《法規》〈電気設備技術基準〉[H23:問7]弱電流電線路に及ぼす誘導障害の防止に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

次の文章は,架空電線路が弱電流電線路に及ぼす静電誘導障害及び電磁誘導障害の防止に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選びなさい。

a.電気設備技術基準の解釈では,使用電圧が\( \ \fbox {  (1)  } \ \mathrm {[V]} \ \)を超える特別高圧架空電線路は,電話線路のこう長\( \ 40 \ \mathrm {[km]} \ \)ごとに常時静電誘導作用による誘導電流が\( \ \fbox {  (2)  } \ \mathrm {[\mu A]} \ \)を超えないようにすること(架空電話線が通信用ケーブルであるとき,架空電話線路の管理者の承諾を得たときは,この限りでない。)と規定されている。この誘導電流の計算は,所定の計算式によるが,架空電線路と電話線路との距離が十分離れている部分は計算を省略している。例えば,\( \ 160 \ 000 \ \mathrm {[V]} \ \)を超える架空電線路の場合は,電話線路との距離が\( \ \fbox {  (3)  } \ \mathrm {[m]} \ \)以上離れている部分は誘導電流の算定を省略している。

b.また,特別高圧架空電線路は,弱電流電線路に対して電磁誘導作用により通信上の障害を及ぼすおそれがないように施設することと規定されている。
 架空電線路側における対策として,架空地線にアルミ覆鋼より線などを使用して\( \ \fbox {  (4)  } \ \)を図ることや架空地線の条数を増やすことにより\( \ \fbox {  (5)  } \ \)を向上させることなどが行われている。
 弱電流電線路側の対策としては,ルートの変更による架空電線路との離隔距離の拡大,\( \ \fbox {  (5)  } \ \)の高い通信ケーブルへの張り替え,避雷器の設置による誘導電圧の低減などが実施されている。

〔問7の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 60 \ 000       &(ロ)& 1     &(ハ)& 300 \\[ 5pt ] &(ニ)& 100     &(ホ)& 遮へい効果     &(ヘ)& 130 \ 000 \\[ 5pt ] &(ト)& 高抵抗化     &(チ)& 高張力化     &(リ)& 3 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 2     &(ル)& 10 \ 000     &(ヲ)& 500 \\[ 5pt ] &(ワ)& 絶縁性     &(カ)& 低抵抗化     &(ヨ)& 導電性 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

電気設備の技術基準の解釈第52条と電気施設管理の誘導障害を絡めたような内容となっています。
電気設備技術基準と電気施設管理を組み合わせた問題は\( \ 3 \ \)種ではあまり出題されないようなパターンですが,\( \ 2 \ \)種においては二次試験でも同様な出題形式がされることがありますので,日頃から幅広い知識を習得するようにして下さい。

1.静電誘導障害
送電線と通信線間の相互静電容量と通信線と大地間の対地静電容量により,送電線の電圧が分圧されるため発生します。
定量的には,図1の示すように各部電圧と静電容量を定めると,送電線から通信線へ流れる電流の合計は,通信線から大地へ流れる電流と等しいので,
\[
\begin{eqnarray}
\mathrm {j}\omega C_{\mathrm {a}} \left( {\dot E}_{\mathrm {a}}-{\dot E}_{0}\right) +\mathrm {j}\omega C_{\mathrm {b}} \left( {\dot E}_{\mathrm {b}}-{\dot E}_{0}\right) +\mathrm {j}\omega C_{\mathrm {c}} \left( {\dot E}_{\mathrm {c}}-{\dot E}_{0}\right) &=&\mathrm {j}\omega C_{0}{\dot E}_{0} \\[ 5pt ] C_{\mathrm {a}}{\dot E}_{\mathrm {a}}- C_{\mathrm {a}}{\dot E}_{0}+C_{\mathrm {b}}{\dot E}_{\mathrm {b}} -C_{\mathrm {b}}{\dot E}_{0}+C_{\mathrm {c}} {\dot E}_{\mathrm {c}}-C_{\mathrm {c}} {\dot E}_{0} &=& C_{0}{\dot E}_{0} \\[ 5pt ] \left( C_{\mathrm {a}}+C_{\mathrm {b}}+C_{\mathrm {c}}+C_{0}\right) {\dot E}_{0}&=&C_{\mathrm {a}}{\dot E}_{\mathrm {a}}+C_{\mathrm {b}}{\dot E}_{\mathrm {b}}+C_{\mathrm {c}} {\dot E}_{\mathrm {c}} \\[ 5pt ] {\dot E}_{0}&=&\frac {C_{\mathrm {a}} {\dot E}_{\mathrm {a}}+C_{\mathrm {b}} {\dot E}_{\mathrm {b}}+C_{\mathrm {c}} {\dot E}_{\mathrm {c}}}{C_{\mathrm {a}}+C_{\mathrm {b}}+C_{\mathrm {c}}+C_{0}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。ここで,三相平衡でよくねん架された送電線であれば,静電容量は等しくなり,\( \ {\dot E}_{0}≒0 \ \)となります。

2.電磁誘導障害
送電線と通信線との相互インダクタンスと送電線に流れる各電流の電磁誘導により誘導電圧が発生します。
定量的には,図2のように各電流と相互インダクタンス\( \ M \ \)と並行区間長\( \ L \ \)を定めると,通信線に発生する電圧\( \ {\dot V}_{0} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
{\dot V}_{0}&=&\mathrm {j}\omega ML {\dot I}_{\mathrm {a}}+\mathrm {j}\omega ML {\dot I}_{\mathrm {b}}+\mathrm {j}\omega ML {\dot I}_{\mathrm {c}} \\[ 5pt ] &=&\mathrm {j}\omega ML \left( {\dot I}_{\mathrm {a}}+{\dot I}_{\mathrm {b}}+{\dot I}_{\mathrm {c}} \right)
\end{eqnarray}
\] となります。通常運転時,三相平衡であれば\( \ {\dot I}_{\mathrm {a}}+{\dot I}_{\mathrm {b}}+{\dot I}_{\mathrm {c}} ≒0 \ \)であるので,\( \ {\dot V}_{0}≒0 \ \)となります。

3.誘導障害への対策
静電誘導障害及び電磁誘導障害に共通する対策としては以下の方法があります。
 ・送電線をねん架する。
 ・送電線と通信線の離隔距離を大きくする。
 ・送電線と通信線の間に遮へい線を設置する。
 ・通信線に遮へい層のあるケーブルを採用する。
 ・通信線に光ファイバケーブルを採用する。
また,電磁誘導障害は電流に起因する障害なので,事故による三相不平衡の電流に対する対策として,以下の方法も有効となります。
 ・中性点抵抗接地方式の抵抗値を大きくする。
 ・中性点接地方式に消弧リアクトル接地方式を採用する。
 ・送電系統の保護継電方式に高速遮断方式を採用する。

【解答】

(1)解答:イ
電気設備の技術基準の解釈第52条第5項2号に規定されている通り,\( \ 60 \ 000 \ \mathrm {V} \ \)となります。

(2)解答:リ
電気設備の技術基準の解釈第52条第5項2号に規定されている通り,\( \ 3 \ \mathrm {\mu A} \ \)となります。

(3)解答:ヲ
電気設備の技術基準の解釈第52条第5項3号52-1表に規定されている通り,\( \ 500 \ \mathrm {m} \ \)となります。

(4)解答:カ
題意より解答候補は,(ト)高抵抗化,(チ)高張力化,(カ)低抵抗化,になると思います。
架空地線にアルミ覆鋼より線など導電性の高い線を使用し低抵抗化すると,弱電流電線路に対する電磁誘導作用は小さくなります。

(5)解答:ホ
題意より解答候補は(ホ)遮へい効果,(ワ)絶縁性,(ヨ)導電性,になると思います。
架空地線の条数を増やすことにより落雷に対する遮へい効果を向上させ三相不平衡を防いだり,ワンポイント解説「3.誘導障害への対策」の通り,遮へい効果の高い通信ケーブルの張り替えは電磁誘導作用への対策となります。

<電気設備の技術基準の解釈第52条>
低圧又は高圧の架空電線路(き電線路(第201条第五号に規定するものをいう。)を除く。)と架空弱電流電線路とが並行する場合は、誘導作用により通信上の障害を及ぼさないように、次の各号により施設すること。

 一 架空電線と架空弱電流電線との離隔距離は、\( \ 2 \ \mathrm {m} \ \)以上とすること。

 二 第一号の規定により施設してもなお架空弱電流電線路に対して誘導作用により通信上の障害を及ぼすおそれがあるときは、更に次に掲げるものその他の対策のうち\( \ 1 \ \)つ以上を施すこと。

  イ 架空電線と架空弱電流電線との離隔距離を増加すること。

  ロ 架空電線路が交流架空電線路である場合は、架空電線を適当な距離でねん架すること。

  ハ 架空電線と架空弱電流電線との間に、引張強さ\( \ 5.26 \ \mathrm {kN} \ \)以上の金属線又は直径\( \ 4 \ \mathrm {mm} \ \)以上の硬銅線を\( \ 2 \ \)条以上施設し、これにD種接地工事を施すこと。

  ニ 架空電線路が中性点接地式高圧架空電線路である場合は、地絡電流を制限するか、又は\( \ 2 \ \)以上の接地箇所がある場合において、その接地箇所を変更する等の方法を講じること。

2 次の各号のいずれかに該当する場合は、前項の規定によらないことができる。

 一 低圧又は高圧の架空電線が、ケーブルである場合

 二 架空弱電流電線が、通信用ケーブルである場合

 三 架空弱電流電線路の管理者の承諾を得た場合

3 中性点接地式高圧架空電線路は、架空弱電流電線路と並行しない場合においても、大地に流れる電流の電磁誘導作用により通信上の障害を及ぼすおそれがあるときは、第1項第二号イからニまでに掲げるものその他の対策のうち1つ以上を施すこと。

4 特別高圧架空電線路は、弱電流電線路に対して電磁誘導作用により通信上の障害を及ぼすおそれがないように施設すること。

5 特別高圧架空電線路は、次の各号によるとともに、架空電話線路に対して、通常の使用状態において、静電誘導作用により通信上の障害を及ぼさないように施設すること。ただし、架空電話線が通信用ケーブルである場合、又は架空電話線路の管理者の承諾を得た場合は、この限りでない。

 一 使用電圧が\( \ 60,000 \ \mathrm {V} \ \)以下の場合は、電話線路のこう長\( \ 12 \ \mathrm {km} \ \)ごとに、第三号の規定により計算した誘導電流が\( \ 2 \ \mathrm {\mu A} \ \)を超えないようにすること。

 二 使用電圧が\( \color{red}{\underline {(1) \ 60,000}}\)\( \ \mathrm {V} \ \)を超える場合は、電話線路のこう長\( \ 40 \ \mathrm {km} \ \)ごとに、第三号の規定により計算した誘導電流が\( \color{red}{\underline {(2) \ 3}}\)\( \ \mathrm {\mu A} \ \)を超えないようにすること。

 三 誘導電流の計算方法は、次によること。

  イ 特別高圧架空電線路の使用電圧が\( \ 15,000 \ \mathrm {V} \ \)以下の場合は,次の計算式により計算すること。
\[
\begin{eqnarray}
i_{T}&=&V_{k}\times 10^{-3}\left( 2.5n+2.76\Sigma \frac {\displaystyle l_{m}\left| \log \frac {b_{m+1}}{b_{m}}\right| }{\displaystyle \left| b_{m+1}-b_{m}\right| }+1.2\Sigma \frac {l_{m}}{b_{m}}+18\Sigma \frac {l_{m}}{b_{m+1}b_{m}}+18\Sigma \frac {l_{m}}{b_{m}^{2}}\right) \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]            交差点前後 非並行部分 並行部分 非並行部分 並行部分
 \( \ i_{T} \ \)は、受話器に通じる誘導電流(単位:\( \ \mathrm {\mu A} \ \))
 \( \ V_{k} \ \)は、電線路の使用電圧(単位:\( \ \mathrm {kV} \ \))
 \( \ D \ \)は、電線路の線間距離(単位:\( \ \mathrm {m} \ \))
 \( \ n \ \)は、電線と電話線との交差点の数
 \( \ b_{m} \ \)、\( \ b_{m+1} \ \)は、それぞれ地点\( \ m \ \)、地点\( \ m+1 \ \)における電線と電話線との離隔距離(単位:\( \ \mathrm {m} \ \))
 \( \ l_{m} \ \)は、地点\( \ m \ \)と地点\( \ m+1 \ \)との間の電話線路のこう長(単位:\( \ \mathrm {m} \ \))
※:電線路と電話線路とが交差する場合は、その交差点の前後各\( \ 25 \ \mathrm {m} \ \)の部分を除く。

  ロ 特別高圧架空電線路の使用電圧が\( \ 15,000 \ \mathrm {V} \ \)を超える場合は、次によること。

  (イ) 誘導電流は、次の計算式により計算すること。
\[
\begin{eqnarray}
i_{T}&=&V_{k}D\times 10^{-3}\left( 0.33n+26\Sigma \frac {l_{m}}{b_{m+1}b_{m}}\right) \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]          交差点前後 交差点前後以外の部分(※)
 \( \ i_{T} \ \)は、受話器に通じる誘導電流(単位:\( \ \mathrm {\mu A} \ \))
 \( \ V_{k} \ \)は、電線路の使用電圧(単位:\( \ \mathrm {kV} \ \))
 \( \ D \ \)は、電線路の線間距離(単位:\( \ \mathrm {m} \ \))
 \( \ n \ \)は、電線と電話線との交差点の数
 \( \ b_{m} \ \)、\( \ b_{m+1} \ \)は、それぞれ地点\( \ m \ \)、地点\( \ m+1 \ \)における電線と電話線との離隔距離(単位:\( \ \mathrm {m} \ \))
 \( \ l_{m} \ \)は、地点\( \ m \ \)と地点\( \ m+1 \ \)との間の電話線路のこう長(単位:\( \ \mathrm {m} \ \))
※:電線路と電話線路とが交差する場合は、使用電圧が\( \ 60,000 \ \mathrm {V} \ \)以下のときは交差点の前後各\( \ 50 \ \mathrm {m} \ \)、使用電圧が\( \ 60,000 \ \mathrm {V} \ \)を超えるときは交差点の前後各\( \ 100 \ \mathrm {m} \ \)の部分を除く。

  (ロ) 52-1表の左欄に掲げる使用電圧に応じ、それぞれ同表の右欄に掲げる距離以上、電話線路と離れている電線路の部分は、(イ)の計算においては、省略すること。

            52-1表
\[
\begin{array}{|l|r|}
\hline
     使用電圧の区分 & 電線路と電話線路との距離 \\
\hline
25,000 \ \mathrm {V} \ 以下 & 60 \ \mathrm {m} \\
\hline
25,000 \ \mathrm {V} \ を超え \ 35,000 \ \mathrm {V} \ 以下 & 100 \ \mathrm {m} \\
\hline
35,000 \ \mathrm {V} \ を超え \ 50,000 \ \mathrm {V} \ 以下 & 150 \ \mathrm {m} \\
\hline
50,000 \ \mathrm {V} \ を超え \ 60,000 \ \mathrm {V} \ 以下 & 180 \ \mathrm {m} \\
\hline
60,000 \ \mathrm {V} \ を超え \ 70,000 \ \mathrm {V} \ 以下 & 200 \ \mathrm {m} \\
\hline
70,000 \ \mathrm {V} \ を超え \ 80,000 \ \mathrm {V} \ 以下 & 250 \ \mathrm {m} \\
\hline
80,000 \ \mathrm {V} \ を超え \ 120,000 \ \mathrm {V} \ 以下 & 350 \ \mathrm {m} \\
\hline
120,000 \ \mathrm {V} \ を超え \ 160,000 \ \mathrm {V} \ 以下     & 450 \ \mathrm {m} \\
\hline
160,000 \ \mathrm {V} \ 超過 & \color{red}{\underline {(3) \ 500}} \ \mathrm {m} \\
\hline
\end{array}
\]



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