【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
次の文章は,水力発電所の設計・建設に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
水力発電所の設計・建設においては,土木設備を含めた設備全体の経済性を追求し,各機器の仕様検討を進める。
その代表的な事例として,中小水力発電所においては,負荷遮断時の\( \ \fbox { (1) } \ \)を小さく抑え,土木設備である\( \ \fbox { (2) } \ \)の肉厚を薄くすることで,発電所の建設コスト低減が見込める場合がある。この場合,電気機械設備では,水車・発電機のはずみ車効果(\( \ GD^{2} \ \))は\( \ \fbox { (3) } \ \)値とし,水車のガイドベーン閉鎖時間を\( \ 20~30 \ \)秒程度に長くすることで,負荷遮断時の回転速度を\( \ \fbox { (4) } \ \),又はそれに近い速度まで許容する設計を行う。
これにより水車・発電機の軸受性能など一部機能の向上が求められるが,ガイドベーンの\( \ \fbox { (5) } \ \)を低減できることなどのメリットもある。
〔問1の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 水圧鉄管 &(ロ)& 電圧変動率 &(ハ)& 無拘束速度 \\[ 5pt ]
&(ニ)& 系統要求から定まる &(ホ)& 速度変動率 &(ヘ)& サーボモータ容量 \\[ 5pt ]
&(ト)& キャビテーション &(チ)& 枚数 &(リ)& 水車要求から定まる \\[ 5pt ]
&(ヌ)& 水圧変動率 &(ル)& 臨界速度 &(ヲ)& 洪水吐ゲート \\[ 5pt ]
&(ワ)& 定格速度 &(カ)& 機器固有の &(ヨ)& サージタンク \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【ワンポイント解説】
水力発電所の設計に関する問題で,非常にマイナーな分野からの出題である印象があります。
令和2年度は合格率が90%を超える1種電力科目でしたが,この問題だけは特殊であると思います。ただし,選択肢を絞りやすい面もあるのである程度正解できた受験生も多かったかもしれません。
あまり再出題が見込めない問題なので,用語をある程度理解し「そういうものなのか」程度に理解しておけば十分でしょう。
【用語の解説】
(イ)水圧鉄管
ヘッドタンクから水車入口までの導水路で使用される鉄管で,使用水量の急変等による水圧変動や外圧に耐える強度を必要とします。
(ロ)電圧変動率
同期機や変圧器で使用される指標で,定格電圧\( \ V_{\mathrm {n}} \ \),無負荷時の電圧(同期機は誘導起電力,変圧器は二次側無負荷端子電圧)を\( \ V_{\mathrm {0}} \ \)とすると,電圧変動率\( \ \varepsilon \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\varepsilon &=&\frac {V_{\mathrm {0}}-V_{\mathrm {n}}}{V_{\mathrm {n}}}\times 100 \ \mathrm {[%]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
で求められます。
(ハ)無拘束速度
負荷遮断され無負荷となった時に到達する最大回転速度をいいます。
(ホ)速度変動率
負荷変動した時の回転数変化の定格負荷時の回転速度に対する割合をいいます。定格回転速度を\( \ N_{\mathrm {n}} \ \),変化前の回転速度\( \ N_{\mathrm {0}} \ \),変化後の回転速度\( \ N_{\mathrm {1}} \ \)とすると,速度変動率\( \ \delta \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\delta &=&\frac {N_{\mathrm {1}}-N_{\mathrm {0}}}{N_{\mathrm {n}}}\times 100 \ \mathrm {[%]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
で定義されます。
(ヘ)サーボモータ容量
サーボモータとは主にフィードバック制御系の信号に対応して動くモータのことをいい,サーボモータ容量はそのモータの容量をいいます。
(ト)キャビテーション
水車の特定の箇所の圧力が水の飽和水蒸気圧以下に低下したり真空部分ができたりすると水蒸気の気泡が発生し,この気泡が圧力の高いところに移動するとまた液化して,気泡が崩壊しランナの壊食,振動等が発生する現象をいいます。
(ヌ)水圧変動率
負荷変動した時の水圧変動による変動水位と有効落差の割合をいいます。有効落差を\( \ H \ \),上部池の静水面と水車中心の落差を\( \ H_{\mathrm {r}} \ \),負荷変動時水管にかかる最大水圧の高さ換算を\( \ h_{\mathrm {m}} \ \)とすると,水圧変動率\( \ \delta \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\delta &=&\frac {h_{\mathrm {m}}-H_{\mathrm {r}}}{H}\times 100 \ \mathrm {[%]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
で求められます。
(ル)臨界速度
危険速度またはクリティカルスピードともいい,水車の回転数が水車の固有振動数と共振することで,振動が異常上昇する速度をいいます。
(ヲ)洪水吐ゲート
下図のような非常時等を想定したダムの水位を調整することができる設備です。
出典:国土交通省 中部地方整備局 庄内川河川事務所 HP
https://www.cbr.mlit.go.jp/shonai/origawa/know/shisetsu1/index.html
(ワ)定格速度
水車設計において,水車発電機が定格出力で運転するときの水車回転数をいいます。
(ヨ)サージタンク
水撃作用の対策として圧力水路と水圧管の接続箇所にけるタンクです。
本問とは関係ありませんが,\( \ 3 \ \)種で同年問1にサージタンクの種類に関する問題が出題されているので,合わせて覚えておくと良いと思います。
【解答】
(1)解答:ヌ
題意より解答候補は,(ロ)電圧変動率,(ホ)速度変動率,(ヌ)水圧変動率,等になると思います。
用語の解説の内容を比較すればわかると思いますが,発電所のコスト低減として,負荷遮断時に大きく影響するのは水圧変動率となります。
(2)解答:イ
題意より解答候補は,(イ)水圧鉄管,(ヲ)洪水吐ゲート,(ヨ)サージタンク,になると思います。
このうち,水力発電所の肉厚を薄くし,コスト低減を見込めるのは水圧鉄管となります。肉厚といえば配管と考えてまず問題ないかと思います。
(3)解答:カ
題意より解答候補は,(ニ)系統要求から定まる,(リ)水車要求から定まる,(カ)機器固有の,になると思います。
はずみ車効果(\( \ GD^{2} \ \))とは重量\( \ G \ \)と直径\( \ D \ \)の\( \ 2 \ \)乗の積で,慣性モーメントとほぼ同じイメージで良いです。したがって,機器固有の値が最も適当となります。
(4)解答:ハ
題意より解答候補は,(ハ)無拘束速度,(ル)臨界速度,(ワ)定格速度,になると思います。
水車が負荷遮断時に到達する速度は無負荷時に到達する最大回転速度である無拘束速度を考慮し,設計を行います。
(5)解答:ヘ
題意より解答候補は,(ヘ)サーボモータ容量,(ト)キャビテーション,(チ)枚数,等になると思います。
このうちガイドベーンの閉鎖時間を長くすることでコストメリットが得られるのはサーボモータ容量となります。