《電力・管理》〈送電〉[H22:問4]電力系統と設備との協調に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

電力系統は,構成要素である送電線・変電機器などの設備が有機的に関係し合い,システム全体として,最適な機能を発揮するように設計する必要がある。このような電力系統と設備との協調(「システムコーディネーション」と呼ばれている)に関して,次の問に答えよ。

(1) 系統の大容量化・集中化により増大する短絡電流を抑制するために,変圧器の仕様及び変圧器の機器設計で考慮すべき事項を述べよ。

(2) 大都市に電力を供給するために\( \ 275 \ \mathrm {[kV]} \ \)の大容量の電力ケーブルを使用した系統が導入されている。架空系統と異なり,地中系統に用いられる送電線用遮断器,リアクトル開閉用遮断器及び計器用変圧器についてそれぞれ考慮すべき事項を述べよ。

(3) \( \ 500 \ \mathrm {kV} \ \)送電線では,開閉過電圧が送電鉄塔の大きさを決める大きな要因である。この開閉過電圧を抑制するために,変電所の機器で採用している対策を述べよ。

【ワンポイント解説】

電力系統と設備との協調に関する問題です。
かなり専門性の強い内容なので,受験生には厳しい問題であったかなと思います。(1)がピンとくるようでしたら,部分点狙いで選択しても良いかと思います。

1.電力系統の短絡容量抑制対策
①発電機や変圧器などに高インピーダンス機器を採用する
インピーダンスを大きくすることで,短絡電流を抑えることができますが,電圧変動率や安定度が低下する,負荷損が増加する等のデメリットがあります。

②送電線に直列に限流リアクトルを設置する
限流リアクトルを設置することで,短絡電流を抑えることができますが,無効電力損失の増加,安定度の低下等のデメリットがあります。

③変電所の母線分離運用を行う
母線分離運用を行うことで,並列回路数が少なくなり,系統のインピーダンスが増大しますが,安定度が低下します。

④短絡電流を流さない\( \ \mathrm {BTB} ( \mathrm {Back \ to \ Back} ) \ \)を設置する
同一構内に交直変換装置を設置する方法で,間に直流を挟むことにより交流系統を分割して短絡電流を抑えることができますが,安定度が低下し,設置コストがかかるデメリットがあります。

⑤現在採用されているよりも上位の電圧階級を導入し,既存の系統を分割する
電圧が高くなることで,電流を抑えることができ,安定度も向上しますが,コストが非常にかかります。

2.進み小電流遮断
対地静電容量の大きい送電線などで進み小電流を遮断する際,電流の零点で電流が遮断されますが,電圧は最大値に近い電圧がかかっている状態となります。さらに\( \ \displaystyle \frac {1}{4} \ \)サイクル後は逆極性になり,遮断器の極間電圧がさらに大きくなり,極間にアークが発生し繋がってしまう現象が発生します。\( \ \displaystyle \frac {1}{4} \ \)サイクル以内に繋がることを再発弧,\( \ \displaystyle \frac {1}{4} \ \)サイクル以後に繋がることを再点弧といいます。
したがってこのような事象が発生する場所では,再点弧をほとんどしない高性能のガス遮断器を採用することが多いです。

3.抵抗投入方式
遮断器投入時のサージ電圧を抑制するために,\( \ 2 \ \)段階で投入する方式です。
図2のように,主遮断器と並列に抵抗を接続した遮断器を設け,まず抵抗を介して投入し,そのあと主遮断器を投入します。
アークは\( \ 2 \ \)回発生することになりますが,\( \ 1 \ \)回辺りのサージ電圧は抑制されます。抵抗値が大きいほど,主遮断器を投入したときのサージ電圧が大きくなり,抵抗値が小さいほど抵抗側の遮断器を投入したときのサージ電圧が大きくなります。\( \ 500 \ \mathrm {kV} \ \)送電線に使用される遮断器には抵抗値\( \ 1 \ 000 \ \mathrm {\Omega } \ \)程度の抵抗を使用します。

【解答】

(1)短絡電流を抑制するために,変圧器の仕様及び変圧器の機器設計で考慮すべき事項
(ポイント)
・短絡容量増大,すなわち短絡電流を抑制するためには高インピーダンス機器を採用することが最も有効です。
・試験センター解答ではかなり細かい内容まで記載されていますが,具体的な数値までは不要かと思います。

(試験センター解答例)
① 変圧器の仕様
短絡電流を抑制するために,変圧器のインピーダンスを大きく設定する。変圧器のインピーダンスを大きくすれば,電圧変動率が大きくなり,系統安定度が悪くなる方向にいくので,システムコーディネーションの観点から,系統と機器のバランスを考え,変圧器のインピーダンス値を選定している。
例えば,\( \ 500 \ \mathrm {kV} \ \)変圧器で一般的なインピーダンスが\( \ 14 \ \mathrm {[%]} \ \)に対して,高インピーダンスでは\( \ 23 \ \mathrm {[%]} \ \)が用いられることが多い。

② 変圧器の機器設計で考慮すべき事項
高いインピーダンスにするために,巻回数の増大,巻線径増大が行われる。

(2)地中系統に用いられる送電線用遮断器,リアクトル開閉用遮断器及び計器用変圧器についてそれぞれ考慮すべき事項
(ポイント)
・地中系統の最大の特徴はケーブルの静電容量が大きく,充電電流が大きくなることです。これを前提に記載すると,大きな間違いにはならないかと思います。

(試験センター解答例)
① 地中送電線用遮断器
地中送電線路では,充電遮断電流の値が架空送電線路より大きいため,進み小電流遮断電流値として,架空送電線路より大きな値が必要である。例えば,\( \ 275 \ \mathrm {kV} \ \)系統では,充電遮断電流は,架空送電線用では\( \ 200 \ \mathrm {[A]} \ \)に対して,地中送電線用では\( \ 500 \ \mathrm {[A]} \ \)が規格化されている。

② リアクトル開閉用遮断器
\( \ 275 \ \mathrm {kV} \ \)ではケーブルの充電容量が大きいため,それを補償するためにリアクトルが設置されることが多い。リアクトル開閉用遮断器には,再発弧サージへの考慮が必要である。その抑制対策として,開極位相制御が採用されている。

③ 計器用変圧器
ケーブル系統では残留電荷の減衰時定数が長いため,計器用変圧器によって残留電荷を放電する機能が求められる。

(3)開閉過電圧を抑制するために,変電所の機器で採用している対策
(ポイント)
・ワンポイント解説「3.抵抗投入方式」の通りです。

(試験センター解答例)
送電線に発生する開閉過電圧を抑制するため,\( \ 500 \ \mathrm {kV} \ \)変電所に設置される送電線用の遮断器に,抵抗投入方式を採用している。投入抵抗値は\( \ 1 \ 000 \ \mathrm {\Omega } \ \)が用いられ,開閉過電圧は\( \ 2 \ \mathrm {p.u.} \ \)以下に抑制されている。最近では,変電所の送電線回路に高性能避雷器を併用する場合も多く,より効果的に送電線に発生する開閉過電圧の抑制が行われている。



記事下のシェアタイトル