《電力》〈送電〉[R02:問3]ケーブルの許容温度,各損失及びその特徴と温度上昇対策に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★☆☆☆☆(易しい)

次の文章は,ケーブルの温度上昇に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

ケーブルの許容電流は,絶縁体の性能を長期にわたり損なわない温度条件から定められ,例えば\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル)の最高許容温度(連続使用時)は\( \ \fbox {  (1)  } \ \)程度である。ここにケーブルの温度は,ケーブルからの発熱と周囲への熱放散とから定まる。

ケーブルからの発熱は,導体での銅損,誘電体損,シース損などによる。誘電体損は,印加電圧の\( \ \fbox {  (2)  } \ \)と静電容量,誘電体の\( \ \tan \delta \ \)などに比例する。一方,シース損は,シース各部への鎖交磁束に起因する\( \ \fbox {  (3)  } \ \)と線路の長手方向に誘導されるシース電圧に起因するシース回路損などからなる。単心ケーブルでは,シース内に三相導体が収納されている三心ケーブルに比べ,シース電圧が大きくなる。単心ケーブルでシース回路損及びシース電圧を減少させるには,シース回路に\( \ \fbox {  (4)  } \ \)を採用することが有効である。

ケーブルからの熱放散は,周囲温度や土壌等の熱抵抗とともに,ケーブルの条数や布設方法により異なる。例えば図のような管路に,全て同一種類で同一サイズのケーブルを布設し同一の電流を流した場合には,放熱効果は(a),(b),(c)のうち\( \ \fbox {  (5)  } \ \)が最も大きい。ここにケーブル電流は許容電流程度であり,地表面からの日射の影響は無視できるとする。

〔問3の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& クロスボンド方式      &(ロ)& (\mathrm {a})     &(ハ)& コロナ損 \\[ 5pt ] &(ニ)& (\mathrm {c})      &(ホ)& 2 \ 乗     &(ヘ)& 120 \ ℃ \\[ 5pt ] &(ト)& 1 \ 乗     &(チ)& ソリットボンド方式      &(リ)& ヒステリシス損 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 3 \ 乗     &(ル)& 90 \ ℃     &(ヲ)& (\mathrm {b}) \\[ 5pt ] &(ワ)& 片端接地方式     &(カ)& 60 \ ℃     &(ヨ)& 渦電流損 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

いずれの空欄も電験としては必須の内容となる問題です。なお,\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルに関しては昨年度も出題されていますので,合わせて見ておいて下さい。
二次試験にも出題される可能性がありますが,本問は\( \ 1 \ \)種受験生だとほとんどの方が完答されてくると思います。忘れてしまった場合は\( \ 2 \ \)種や\( \ 3 \ \)種のテキストを復習しておくようにしましょう。

1.ケーブルに発生する損失
①抵抗損
導体の抵抗により発生する損失で,導体電流の\( \ 2 \ \)乗に比例します。

②誘電体損
ケーブルの絶縁体部に流れる電流のうち,抵抗成分に流れる電流による損失です。ケーブルは図1の断面図を見ると分かると思いますが,コンデンサを巻いたような形状となっています。この誘電体部が劣化してくると抵抗分が大きくなる傾向があり,損失が増加します。

③シース損
ケーブルの絶縁体部の外側に巻く金属(シース)を流れる循環電流と渦電流による損失です。ケーブル導体を流れる電流から発生する磁束により電圧が誘起され発生します。

2.クロスボンド接地方式
亘長の長い単心ケーブルで使用される方式で,ケーブルのシース部を絶縁接続して,図2のような回路を構成することで,各相のリアクタンスのバランスを取り,各相に流れるシース電流のベクトル和をほぼ零にしようとする方式です。送電線のねん架と似たような対策と言えます。

3.ケーブルの誘電体損\( \ W_{\mathrm {d}} \ \)
角周波数を\( \ \omega \ \),周波数を\( \ f \ \),静電容量を\( \ C \ \),誘電正接を\( \ \tan \delta \ \)とした時,電圧\( \ V \ \)をかけたときの誘電体損\( \ W_{\mathrm {d}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W_{\mathrm {d}} &=&\omega CV^{2}\tan \delta \\[ 5pt ] &=&2\pi f CV^{2}\tan \delta \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。公式ではありますが,導出過程は以下の通りです。

ケーブルの一相分の等価回路とベクトル図を描くと図3の通りとなります。
図3より,コンデンサに流れる電流の大きさ\( \ I_{\mathrm {C}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {C}} &=&\omega C\frac {V}{\sqrt {3}} \\[ 5pt ] &=&\frac {\omega CV}{\sqrt {3}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,抵抗を流れる電流の大きさ\( \ I_{\mathrm {R}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {R}} &=&I_{\mathrm {C}}\tan \delta \\[ 5pt ] &=&\frac {\omega CV}{\sqrt {3}}\tan \delta \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。したがって,\( \ 3 \ \)線合計の誘電体損\( \ W_{\mathrm {d}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W_{\mathrm {d}} &=&3\times \frac {V}{\sqrt {3}} I_{\mathrm {R}} \\[ 5pt ] &=&3\times \frac {V}{\sqrt {3}} \frac {\omega CV}{\sqrt {3}}\tan \delta \\[ 5pt ] &=&\omega CV^{2}\tan \delta \\[ 5pt ] &=&2\pi f CV^{2}\tan \delta \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められます。

4.\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルの特徴
\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルの特徴の主に\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルと比較した特徴は以下の通りとなります。

①絶縁体に架橋ポリエチレンを使用し,\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルのように絶縁油を使用しないため,給油設備を必要とせず,火災のリスクも少ない。

②連続使用時の最高許容温度が\( \ 90 \ \)℃と高いので,許容電流が大きくなり,送電容量が大きくなる。

③誘電正接\( \ \mathrm {tan} \delta \ \)(誘電正接)や比誘電率が小さいため誘電体損失や充電電流が小さくなる。

④絶縁体自体を薄くでき軽量であるため,取り回しが良い。

⑤耐薬品性,耐摩耗性,耐衝撃性に優れる。

⑥水分が含まれると水トリーと呼ばれる樹枝状に絶縁劣化する現象が発生する。

【解答】

(1)解答:ル
題意より解答候補は,(ヘ)\( \ 120 \ ℃ \ \),(ル)\( \ 90 \ ℃ \ \),(カ)\( \ 60 \ ℃ \ \),になると思います。
ワンポイント解説「4.\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルの特徴」の通り,\( \ \mathrm {CV} \ \)ケーブルの最高許容温度は\( \ 90 \ ℃ \ \)程度となります。\( \ \mathrm {OF} \ \)ケーブルの約\( \ 80 \ ℃ \ \)も覚えておきましょう。

(2)解答:ホ
題意より解答候補は,(ホ)\( \ 2 \ \)乗,(ト)\( \ 1 \ \)乗,(ヌ)\( \ 3 \ \)乗,になると思います。
ワンポイント解説「3.ケーブルの誘電体損\( \ W_{\mathrm {d}} \ \)」の通り,ケーブルの誘電体損\( \ W_{\mathrm {d}} \ \)は,印加電圧を\( \ V \ \),周波数を\( \ f \ \),静電容量を\( \ C \ \),誘電正接を\( \ \tan \delta \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
W_{\mathrm {d}}&=&2\pi f CV^{2}\tan \delta \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,電圧の2乗に比例します。

(3)解答:ヨ
題意より解答候補は,(ハ)コロナ損,(リ)ヒステリシス損,(ヨ)渦電流損,になると思います。
ワンポイント解説「1.ケーブルに発生する損失」の通り,シース損は渦電流損とシース回路損を合わせたものです。コロナ損は架空送電線のコロナ放電による損失,ヒステリシス損は強磁性体のヒステリシス特性による損失です。

(4)解答:イ
題意より解答候補は,(イ)クロスボンド方式,(チ)ソリットボンド方式,(ワ)片端接地方式,になると思います。
ワンポイント解説「2.クロスボンド接地方式」の通り,ケーブルのシース回路損及びシース損を減少させる方法はクロスボンド方式と呼ばれます。

(5)解答:ヲ
題意より解答候補は,(ロ)(\(\mathrm {a}\)),(ニ)(\(\mathrm {c}\)),(ヲ)(\(\mathrm {b}\)),になると思います。
放熱効果は周りに導体がない方が大きいので,問題図の例で大きい順に並べると\( \ \left( \mathrm {b}\right) > \left( \mathrm {a}\right) > \left( \mathrm {c}\right) \ \)となります。



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