《電力》〈火力〉[R06:問1]石炭火力発電の種類と特徴に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

次の文章は,石炭火力発電所に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

石炭は性状の幅が広く,その分類の一つに炭化の度合いがあるが,最も炭化が進んだものは\( \ \fbox {  (1)  } \ \)と呼ばれる。

石炭を燃焼させる方法としては,火格子(ストーカ)により塊状のまま燃焼させる方法や,微粉炭機により微粉状にして燃焼させる方法などがある。微粉炭燃焼はストーカ燃焼に比べて,必要な過剰空気は\( \ \fbox {  (2)  } \ \)。

排煙脱硫装置には様々な方式があるが,国内では\( \ \fbox {  (3)  } \ \)を吸収材とする方式が一般的に用いられている。

排煙脱硝法には湿式法と乾式法があり,国内で広く採用されている乾式法は,適当な\( \ \fbox {  (4)  } \ \)と触媒を用いて,窒素酸化物を無害な窒素や水蒸気などに変える方法である。

石炭ガス化複合発電では,ガス火炉で石炭から生成した\( \ \fbox {  (5)  } \ \)や水素を発電に用いる。

〔問1の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 石灰石     &(ロ)& 亜れき青炭       &(ハ)& 中和剤 \\[ 5pt ] &(ニ)& 還元剤     &(ホ)& 塩酸     &(ヘ)& 多くなる \\[ 5pt ] &(ト)& 無煙炭     &(チ)& 二酸化炭素     &(リ)& 一酸化炭素 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 酸化剤     &(ル)& 少なくなる     &(ヲ)& \mathrm {LNG} \\[ 5pt ] &(ワ)& 変わらない       &(カ)& 褐炭     &(ヨ)& イオン交換樹脂 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

石炭火力の特徴や種類,環境対策に関する問題です。
電験のテキストではほとんど掲載されていない,火力発電の専門書等に記載されている内容もあるため,内容的には\( \ 1 \ \)種レベルの問題と考えて良いかと思います。

1.火力発電所で発生する大気汚染物質
①窒素酸化物\( \ \left( \mathrm {NO_{x}}\right) \ \)
 燃料に含まれる窒素と酸素が反応することにより発生するフューエル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \),高温燃焼をすることにより発生するサーマル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)があります。
 のどや気管,肺等に悪影響を与えるとされて大気汚染防止法で規制されています。
 火力発電所での対策としては,脱硝装置で排ガス中に含まれる\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を取り除く,低\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)バーナーや\( \ 2 \ \)段燃焼法を採用して高温燃焼を避ける,排ガス混合通風機を採用して燃焼用空気中の酸素濃度を下げ高温燃焼を避ける,等の方法が取られます。

②硫黄酸化物\( \ \left( \mathrm {SO_{x}}\right) \ \)
 主に石炭や液体燃料中に含まれる硫黄分が酸素と反応することにより発生します。
 窒素酸化物と同様にのどや気管等に悪影響を与え,ぜん息の原因にもなるとされています。
 火力発電所での対策としては,燃料中に硫黄分を含まない\( \ \mathrm {LNG} \ \)や良質の液体燃料を採用する,脱硫装置を採用する等の方法が取られます。

③ばいじん
 主に燃料中に含まれる灰分が燃焼することにより発生します。
 ばいじんに関しても気道等呼吸器系に影響を与えるとされており,また煙も黒煙となります。
 火力発電所の対策としては電気集塵機を採用して排ガス中に含まれるばいじんを静電気の力で吸引する等の方法が取られます。

2.火力発電所の煙風道のフロー
図1に石炭火力発電所の煙風道系統の概略フローの一例を示します。図内の各補機の名称及び役割を覚えておいて下さい。

①通風機
 押込通風機:ボイラへ空気を送るためのファン。
 誘引通風機:ボイラから出てくる排ガスを煙突へ送るファン。押込通風機よりも大き
       くして,ボイラ内を負圧にし,粉塵の外への漏れ出しを防ぎます。
 排ガス混合通風機:排ガスを燃焼用空気に混ぜ,酸素濃度を下げて燃焼温度を下げる
          ことにより,サーマル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を低減させます。

②熱交換器
 空気予熱器:排ガスと燃焼用空気を熱交換して,全体の熱効率を上げます。
 \(\mathrm {GGH}\):冷却吸収塔前後の排ガスを熱交換して,煙突の腐食を防止します。

③環境対策装置
 排煙脱硝装置:排ガスの\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を窒素と水に分解し,排ガス中の\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)濃度を
        低減させます。乾式のアンモニア接触還元法が一般的です。
 電気集塵機 :排ガスに含まれるばいじんを静電気を利用して回収し,排ガス
        中のばいじん濃度を低減させます。
 冷却吸収塔 :排ガス中の\( \ \mathrm {SO_{x}} \ \)を回収し,排ガス中の\( \ \mathrm {SO_{x}} \ \)濃度を低減させ
 (脱硫装置) ます。大規模発電所では石灰石をスラリー状にして\( \ \mathrm {SO_{x}} \ \)と反
        応させる石灰石膏法が一般的です。

3.石炭化度
原料となる植物から石炭に変化していく過程を石炭化といい,その度合いを石炭化度といいます。
石炭化により泥炭→亜炭→褐炭→亜瀝青炭→瀝青炭→無煙炭となっていき,一般に褐炭から無煙炭までを石炭と呼びます。
具体的には\( \ \mathrm {JIS} \ \)では石炭化度の指標として,発熱量や燃料費,粘結性により分類されています。


出典:JIS M 1002(日本産業標準調査会、経済産業省)を基に作成

4.石炭ガス化複合発電
石炭ガス化複合発電は,石炭ガス化炉,ガス精製装置,コンバインド設備で構成されます。

石炭ガス化炉では石炭を部分燃焼(酸化)させて熱量の多い一酸化炭素ガスと水素ガスを精製します。

ガス化炉から出てきた石炭ガスはガス精製装置に送られ,集じん装置でダスト,金属成分等の不純物を,脱硫装置で硫黄化合物(\( \ \mathrm {H_{2}S} \ \))を除去します。

その後,ガスはコンバインド設備に送られ,ガスタービンへ送られ排ガスとなります。コンバインドサイクル設備は\( \ \mathrm {LNG} \ \)焚き複合発電と同様にガスタービン,排熱回収ボイラ,蒸気タービンで構成されます。

石炭ガス化複合発電はガス精製装置で湿式回収を行うこと等により,\( \ \mathrm {LNG} \ \)焚き複合発電より効率は低いですが,\( \ 45 \ % \ \)以上の効率があり,汽力発電所より熱効率は高いです。現在も高効率化に向け研究がされています。


出典:石炭ガス化複合発電(IGCC)の最新事情と課題
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/57/8/57_530/_pdf

5.石炭ガス化複合発電の特徴
・熱効率が従来の石炭発電より高い。
・ガスタービン発電に供給する前のガスで不純物を除去するため,煙突から排出される排ガスに含まれる,窒素酸化物,硫黄酸化物,ばいじんの量が少ない。
・石炭灰が溶融スラグとして排出され,従来の石炭発電で排出されるフライアッシュより少ない。
・従来の石炭火力での利用が困難であった発熱量が低いが灰融点が低い低品位炭が利用できる。
・構成設備が多く,複雑となるため,故障の発生確率が高くなる。
・一酸化炭素が発生するプロセスがあるため,扱いに注意を要する。

【解答】

(1)解答:ト
題意より解答候補は,(ロ)亜れき青炭,(ト)無煙炭,(カ)褐炭,になると思います。
ワンポイント解説「3.石炭化度」の通り,最も炭化が進んだものを無煙炭といいます。

(2)解答:ル
題意より解答候補は,(ヘ)多くなる,(ル)少なくなる,(ワ)変わらない,になると思います。
微粉炭の方が粒子が小さく完全燃焼させやすいため,必要な過剰空気は少なくなり,燃焼効率も良くなります。したがって,発電用の大形火力発電所では微粉炭機を用いて微粉炭燃焼をさせます。

(3)解答:イ
題意より解答候補は,(イ)石灰石,(ホ)塩酸,(ヨ)イオン交換樹脂,等になると思います。
ワンポイント解説「2.火力発電所の煙風道のフロー」の通り,排煙脱硫装置では石灰石を吸収材とする方式が一般的に用いられています。

(4)解答:ニ
題意より解答候補は,(ハ)中和剤,(ニ)還元剤,(ヌ)酸化剤,になると思います。
ワンポイント解説「2.火力発電所の煙風道のフロー」の通り,排煙脱硝装置では還元剤であるアンモニアと触媒を用いて,窒素酸化物を無害な窒素や水蒸気などに変えます。

(5)解答:リ
題意より解答候補は,(チ)二酸化炭素,(リ)一酸化炭素,(ヲ)\( \ \mathrm {LNG} \ \),になると思います。
ワンポイント解説「4.石炭ガス化複合発電」の通り,石炭ガス化複合発電では,ガス火炉で石炭から生成した一酸化炭素や水素を発電に用います。



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