《電力・管理》〈送電〉[H25:問5] 送電線のたるみに関する計算・論説問題

【問題】

【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)

図のように,平たんな地形\( \ \mathrm {A-B} \ \)間を経過する電線支持点に高低差のない公称電圧\( \ 154 \ \mathrm {[kV]} \ \)の架空送電線で,\( \ \mathrm {B} \ \)側の鉄塔建替え工事のみで電線支持点を嵩(かさ)上げして,点線で示すように電線線下のどの地点においても,「電気設備技術基準の解釈」で規定される電線との離隔距離を確保し,高さ\( \ 10.0 \ \mathrm {[m]} \ \)の建造物が建築可能となるようにする場合,次の問に答えよ。

ただし,嵩上げ前後の電線張力を変えないものとする。また,電線たるみの曲線は放物線で近似し,以下のとおり表せるものとする。

① 支持点嵩上げ前の電線水平たるみ\( \ D \ \)は\( \ \displaystyle D=\frac {WS^{2}}{8T} \ \)

② 支持点嵩上げ後の,径間中央のたるみは\( \ D \ \),電線の最低地上高となる地点\( \ \mathrm {O} \ \)の\( \ \mathrm {A} \ \)点からの水平距離\( \ S_{\mathrm {A}} \ \)は\( \ \displaystyle S_{\mathrm {A}}=\frac {S}{2}\left( 1-\frac {h}{4D}\right) \ \)

\( \ S \ \):径間の長さ\( \ \mathrm {[m]} \ \)
\( \ T \ \):電線の水平張力\( \ \mathrm {[N]} \ \)
\( \ W \ \):電線単位長さ当りの重量\( \ \mathrm {[N/m]} \ \)
\( \ D \ \):嵩上げ前の電線水平たるみ\( \ = \ \)嵩上げ後の径間中央たるみ\( \ \mathrm {[m]} \ \)
\( \ h \ \):電線支持点の嵩上げ量\( \ \mathrm {[m]} \ \)

(1) 電線の最低地上高となる地点\( \ \mathrm {O} \ \)での電線水平たるみ\( \ D_{\mathrm {0}} \ \)を,径間中央たるみ\( \ D \ \)と電線支持点の嵩上げ量\( \ h \ \)を用いて表せ。

(2) 嵩上げ前の電線支持点高さ\( \ H=16.0 \ \mathrm {[m]} \ \),電線水平たるみ\( \ D=3.80 \ \mathrm {[m]} \ \)とするとき,\( \ 154 \ \mathrm {[kV]} \ \)架空送電線の電線と建造物との離隔距離\( \ d \ \)が,「電気設備技術基準の解釈」で規定される離隔距離\( \ d_{0}=4.80 \ \mathrm {[m]} \ \)を確保する最低嵩上げ量\( \ h_{0} \ \mathrm {[m]} \ \)を求めよ。

(3) \( \ 154 \ \mathrm {[kV]} \ \)架空送電線と第\( \ 2 \ \)次接近状態に建築される建造物の主要な上部造営材(屋根等)に関して,危険防止のために「電気設備技術基準の解釈」で規定されている適合条件を述べよ。

【ワンポイント解説】

(1),(2)は問題文に情報が与えられているため,それを使えば解ける問題,(3)は3種の頃から重要な内容となっている第\( \ 2 \ \)次接近状態に関する問題です。(3)は電気設備技術基準の解釈の内容の問う問題なので標準的と言えますが,(1),(2)はほとんどの受験生が解ける問題となりますので,確実に解ける必要があります。

【解答】

(1)電線の最低地上高となる地点\( \ \mathrm {O} \ \)での電線水平たるみ\( \ D_{\mathrm {0}} \ \)を,径間中央たるみ\( \ D \ \)と電線支持点の嵩上げ量\( \ h \ \)を用いて表す
嵩上げ後の電線水平たるみ\( \ D_{\mathrm {0}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
D_{\mathrm {0}}&=&\frac {W\left( 2S_{\mathrm {A}}\right) ^{2}}{8T} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であり,\( \ \displaystyle S_{\mathrm {A}}=\frac {S}{2}\left( 1-\frac {h}{4D}\right) \ \)であるから,
\[
\begin{eqnarray}
D_{\mathrm {0}}&=&\frac {W}{8T}\times \left\{ S\left( 1-\frac {h}{4D}\right) \right\} ^{2} \\[ 5pt ] &=&\frac {WS^{2}}{8T}\left( 1-\frac {h}{4D}\right) ^{2} \\[ 5pt ] &=&D\left( 1-\frac {h}{4D}\right) ^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(2)電線と建造物との離隔距離\( \ d \ \)が,「電気設備技術基準の解釈」で規定される離隔距離\( \ d_{0}=4.80 \ \mathrm {[m]} \ \)を確保する最低嵩上げ量\( \ h_{0} \ \mathrm {[m]} \ \)
(1)の解答式を\( \ h \ \)について整理すると,
\[
\begin{eqnarray}
1-\frac {h}{4D}&=&\sqrt {\frac {D_{\mathrm {0}}}{D}} \\[ 5pt ] h&=&4D\left( 1-\sqrt {\frac {D_{\mathrm {0}}}{D}}\right) \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。ここで,問題図より,
\[
\begin{eqnarray}
D_{\mathrm {0}}&=&H-10.0-d \\[ 5pt ] &=&16.0-10.0-4.8 \\[ 5pt ] &=&1.2 \ \mathrm {[m]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であるから,それぞれ値を代入すると,
\[
\begin{eqnarray}
h_{0}&=&4D\left( 1-\sqrt {\frac {D_{\mathrm {0}}}{D}}\right) \\[ 5pt ] &=&4\times 3.80\times \left( 1-\sqrt {\frac {1.2}{3.80}}\right) \\[ 5pt ] &≒&6.6583 → 6.66 \ \mathrm {[m]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(3)\( \ 154 \ \mathrm {[kV]} \ \)架空送電線と第\( \ 2 \ \)次接近状態に建築される建造物の主要な上部造営材(屋根等)に関して,危険防止のために「電気設備技術基準の解釈」で規定されている適合条件
(ポイント)
・電気設備技術基準の解釈の知識を問う問題ではありますが,問題の状況を想定し,安全を確保するためにはどうするかを考えると,なんとなく解答が想像できる部分があると思います。

(試験センター解答例)
特別高圧架空電線と第\( \ 2 \ \)次接近状態にある建造物の主要な上部造営材(屋根等)の適合条件は,電気設備技術基準の解釈第\( \ 97 \ \)条より
・不燃性又は自消性のある難燃性の建築材料により造られたもの
・金属製の部分に,\( \ \mathrm {D} \ \)種接地工事が施されたもの

<電気設備技術基準の解釈第97条(抜粋)>
3 使用電圧が170,000V未満の特別高圧架空電線が、建造物と第2次接近状態に施設される場合は、次の各号によること。

一 建造物は、次に掲げるものでないこと。

イ 第175条第1項第一号又は第二号に規定する場所を含むもの

ロ 第176条第1項に規定する場所を含むもの

ハ 第177条第1項又は第2項に規定する場所を含むもの

ニ 第178条第1項に規定する火薬庫

二 建造物の屋根等の、上空から見て大きな面積を占める主要な造営材であって、特別高圧架空電線と第2次接近状態にある部分は、次に適合するものであること。

イ 不燃性又は自消性のある難燃性の建築材料により造られたものであること。

ロ 金属製の部分に、D種接地工事が施されたものであること。

三 特別高圧架空電線路は、第1種特別高圧保安工事により施設すること。

四 次のいずれかにより施設すること。

イ 特別高圧架空電線にアーマロッドを取り付け、かつ、がいしにアークホーンを取り付けること。

ロ 特別高圧架空電線路に架空地線を施設し、かつ、特別高圧架空電線にアーマロッドを取り付けること。

ハ 特別高圧架空電線路に架空地線を施設し、かつ、がいしにアークホーンを取り付けること。

ニ がいしにアークホーンを取り付け、かつ、圧縮型クランプ又はクサビ型クランプを使用して電線を引き留めること。



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