《電力》〈電気材料〉[R02:問6]電池電力貯蔵設備の種類とそれぞれの特徴に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

次の文章は,電池電力貯蔵設備に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

電池電力貯蔵設備は,需要家の負荷平準化,緊急時のバックアップ電源などに用いられてきたが,近年は再生可能エネルギー発電の出力変動に対応するための送電系統の\( \ \fbox {  (1)  } \ \)に用いる実証実験等も行われるようになった。そこでは,電極活物質などが異なる様々な二次電池が用いられている。

ナトリウム・硫黄電池は,二次電池の中では比較的,理論エネルギー密度が高いなどの特長を有している。同電池では,円筒形状の単電池を断熱容器に格納し,正極・負極活物質を溶融状態に保つため\( \ \fbox {  (2)  } \ \)程度に保つ。このためヒータの消費電力量が大きくならないような運用形態で使用することが望ましい。

また,電解質として有機溶媒電解液等を用いた\( \ \fbox {  (3)  } \ \)は,二次電池の中では充放電効率が比較的高く,常温動作であるなどの特長もあることから,電気自動車用も含めた様々な用途で利用が進んでいる。\( \ \fbox {  (3)  } \ \)は,ナトリウム・硫黄電池に比べ\( \ \fbox {  (4)  } \ \)を高くとることができるため,比較的小さい電池容量\( \ \mathrm {[kW \cdot h ]} \ \)で大きな出力\( \ \mathrm {[kW]} \ \)を得ることができる。

これらの二次電池以外に,電解質タンクの大きさを増すことで電池容量\( \ \mathrm {[kW \cdot h ]} \ \)を増大できるなどの特長を有するレドックスフロー電池も,送電系統用として使用されている。

二次電池を運用するにあたっては,過充電,過放電を避けつつ電池容量を有効に利用するため,満充電時に対する充電状況を比率で表した\( \ \fbox {  (5)  } \ \)を適切に管理する必要がある。\( \ \fbox {  (5)  } \ \)の推定方法は電池種別により異なるが,例えば電池の開回路電圧を用いて推定するなどの方法がある。

〔問6の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& \mathrm {C} \ レート     &(ロ)& \mathrm {OCV}     &(ハ)& 過渡安定性向上制御 \\[ 5pt ] &(ニ)& \mathrm {SOC}     &(ホ)& 放電終止電圧     &(ヘ)& \mathrm {SOH} \\[ 5pt ] &(ト)& ランプレート     &(チ)& 100℃     &(リ)& 周波数制御 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 200℃     &(ル)& リチウムイオンキャパシタ       &(ヲ)& 鉛蓄電池 \\[ 5pt ] &(ワ)& 高調波抑制制御      &(カ)& 300℃     &(ヨ)& リチウムイオン電池 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

以前は電力科目で出題の少なかった二次電池に関する問題ですが,近年の社会情勢を踏まえ,出題されるようになったと考えられます。
平成28年問5にも出題されているので,今後も数年に1回程度は出題される可能性がある分野と言えると思います。
文中のレドックスフロー電池は,二種では出題されていませんが,一種では出題されています。

1.\( \ \mathrm {NAS} \ \)電池
ナトリウム\( \ \left( \mathrm {Na} \right) \ \)と硫黄\( \ \left( \mathrm {S} \right) \ \)を使用していることから「\( \ \mathrm {NAS} \ \)電池」と呼ばれ,エネルギー密度が高く,大容量の電力貯蔵システムを構築できることから,大型のショッピングセンタ―や工場等でも設置されるようになっています。

①放電時の反応式(充電時は逆です)
 正極:\( \ \mathrm {5S} + \mathrm {2Na}^{+} + 2\mathrm {e}^{-} → \mathrm {Na_{2}S_{5}} \ \)
 負極:\( \ \mathrm {2Na} → \mathrm {2Na}^{+} + 2\mathrm {e}^{-} \ \)
 全体:\( \ \mathrm {2Na} + \mathrm {5S} → \mathrm {Na_{2}S_{5}}\ \)

②特徴
・鉛蓄電池よりもエネルギー密度が大きく(約\( \ 3 \ \)倍),質量も体積も小さくできる。
・複数の電池を直並列することで,大容量とすることができる。
・耐用年数が長いため,長期にわたって信頼性を維持できる。
・高速応答が可能で,瞬時電圧低下や出力変動の大きい分散型電源等による電力変動時にも安定供給を維持できる。
・動作温度が約\( \ 300 \ \)℃と高く,この温度をヒーター等で維持しなければならない。
・ナトリウムが水と反応すると爆発的な燃焼を起こすので,発災時に一般的な放水消火はできない。
・水分を含む空気と接触すると発火するので,管理に注意を要する。

2.リチウムイオン電池
リチウムイオンが移動することにより充放電を行うことから「リチウムイオン電池」と呼ばれます。エネルギー密度が非常に高く高い起電力を得ることができ,常温で使用可能なので,パソコンや携帯電話等日常的に扱うものにも多く採用されています。

①材料(反応式は暗記不要です)
 正 極:\( \ \mathrm {LiCoO_{2}} \ \)等
 負 極:黒鉛等
 電解質:有機電解質

②特徴
・エネルギー密度が高く(鉛蓄電池の約\( \ 5 \ \)倍),公称電圧も\( \ 3.6~3.7 \ \mathrm {V} \ \)と高い。
・浅い充電と放電を繰り返すことで電池の容量が減ってしまうメモリー効果という現象が発生しない。
・\( \ 500 \ \)回以上の充放電が可能で,高寿命である。
・高速充電が可能で,充放電効率も良い。
・液体を使用せず凍ることがないため,氷点下から\( \ 60 \ \)℃の高温まで使用可能である。
・充放電時における材料の不安定化により,発火・爆発等の危険性があるため,充放電時の監視保護が別に必要となる。

【用語の解説】

(イ)\( \ \mathrm {C} \ \)レート
 電池の定格容量を1時間の放電あるいは充電し終える電流値を基準として,その倍数で表し,これが大きいことは電池の単位容量当たりのパワーが大きいことを意味します。
(ロ)\( \ \mathrm {OCV} \ \)
 Open circuit voltageの略で,電池に何も繋いでいない状態の両極間の電圧をいいます。
(ニ)\( \ \mathrm {SOC} \ \)
 State of Chargeの略で,満充電に対し充電されている充電率を示すものです。
(ヘ)\( \ \mathrm {SOH} \ \)
 State of Healthの略で,初期状態の充電容量と比較した現時点での充電可能容量であり,電池の劣化度合いを示すものです。
(ト)ランプレート
 英語でRamp Rate,出力変化率のことです。

【解答】

(1)解答:リ
題意より解答候補は,(ハ)過渡安定性向上制御,(リ)周波数制御,(ワ)高調波抑制制御,になると思います。
周波数は有効電力の需要と供給のバランスが崩れた際に変動するものであり,電力貯蔵設備の設置目的としては周波数制御が最も適切になります。
高調波抑制制御は電力貯蔵設備には関係がありません。
電池電力貯蔵設備は過渡安定性向上の可能性を持っていますが,過渡安定性は事故時等を想定したもので,再生可能エネルギー発電の日常的な出力変動とは少し違う意味になります。

(2)解答:カ
題意より解答候補は,(チ)\( \ 100 \ \)℃,(ヌ)\( \ 200 \ \)℃,(カ)\( \ 300 \ \)℃,になると思います。
ワンポイント解説「1.\( \ \mathrm {NAS} \ \)電池」の通り,\( \ \mathrm {NAS} \ \)電池の動作温度は\( \ 300 \ \)℃程度になります。

(3)解答:ヨ
題意より解答候補は,(ル)リチウムイオンキャパシタ,(ヲ)鉛蓄電池,(ヨ)リチウムイオン電池,になると思います。
ワンポイント解説「2.リチウムイオン電池」の通り,「二次電池の中では充放電効率が比較的高く,常温動作であるなどの特長もあることから,電気自動車用も含めた様々な用途で利用が進んでいる」のはリチウムイオン電池になります。

(4)解答:イ
題意より解答候補は,(イ)\( \ \mathrm {C} \ \)レート,(ロ)\( \ \mathrm {OCV} \ \),(ニ)\( \ \mathrm {SOC} \ \),(ヘ)\( \ \mathrm {SOH} \ \),(ト)ランプレート,になると思います。
選択肢として悩ましいところですが,後の文に「比較的小さい電池容量\( \ \mathrm {[kW \cdot h ]} \ \)で大きな出力\( \ \mathrm {[kW]} \ \)を得ることができる」となっていることから,\( \ \mathrm {C} \ \)レートが最も適切であることがわかります。

(5)解答:ニ
題意より解答候補は,(イ)\( \ \mathrm {C} \ \)レート,(ロ)\( \ \mathrm {OCV} \ \),(ニ)\( \ \mathrm {SOC} \ \),(ヘ)\( \ \mathrm {SOH} \ \),(ト)ランプレート,になると思います。
用語の解説の通り,「満充電時に対する充電状況を比率で表し」ているのは\( \ \mathrm {SOC} \ \)となります。



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