【問題】
【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)
代表的な調相設備のうち電力用コンデンサ,同期調相機及び静止形無効電力補償装置(他励式\( \ \mathrm {SVC} \ \))について,各装置の仕組み,調整方法,電圧調整や安定度への効果,電力損失及び保守性の観点から特色をそれぞれ述べよ。
【ワンポイント解説】
調相設備の仕組み,調整方法等に関する問題です。
\( \ 1 \ \)種から\( \ 3 \ \)種にわたり,そして一次試験や二次試験でも多く取り上げられている内容であることから,多くの受験生が選択し,高得点を得た問題かと思います。
満点とまではいかなくても\( \ 7 \ \)割から\( \ 8 \ \)割程度得点できるように準備するようにしましょう。
1.代表的な調相設備とその特徴
代表的な無効電力の調相設備には次の4種類があり,それぞれ以下のような特徴があります。
①電力用コンデンサ
進相の無効電力を消費し,進み位相にする設備です。重負荷時に力率を改善し,系統の電圧降下や電力損失を軽減することができます。
開閉器投入・開放操作で調整するため,無効電力の調整は段階的となります。
電力用コンデンサ投入に伴い,電圧及び電流波形のひずみ,高調波,コンデンサ投入時の突入電流防止等が発生するおそれがあるため,直列にリアクトルを挿入します。
価格面で有利であり,静止機器であるため保守が容易となります。
②分路リアクトル
遅相の無効電力を消費し,遅れ位相にする設備です。夜間・軽負荷時に力率を改善し,受電端電圧上昇を抑制することができます。
開閉器投入・開放操作で調整するため,無効電力の調整は段階的となります。
電力用コンデンサ同様,価格面で有利であり,静止機器であるため保守が容易となります。
③同期調相機
無負荷の同期電動機で図1に示すような特性があるため,界磁電流を調整し無効電力を遅れから進みまで連続的に調整することができます。
回転子の慣性質量により系統の電圧特性や安定度を向上させる効果があり,これは同期調相機特有の特徴です。
ただし,回転機であることから電力用コンデンサや分路リアクトルと比べコストが高く,軸受やブラシの摩擦損,風損等電力損失が多く,保守に労力を要します。
④静止形無効電力補償装置
サイリスタによる高速制御で,無効電力を遅れから進みまで調整可能な装置です。
サイリスタ位相制御によりリアクトル電流を調整して無効電流を連続的に調整する\( \ \mathrm {TCR} \ \)方式,サイリスタによりコンデンサを開閉して無効電力を段階的に調整する\( \ \mathrm {TSC} \ \)方式,自己消弧素子を用いた自励式変換器を用いることで無効電力を連続的に調整する自励式\( \ \mathrm {SVC} \ \left( \mathrm {STATCOM}\right) \ \)等があります。
それぞれの特徴を比較すると下表のようになります。
\[
\begin{array}{|c|c|c|c|c|}
\hline
& 電力用コンデンサ & 分路リアクトル & 同期調相機 & 静止形無効電力補償装置\\
& & & & \mathrm {SVC}\\
\hline
調整能力 & \displaystyle {進相電力を吸収}\atop \displaystyle {(電流を進ませる)} & \displaystyle {遅相電力を吸収}\atop \displaystyle {(電流を遅らせる)} & 遅れから進みまで調整 & 遅れから進みまで調整 \\
\hline
調整 & 段階的 & 段階的 & 連続的 & 連続的 \\
\hline
コスト & 安 & 安 & 高 & 高 \\
\hline
保守性 & 容易 & 容易 & 頻雑 & 容易 \\
\hline
\end{array}
\]
【解答】
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.代表的な調相設備とその特徴」の通りです。
・概要を列記する問題なので,知っている知識をできるだけ多く記載するようにしましょう。
(試験センター解答例)
○電力用コンデンサ
・シンプルな静止機器で,高調波や突入電流を抑制するために直列リアクトルを接続することがある。
・開閉器の開閉操作によって遅れ無効電力を発生(進み無効電力を補償)・停止する。
・開閉器の開閉操作により調整するため,電圧や無効電力の変化が段階的となり,きめ細かな電圧調整や安定度の向上への期待はあまりできず,開閉器操作により系統に急激な変化が生じないよう 1 台当たりの容量選定に配慮が必要である。
・シンプルな構造であり,同期調相機や\( \ \mathrm {SVC} \ \)よりも電力損失が小さい。
・静止機器であるため保守が容易。
○同期調相機
・無負荷状態で運転する同期電動機。
・界磁電流の調整により無効電力を発生・吸収(進み・遅れ双方を補償)する装置であり,電圧調整の即応性に優れる。
・調整が連続的で,回転子の慣性質量により系統の電圧特性や安定度を向上させる効果がある。
・回転機固有の軸受・ブラシの摩擦損や風損,励磁回路損などの影響により,電力用コンデンサや\( \ \mathrm {SVC} \ \)に比べて電力損失が大きい。
・回転機であることから,可動部分や補機類があり,電力用コンデンサや\( \ \mathrm {SVC} \ \)に比べて保守に時間と労力が多くかかる。
○静止型無効電力補償装置\( \ \left( \mathrm {SVC}\right) \ \)
・リアクトル,電力用コンデンサ,これらを制御するサイリスタで構成する装置。
・サイリスタの点弧角位相を制御することによりリアクトルや電力用コンデンサの通過電流を連続的に変化させ,無効電力を発生・吸収(進み・遅れ双方を補償)する装置であり,電圧調整の即応性に優れる。
・リアクトルや電力用コンデンサ電流の大きさを変化させることにより連続的に調整できるため,系統の電圧特性や安定度を向上させる効果がある。なお,電力用コンデンサの開閉を行う方式\( \ \left( \mathrm {TSC}\right) \ \)では,リアクトル電流の位相制御を行う方式\( \ \left( \mathrm {TCR}\right) \ \)と組み合わせることで連続的な調整が可能である。
・リアクトル,電力用コンデンサ,サイリスタなど複数機器から構成されるため,電力損失は電力用コンデンサよりも大きいが,同期調相機よりも小さい。
・静止機器ではあるが,サイリスタ冷却用の装置もあり,保守は電力用コンデンサほど容易ではない。