《機械》〈電気化学〉[R06:問5]現在採用されている燃料電池の種類と原理に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,燃料電池に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

水素,アルコール,メタン,一酸化炭素などの燃料を\( \ \fbox {  (1)  } \ \)で電気化学的に酸化して,その際に取り出された電子を,外部回路を通してもう一方の電極に送り込み,酸素(空気)の還元を行う。全体としては燃料を\( \ \fbox {  (2)  } \ \)して二酸化炭素や水が出る化学反応の過程で,その化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換して取り出す装置を燃料電池という。

商用化されている家庭用燃料電池コジェネレーションシステムには低温型の\( \ \fbox {  (3)  } \ \)や高温型の固体酸化物形燃料電池\( \ \left( \mathrm {SOFC} \right) \ \)が用いられており,発電電力と熱(温水)が出力である。

燃料としてメタンが主成分の都市ガスなどが用いられ,燃料処理装置や\( \ \mathrm {SOFC} \ \)内部で水素を含むガスに改質してから電極反応に使われる。改質の主な反応は次の反応である。
\[
\begin{eqnarray}
\mathrm {CH_{4}+2H_{2}O→ \ \fbox {  (4)  } \ H_{2}+CO_{2}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] 単位時間当たりのエネルギー消費量が\( \ 1.7 \ \mathrm {kW} \ \),総合効率が\( \ 98.0 \ \mathrm {%} \ \),熱出力のための熱回収効率が\( \ 57 \ \mathrm {%} \ \)とすると,このときの燃料電池の発電電力は\( \ \fbox {  (5)  } \ \mathrm {W} \ \)である。

〔問5の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 2     &(ロ)& 3     &(ハ)& 4 \\[ 5pt ] &(ニ)& 697     &(ホ)& 731     &(ヘ)& 969 \\[ 5pt ] &(ト)& アノード     &(チ)& カソード     &(リ)& 水素化 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 燃焼     &(ル)& 正極     &(ヲ)& カップリング反応 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] \[
\begin{eqnarray}
&(ワ)& 直接形メタノール燃料電池\left( \mathrm {DMFC} \right) \\[ 5pt ] &(カ)& 固体高分子形燃料電池\left( \mathrm {PEFC} \right) \\[ 5pt ] &(ヨ)& りん酸形燃料電池\left( \mathrm {PAFC} \right) \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

燃料電池の種類と原理に関する問題です。
燃料電池の化学反応から種類,エネルギーの計算までかなり幅広い知識が問われている問題です。
\( \ 3 \ \)種は出題されても\( \ 1 \ \)問であったと思いますが,\( \ 2 \ \)種ではかなり突っ込んだ内容の問題も出題されます。化学や熱力学の勉強を全くされたことがない方はその辺りの内容も勉強しておくと良いでしょう。

1.燃料電池の概念図
燃料電池は燃料極(負極またはアノードとも言います)に燃料として水素,空気極(正極またはカソードとも言います)に酸素を供給して,化学変化から電気エネルギーを取り出す方法で,正極と負極では以下の反応があります。
負極では水素が電子を失う酸化反応,正極では酸素が電子を受け取る還元反応が起こります。
\[
\begin{eqnarray}
負極&:&\mathrm {H_{2} → 2H^{+} +2e^{-}} \\[ 5pt ] 正極&:&\mathrm {\frac {1}{2}O_{2} + 2H^{+} +2e^{-} →H_{2}O} \\[ 5pt ] \hline
全体&:&\mathrm {H_{2}+\frac {1}{2}O_{2} →H_{2}O}
\end{eqnarray}
\]

2.燃料電池発電の特徴
水素と酸素の化学反応を利用して直流の電力を得る発電方式で,以下のような特徴があります。
・エネルギー変換効率が良く,排熱利用により熱効率も大幅に上昇する
・発電時の騒音や振動が少ない
・燃料の水素の調達に課題がある
・出力が直流であるため,系統連系の際には交流に変換が必要
・スケールメリットがほとんどなく,コスト面で不利


出典:電験戦士教本「原子力・その他発電」 P.144
URL:https://denkenia-archives.stores.jp/

3.代表的な燃料電池
<低温作動形>
①固体高分子形
 電解質:固体高分子
 温 度:80~100℃
 出 力:数百kW
 用 途:家庭用,自動車用

②リン酸形
 電解質:リン酸
 温 度:150~200℃
 出 力:数千kW
 用 途:産業用

<高温作動形>
①固体酸化物形
 電解質:酸化ジルコニウム(セラミック)
 温 度:900~1000℃
 出 力:数十万kW
 用 途:分散型電源

②溶融炭酸塩形
 電解質:炭酸塩
 温 度:600~700℃
 出 力:数十万kW
 用 途:分散型電源

【解答】

(1)解答:ト
題意より解答候補は,(ト)アノード,(チ)カソード,(ル)正極,等になると思います。
ワンポイント解説「1.燃料電池の概念図」の通り,燃料電池は燃料をアノードで電気化学的に酸化し,電子を取り出します。

(2)解答:ヌ
題意より解答候補は,(リ)水素化,(ヌ)燃焼,(ヲ)カップリング反応,等になると思います。
ワンポイント解説「1.燃料電池の概念図」の通り,燃料電池は水素を燃焼して得られる反応\( \ \displaystyle \mathrm {H_{2}+\frac {1}{2}O_{2} →H_{2}O} \ \)と同じ化学反応となります。

(3)解答:カ
題意より解答候補は,(ワ)直接形メタノール燃料電池\( \ \left( \mathrm {DMFC} \right) \ \),(カ)固体高分子形燃料電池\( \ \left( \mathrm {PEFC} \right) \ \),(ヨ)りん酸形燃料電池\( \ \left( \mathrm {PAFC} \right) \ \),になると思います。
ワンポイント解説「3.代表的な燃料電池」の通り,家庭用燃料電池コジェネレーションシステムとしては固体高分子形燃料電池\( \ \left( \mathrm {PEFC} \right) \ \)が商用化されています。

(4)解答:ハ
題意より解答候補は,(イ)\( \ 2 \ \),(ロ)\( \ 3 \ \),(ハ)\( \ 4 \ \),になると思います。
与えられている反応式の水素原子の数を左辺右辺で比較すれば,
\[
\begin{eqnarray}
(左辺)&=&4\mathrm {\left( CH_{4}\right)}+2\times 2 \mathrm {\left( H_{2}O\right) }=8 \\[ 5pt ] (右辺)&=& \ \fbox {  (4)  } \ \times 2 \mathrm {\left( H_{2}\right) } \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となるので,\( \ \fbox {  (4)  } \ \)は\( \ 4 \ \)と求められます。

(5)解答:ニ
総合効率\( \ \eta =0.98 \ \),熱出力のための熱回収効率\( \ \eta _{\mathrm {r}}=0.57 \ \)であるから,エネルギー消費量に対する電気出力の効率\( \ \eta _{\mathrm {e}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\eta _{\mathrm {e}}&=&\eta -\eta _{\mathrm {r}} \\[ 5pt ] &=&0.98 -0.57 \\[ 5pt ] &=&0.41 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となるので,単位時間当たりのエネルギー消費量\( \ W=1.7 \ \mathrm {[kW]} \ \)のときの燃料電池の発電電力\( \ P \ \mathrm {[W]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
P&=&W\eta _{\mathrm {e}} \\[ 5pt ] &=&1.7\times 10^{3}\times 0.41 \\[ 5pt ] &=&697 \ \mathrm {[W]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。



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