《電力》〈送電〉[H28:問6] 直流送電の適用箇所に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,直流送電の適用箇所に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

① 直流送電では,一旦交流を直流に変換して交流へ逆変換しているので,\( \ \fbox {  (1)  } \ \)の異なる交流系統を接続して\( \ \fbox {  (2)  } \ \)が可能となる。

② 海峡横断や洋上風力などでケーブルを使用する送電においては,交流送電では距離が長くなると\( \ \fbox {  (3)  } \ \)や\( \ \fbox {  (4)  } \ \)損失が増加するのに対し,直流送電ではこれらの発生がないので送電容量を高めることができる。なお,離島への送電も適用対象となるが,\( \ \fbox {  (5)  } \ \)変換器の場合,離島での短絡容量が送電容量に比較してさほど大きくない場合には制御不安定性が生じるので\( \ \fbox {  (6)  } \ \)変換器を用いる必要がある。

③ 同一の\( \ \fbox {  (1)  } \ \)の交流系統であっても,これを交流で接続すると,\( \ \fbox {  (7)  } \ \)の増加や\( \ \fbox {  (8)  } \ \)の悪化,\( \ \fbox {  (2)  } \ \)や事故波及防止の困難化などの問題が発生する場合がある。このような箇所にBTB(Back to Back)を含む直流送電がそれらの解決策として適用されることがある。

④ 交流系統での長距離大電力送電では\( \ \fbox {  (8)  } \ \)が厳しくなるのに対し,直流送電では,この問題がない。さらに,\( \ \fbox {  (9)  } \ \)において,直流は交流に比べ有利であるため,送電鉄塔に要するコストが交流送電に比べ安価となる。ただし,直流送電は交直変換のための設備が必要であるため,短距離送電では不利となる。

〔問6の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 誘電体   &(ロ)& 抵 抗   &(ハ)& 静電誘導 \\[ 5pt ] &(ニ)& 同期安定性      &(ホ)& 高周波   &(ヘ)& 他励式 \\[ 5pt ] &(ト)& 高調波   &(チ)& 潮流制御      &(リ)& 絶縁設計 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 周波数   &(ル)& 渦電流   &(ヲ)& 電流容量 \\[ 5pt ] &(ワ)& コロナ   &(カ)& 短絡電流   &(ヨ)& 充電電流 \\[ 5pt ] &(タ)& 可逆運転   &(レ)& 自動式   &(ソ)& 自励式 \\[ 5pt ] &(ツ)& 周波数安定性   &(ネ)& \mathrm {PLL}
\end{eqnarray}
\]  

【ワンポイント解説】

直流送電は比較的出題される頻度が高い分野です。長距離送電にはメリットがあるため,日本においても,北海道・本州間連系,紀伊水道連系,南福光連系所で採用されています。

1.直流送電
<直流送電のメリット>
・安定度の問題がないため,送電線の熱的許容電流まで送電容量を増やせます。したがって,大容量の送電に有利です。
・無効電流による損失がないので,送電損失が少ないです。したがって,長距離送電に有利です。
・同容量のケーブルで,交流に比べ\(\sqrt {2}\)倍までの電圧を送電できます。
・電圧最大値が実効値と等しいので,絶縁強度を低減が図れます。
・静電容量による充電電流が流れないため,誘電損が発生しません。
・送電線が2条で良いため,建設コストが下がります。

<直流送電のデメリット>
・交直変換装置が必要です。
・交流のように零点がないため,高電圧・大電流の遮断が難しいです。
・変換装置から高調波が発生するため,フィルタや調相設備の設置が必要です。
・大地帰路方式において,電食が発生しやすいです。
・変圧器で電圧の変成ができません。

2.他励式と自励式の違い
逆変換装置では一般的に他励式が使われてきましたが,半導体技術の発展に伴い自励式が登場しています。
①他励式
 別の交流電源や負荷電流により制御する方式です。出力の周波数が交流電源の周波数に一致します。
②自励式
 自己消弧能力を持つGTOやIGBTなどを利用して制御する方式です。任意の周波数の交流を得ることができます。

【用語の解説】

(ニ)同期安定性
 あまり参考書で見たことがない用語ですが,安定度や電圧安定性のことを言っていると考えられます。
(チ)潮流制御
 電力系統の電力の流れが海水の満干潮の変化に似ているため,この言葉を使用します。
(リ)絶縁設計
 変電所等で雷サージをはじめとする様々な事故に対して,安全性と経済性を考慮した設計のことを言います。
(ヲ)電流容量
 送電線で電力を輸送する際に,上限となる最大電流を言います。
(ヨ)充電電流
 静電容量の大きい送電線で蓄えられる電流のことで,ケーブルの静電容量は架空送電線の数十倍もあるので,充電電流が大きくなります。
(ネ)\(\mathrm {PLL}\)
 Phase-Locked Loop(位相同期回路)の略で,フィードバック制御を介して周波数の変換等ができるものです。

【解答】

(1)解答:ヌ
解答候補は(ヌ)周波数のみに絞れると思います。一種受験者であれば,間違えられない問題ですね。

(2)解答:チ
空欄だけを見ると異周波接続や周波数切替等が浮かんできそうですが,選択肢の中では(チ)潮流制御を選択できると思います。

(3)解答:ヨ
(4)解答:イ
直流系統と交流系統の違いは,充電電流誘電体損失いわゆるコンデンサやリアクトルの影響がないというところがポイントです。

(5)解答:ヘ
(6)解答:ソ
解答候補は(ヘ)他励式,(レ)自動式,(ソ)自励式,になると思います。ワンポイント解説「2.他励式と自励式の違い」の通り,制御不安定性に対して有効なのは自励式になるので,(5)が他励式,(6)が自励式となります。

(7)解答:カ
(8)解答:ニ
直流送電は系統安定化(同期安定性)と短絡容量(短絡電流)の抑制につながります。

(9)解答:リ
最大電圧が交流の\( \ \displaystyle \frac {1}{\sqrt{2}}倍 \ \)となるため,絶縁設計としては有利となります。



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