険性があるため,充放電時の監視保護が別に必要となる。

【解答】

(1)解答:イ
題意より,解答候補は(イ)リチウムコバルト酸化物 ,(ヘ)リチウム金属,(チ)リチウム水酸化物,となりますが,リチウムは金属単体では水と非常によく反応するため,正極材としては酸化物を使用します。

(2)解答:カ
題意より,解答候補は(ホ)硫酸等の酸性電解液,(カ)炭酸エステル系の有機電解液,(ヨ)水酸化ナトリウム等のアルカリ電解液,となります。(1)同様リチウムは水と非常によく反応するため,電解質は炭酸エステル系の有機電解液となります。

(3)解答:ニ
題意より,解答候補は(ニ)\( \ +1 \ \),(リ)\( \ +2 \ \),(ル)\( \ 0 \ \),となりますが,リチウムは周期表において\( \ 1 \ \)価のアルカリ金属になります。

(4)解答:ロ
題意より,解答候補は(ロ)ファラデー,(ハ)オーム,(ヲ)ネルンスト,になると思います。電路内で起こった化学変化の量は,電気量に比例するのはファラデーの法則です。ネルンストの式は電池の起電力に関する式ですが,電験ではほぼ出題されない内容であると思います。

(5)解答:ワ
求めるリチウム量を\( \ x \ \mathrm {[g]} \ \)とすると,\( \ x \ \mathrm {[g]} \ \)のリチウムのモル数\( \ M \ \mathrm {[mol]} \ \)は,
\[
M=\frac {x}{6.90} \ \mathrm {[mol]}
\] であるので,このとき生じる電荷量\( \ Q_{1} \ \)は
\[
\begin{eqnarray}
Q_{1}&=&M\times e \times N_{\mathrm {A}} \\[ 5pt ] &=&\frac {x}{6.90}\times 1.602\times 10^{-19}\times 6.022\times 10^{23} \\[ 5pt ] &≒&13982x \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。また,\( \ 1200 \ \mathrm {mA\cdot h} \ \)の電荷量\( \ Q_{2} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
Q_{2}&=&1200\times 10^{-3}\times 3600 \\[ 5pt ] &=&4320 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。よって,\( \ Q_{1}=Q_{2} \ \)となるので,
\[
\begin{eqnarray}
13982x&=&4320 \\[ 5pt ] x&≒&0.309 \ \mathrm {[g]} → 309 \ \mathrm {[mg]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。



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