《電力・管理》〈電気施設管理〉[R06:問6]電力系統への分散型電源の大量連系時の課題に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

太陽光発電の系統連系量が増加すると,日射量の多い昼間帯に逆潮流が流れることによって,電力系統の電圧が上昇する。電力系統への分散型電源の大量連系時の課題について,次の問に答えよ。

(1) 特別高圧系統に連系する変電所側において,系統電圧上昇を抑えるために用いられる調相設備を二つ挙げ,それぞれについて原理及び長所・短所を含めて\( \ 80 \ \)字程度で述べよ。

(2) 太陽光発電等の分散型電源の系統への連系時に求められる,事故時運転継続の要件について,対象とする事故事象を一つ挙げよ。さらに,その運転継続の必要性を\( \ 80 \ \)字程度で述べよ。

【ワンポイント解説】

分散型電源の連系による電圧上昇対策と事故時運転継続に関する問題です。
(1)は\( \ 3 \ \)種までに学習した内容から考えれば良いですが,(2)は電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドラインの知識が必要となります。過去にもガイドラインから出題されたことはありますので,経済産業省資源エネルギー庁のホームページから最新のものをチェックしておくようにして下さい。

1.代表的な調相設備とその特徴
代表的な無効電力の調相設備には次の4種類があり,それぞれ以下のような特徴があります。

①電力用コンデンサ
進相の無効電力を消費し,進み位相にする設備です。重負荷時に力率を改善し,系統の電圧降下や電力損失を軽減することができます。
開閉器投入・開放操作で調整するため,無効電力の調整は段階的となります。
電力用コンデンサ投入に伴い,電圧及び電流波形のひずみ,高調波,コンデンサ投入時の突入電流防止等が発生するおそれがあるため,直列にリアクトルを挿入します。
価格面で有利であり,静止機器であるため保守が容易となります。

②分路リアクトル
遅相の無効電力を消費し,遅れ位相にする設備です。夜間・軽負荷時に力率を改善し,受電端電圧上昇を抑制することができます。
開閉器投入・開放操作で調整するため,無効電力の調整は段階的となります。
電力用コンデンサ同様,価格面で有利であり,静止機器であるため保守が容易となります。

③同期調相機
無負荷の同期電動機で図1に示すような特性があるため,界磁電流を調整し無効電力を遅れから進みまで連続的に調整することができます。
回転子の慣性質量により系統の電圧特性や安定度を向上させる効果があり,これは同期調相機特有の特徴です。
ただし,回転機であることから電力用コンデンサや分路リアクトルと比べコストが高く,軸受やブラシの摩擦損,風損等電力損失が多く,保守に労力を要します。

④静止形無効電力補償装置
サイリスタによる高速制御で,無効電力を遅れから進みまで調整可能な装置です。
サイリスタ位相制御によりリアクトル電流を調整して無効電流を連続的に調整する\( \ \mathrm {TCR} \ \)方式,サイリスタによりコンデンサを開閉して無効電力を段階的に調整する\( \ \mathrm {TSC} \ \)方式,自己消弧素子を用いた自励式変換器を用いることで無効電力を連続的に調整する自励式\( \ \mathrm {SVC} \ \left( \mathrm {STATCOM}\right) \ \)等があります。

それぞれの特徴を比較すると下表のようになります。
\[
\begin{array}{|c|c|c|c|c|}
\hline
& 電力用コンデンサ & 分路リアクトル & 同期調相機 & 静止形無効電力補償装置\\
& & & & \mathrm {SVC}\\
\hline
調整能力 & \displaystyle {進相電力を吸収}\atop \displaystyle {(電流を進ませる)} & \displaystyle {遅相電力を吸収}\atop \displaystyle {(電流を遅らせる)} & 遅れから進みまで調整 & 遅れから進みまで調整 \\
\hline
調整 & 段階的 & 段階的 & 連続的 & 連続的 \\
\hline
コスト & 安 & 安 & 高 & 高 \\
\hline
保守性 & 容易 & 容易 & 頻雑 & 容易 \\
\hline
\end{array}
\]

【解答】

(1)系統電圧上昇抑制に有効な調相設備を二つとそれぞれの原理及び長所・短所
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.調相設備の種類」の通りです。
・電圧上昇抑制なので,電力用コンデンサ以外の設備が有効となります。

(試験センター解答例)
〔分路リアクトル\( \ \left( \mathrm {ShR} \right) \ \)〕
リアクトルにより系統から遅れ電流を取ることによって,無効電力を吸収し電圧を低下させる。電圧調整が段階的だが,設備コストが比較的安価で保守が容易である。

〔静止型無効電力補償装置\( \ \left( \mathrm {SVC} \right) \ \)〕
サイリスタ点弧角を位相制御することでリアクトルに流れる電流を連続的に変化させて,遅れの無効電力を連続的かつ高速に調整できる。設備コストが比較的高い。

〔自励式静止型無効電力補償装置\( \ \left( \right. \)自励式\( \ \mathrm {SVC,STATCOM} \left. \right) \ \)〕
自己消弧素子を用いた自励式変換器により,無効電力を発生し,又は吸収し,進み・遅れ双方の無効電力を連続的かつ高速に調整できる。設備コストが比較的高い。

〔同期調相機\( \ \left( \mathrm {RC} \right) \ \)〕
励磁調整によって進み又は遅れの無効電力を連続的に発生できる。設備コストが高価で,回転機のため保守が大変だが電圧調整を連続的かつ高速に調整できる。

(2)事故時運転継続の対象とする事故事象一つとその運転継続の必要性
(ポイント)
・次に示す「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」の通りです。
・分散型電源は解列すると有効電力や無効電力の供給力が減少するため,系統としては周波数が下がり,電圧も下がることになります。仮に瞬間的な周波数低下や電圧低下でも保護装置が働き解列してしまうと系統に悪影響を与えてしまう可能性があるため,このような場合には不要解列を防止する必要があります。

(試験センター解答例)
事故事象:系統事故による広範囲の瞬時電圧低下又は系統事故による瞬時的な周波数の変化
必要性:分散型電源が一斉に停止又は解列すると,系統全体の電圧や周波数の維持に大きな影響を与える可能性があり,不要解列を防止するために事故時運転継続が必要である。

<電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン(抜粋)>
第2章 連系に必要な技術要件
第5節 特別高圧電線路との連系
5.不要解列の防止
(1)保護協調
発電等設備の故障又は系統の事故時に、事故範囲の局限化等を行い、需要家への電気の安定供給を維持していくためには、安全確保上の対応を講じることは前提として、

① 連系された系統以外の事故時には、原則として発電等設備は解列されないこと

② 連系された系統から発電等設備が解列される場合には、逆電力リレー、不足電力リレー等による解列を自動再閉路時間より短い時限、かつ、過渡的な電力変動による当該発電等設備の不要な遮断を回避できる時限で行うことが適切である。

(2)事故時運転継続
発電等設備が、系統の事故による広範囲の瞬時電圧低下や瞬時的な周波数の変化等により一斉に停止又は解列すると、系統全体の電圧や周波数の維持に大きな影響を与える可能性があるため、そのような場合にも発電等設備は運転を継続するものとする。

(3)電圧・周波数変動による不要解列の防止
作業停止や需要増加などに伴い、電圧・周波数変動が継続する状況においても、発電等設備の不要解列による系統電圧・周波数維持への影響を防止するため、一定の電圧・周波数変動範囲内においては、発電等設備は運転を継続するものとする。



記事下のシェアタイトル