【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
電力系統の過渡安定度向上対策に関して,次の問に答えよ。
以下の過渡安定度向上対策から三つを選定し,その原理を発電機の加速エネルギーや減速エネルギーの観点から説明するとともに,採用時の留意点を各対策につき,100~200文字程度で簡潔に述べよ。
(1) 直列コンデンサ
(2) 励磁方式の応答性と発電機のシーリング電圧の改善
(3) 高速遮断と高速再閉路方式
(4) タービン高速バルブ制御
(5) 低インダクタンス送電線
【ワンポイント解説】
過渡安定度は短絡や地絡等の事故やそれに伴う遮断器の開閉等によってどれだけ安定的に電力を送り続けられるかを表す指標で,そのメカニズムの説明には,送電電力\( \ P \ \)と相差角\( \ \delta \ \)の関係\(\left( \displaystyle P=\frac {V_{\mathrm {s}}V_{\mathrm {r}}}{x}\sin \delta \right) \)を表す図1のような\( \ P-\delta \ \)曲線による等面積法が用いられます。図1の\( \ \mathrm {a} \ \)で安定運転していた発電機が事故が発生すると,多量の無効電力が流れ,\( \ \mathrm {b} \ \)点に移動します。事故を除去する\( \ \mathrm {c} \ \)点まで発電機は加速し,事故除去後,線路は一相分なくなる分事故前よりリアクタンスが大きくなるため,\( \ P-\delta \ \)曲線は緑線になり,\( \ \mathrm {d} \ \)点に移動します。その後,発電機は減速エネルギーが働き始め,\( \ \mathrm {e} \ \)点まで進むと減速を開始し,元の出力と同じ\( \ \mathrm {f} \ \)点まで行くと発電機は安定します。減速エネルギーが足りず,\( \ \mathrm {e}^{\prime } \ \)点まで行ってしまうと脱調します。
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【解答】
(1)直列コンデンサ
(ポイント)
・直列コンデンサを挿入することでリアクタンスが小さくなり,図1の青と緑の線を上側に持っていくことができ,減速エネルギーを増大させることができる。
・軸ねじれ現象や自己励磁現象等が発生する。
・直列コンデンサ自体に大きな電圧がかかるので,異常電圧発生の可能性がある。
(試験センター解答例)
線路に直列にコンデンサを挿入して,送電線などのリアクタンスを補償し,全体のリアクタンスを小さくすることにより,減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
留意点は,発電機・タービン系との軸ねじれ共振(SSR),無負荷変圧器励磁時の鉄共振,故障電流によるコンデンサ端子電圧での異常電圧の発生などがある。(留意点は系統構成などによりこれ以外も考えられるが,代表的な留意点として挙げている。以下の各項でも同じ。)
(2)励磁方式の応答性と発電機のシーリング電圧の改善
(ポイント)
・励磁方式の応答性を上げることで,図1の緑線を上側に持っていくことができ,減速エネルギーを増大させることができる。
・高電圧化することで,図1の青と緑の線を上側に持っていくことができ,減速エネルギーを増大させることができる。
・応答性を上げると,負制動現象が発生しやすくなる。
(試験センター解答例)
発電機励磁方式を速応化し,かつ,シーリング電圧(頂上電圧)を高電圧化することにより,発電機内部電圧を上昇させることにより,減速エネルギーを増加させて過渡安定度を向上させる。
留意点は,速応化により振動発散現象(負制動現象)が生じやすくなるので,一般には PSS(電力系統安定化装置)が付加されること,発電機の界磁巻線の絶縁である。
(3)高速遮断と高速再閉路方式
(ポイント)
・高速遮断と高速再閉路方式を取り入れることで,図1のb-c間を短くすることができ,加速エネルギーを小さく,減速エネルギーを上げることができる。
・急激な遮断によって発電機-タービン軸間の過大な軸トルクの発生の可能性があります。
(試験センター解答例)
高速な保護リレーによる事故判定と高速な遮断器動作によって事故除去時間を短縮し事故中の加速エネルギーを減少させ,また,高速な再閉路により減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
留意点は,高速再閉路に適した動作責務を持った遮断器にすること,発電機-タービン軸間の過大な軸トルクの発生と,消アークイオン時間を考慮した再閉路時間の設定である。
(4)タービン高速バルブ制御
(ポイント)
・出力を下げることで,減速エネルギーを増大させる。
・弁操作により,蒸気圧力が上がりやすく,発電ユニットのバランスが崩れやすくなります。
(試験センター解答例)
事故を検出して,高速に蒸気弁を閉鎖し,タービン出力を減じることにより,主に事故除去後の減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。蒸気弁としては,通常はインターセプト弁のみの制御であるが,加減弁を制御することもある。
留意点は,蒸気弁の閉鎖により蒸気圧力が上昇しすぎないこと,タービン出力の急変に対し PSS が正常に動作することを確認することである。
(5)低インダクタンス送電線
(ポイント)
・送電線のインダクタンスを小さくすることで,図1の青と緑の線を上側に持っていくことができ,減速エネルギーを増大させることができる。
・インダクタンスを小さくするには,複導体化,線路の半径を大きくする等の方法になるが,いずれも荷重が増加し,鉄塔の強度計算等を検討する必要がある。
(試験センター解答例)
送電線を複導体化し,主に複導体の等価半径を大きくして,送電線のリアクタンスを減少させ,主に減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
複導体化に伴う留意点は,電気的には静電容量の増加,機械的には荷重の増加,ギャロッピングやサブスパン振動および複導体の稔回(ねじれ)などへの対処である。