《機械・制御》〈回転機〉[H22:問1]三相かご形誘導電動機の拘束試験に関する計算問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

 200 [V]  5.5 [kW]  50 [Hz]  6 極の三相かご形誘導電動機の拘束試験の結果は次のとおりである。

線間電圧 VS=40 [V] ,線電流 IS=22 [A] ,三相入力 PS=620 [W] 

この電動機を V/f 制御のインバータで駆動する。始動の際,インバータの電圧及び周波数の調節機能を利用して,始動周波数を数ヘルツとすることによって始動電流を抑えることができる。

励磁電流が無視でき,また,電気的過渡現象も無視できるものとして,次の問に答えよ。ただし,問及び解答で用いる記号を以下に示す。

  fN :定格周波数 [Hz]  VN :定格電圧(線間電圧) [V] 
  r1 :一次抵抗 [Ω]  x1 :一次漏れリアクタンス [Ω] 
  r2 :二次抵抗 [Ω]  x2 :二次漏れリアクタンス [Ω] 

ここで, r2  x2 はいずれも一次換算値である。また, x1  x2 は定格周波数におけるリアクタンスであり,電動機の巻線抵抗及び漏れインダクタンスは電圧及び周波数の変化に対して一定を保つものとする。

(1)  r1+r2 [Ω] 及び x1+x2 [Ω] はいくらか。

(2) 始動時のインバータの出力周波数を fL [Hz] とするとき,始動トルクを全電圧始動(定格周波数)で得られるトルクと等しいトルクで始動させるためのインバータの出力電圧  VL (線間電圧) [V]  fL と上記の記号を用いた式で表せ。

(3) 上記(2)において,始動電流が 22 [A] となる fL [Hz] 及び VL [V] はいくらか。

【ワンポイント解説】

三相かご形誘導電動機の拘束試験結果から各値を求める問題です。
考え方はそれほど難解ではありませんが,計算量が非常に多く時間を要する問題です。
 1 種受験生ですと,拘束試験の内容は理解されている方も多いと思いますが,例え理解していても L 形等価回路を描き,きちんと拘束試験の状態を考えた方がミスが減るので丁寧に解くことをオススメします。

1.誘導電動機の L 形等価回路
誘導電動機の L 形等価回路は図1のようになります。図1において, ˙V1 は一次側端子電圧, ˙I1 は一次電流, ˙I2 は二次電流の一次換算, ˙I0 は励磁電流, r1 は一次巻線抵抗, r2 は二次巻線抵抗の一次換算, x1 は一次漏れリアクタンス, x2 は二次漏れリアクタンスの一次換算, s は滑りとなります。
 L 形等価回路は一相分の等価回路の励磁回路を左端に寄せた簡易等価回路ですが,電験では圧倒的に多く使用する等価回路となります。

2.誘導電動機の無負荷試験
無負荷試験は,文字通り無負荷で運転したときの試験で,図2に示すように無負荷の時は電動機はほぼ同期速度で回転するため,滑り s0 となります。したがって,電源から出た電流はほぼ励磁回路に流れるので,一次側に定格電圧 Vn [V] をかけ,そのときの電力 P0 [W] と電流 I0 [A] を測定すれば,励磁コンダクタンス g0 [S] と励磁サセプタンス b0 [S] をそれぞれ,
P0=3g0(Vn3)2=g0V2ng0=P0V2nb0=Y20g20=(3I0Vn)2g20 と求めることができます。

3.誘導電動機の拘束試験
拘束試験は誘導電動機の回転子を拘束した時の試験で,回転子を回転しない場合滑り s1 と考えることができます。また,拘束試験において定格電流を流してもさほど大きな電圧はかからないので,励磁電流は十分に小さいと仮定すれば等価回路は図3のようになります。
このとき,一次側に定格電流 I1n [A] が流れるように電圧 Vs [V] をかけ,そのときの電力 Ps [W] を測定すれば,一次巻線抵抗と二次巻線抵抗の一次換算値の合計 r=r1+r2 と,一次漏れリアクタンスと二次漏れリアクタンスの一次換算値の合計 x=x1+x2 が,
Ps=3rI21nr=Ps3I21nx=Z2sr2=(Vs3I1n)2r2 と求めることができます。

【解答】

(1) r1+r2 [Ω] 及び x1+x2 [Ω] 
ワンポイント解説「3.誘導電動機の拘束試験」の通り,拘束試験時の三相入力 PS=620 [W] は試験時の一次二次銅損の合計と考えれば良いので,
r1+r2=Ps3I2S=6203×2220.42700  0.427 [Ω] と求められる。また,拘束試験時のインピーダンス ZS [Ω] は,
ZS=VS3IS=403×221.0497 [Ω] なので,一次二次漏れリアクタンスの合計 x1+x2 [Ω] は,
x1+x2=ZS2(r1+r2)2=1.049720.4270020.95893  0.959 [Ω] と求められる。

(2)始動時のインバータの出力周波数を fL [Hz] とするとき,全電圧始動と等しいトルクで始動させるためのインバータ出力電圧  VL [V] 
本問においては励磁電流が無視できるので等価回路は図4のようになる。図4において,全電圧始動時( s=1 )の二次電流(一次換算) I2s [A] は,
I2s=VN3(r1+r2)2+(x1+x2)2 であるので,二次入力 P2s [W] は,
P2s=3r2I2s2=3r2VN23{(r1+r2)2+(x1+x2)2}=r2VN2(r1+r2)2+(x1+x2)2 となる。ここで,同期角速度ωs=4πfp であるから,このときのトルク TsN [W] は,
TsN=Pω=P2s(1s)ωs(1s)=P2sωs=p4πfNr2VN2(r1+r2)2+(x1+x2)2 となる。次に,インバータの出力周波数を fL [Hz] とするとき,抵抗値は変わらないが,漏れリアクタンスは X=ωL=2πfL の関係より,周波数に比例して低下するので,このときのトルク TsL [W] は,
TsL=p4πfLr2VL2(r1+r2)2+(fLfNx1+fLfNx2)2=p4πfLr2VL2(r1+r2)2+(fLfN)2(x1+x2)2 となる。題意より, TsN=TsL を満たさなければならないから,
p4πfNr2VN2(r1+r2)2+(x1+x2)2=p4πfLr2VL2(r1+r2)2+(fLfN)2(x1+x2)21fNVN2(r1+r2)2+(x1+x2)2=1fLVL2(r1+r2)2+(fLfN)2(x1+x2)2VL2=fLfN(r1+r2)2+(fLfN)2(x1+x2)2(r1+r2)2+(x1+x2)2VN2VL=fLfN(r1+r2)2+(fLfN)2(x1+x2)2(r1+r2)2+(x1+x2)2VN と求められる。

(3)始動電流が 22 [A] となる fL [Hz] 及び VL [V] 
全電圧時の始動電流 IsN [A] は,全電圧始動時の二次電流 I2s [A] と等しく,
IsN=VN3(r1+r2)2+(x1+x2)2=20030.427002+0.958932110.00 [A] であり,
TsN=P2sωs=p4πfN3r2IsN2 である。一方,インバータの出力周波数 fL [Hz] のときのトルク TsL [W] は,
TsL=p4πfL3r2IsL2 であり, TsN=TsL を満たさなければならないから,
p4πfN3r2IsN2=p4πfL3r2IsL21fNIsN2=1fLIsL2fL=(IsLIsN)2fN となる。ここで, IsL=22 [A] であるから,
fL=(22110)2×50=2.0 [Hz] と求められる。以上より,(2)解答式に各値を代入すれば,
VL=fLfN(r1+r2)2+(fLfN)2(x1+x2)2(r1+r2)2+(x1+x2)2VN=2.050×0.427002+(2.050)2×0.9589320.427002+0.958932×200=0.3676055.094×20016.3 [V] と求められる。



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