《電力》〈変電〉[R03:問3]送電用変電所に用いられる油入変圧器の過負荷運転に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)

次の文章は,送電用変電所に用いられる油入変圧器の過負荷運転に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

変圧器は,使用しているうちに次第に劣化を生じる。主な劣化箇所は\( \ \fbox {  (1)  } \ \)であり,次の要因が考えられる。
 ・\( \ \fbox {  (2)  } \ \)による劣化
 ・コロナによる劣化
 ・機械的応力による劣化
このうち,過負荷運転による劣化に最も大きな影響を及ぼすのは\( \ \fbox {  (2)  } \ \)による劣化である。

変圧器の過負荷運転は,寿命を犠牲にする場合もあるが,次の
 ・周囲温度が\( \ \fbox {  (3)  } \ \)
 ・過負荷時間が短い
 ・温度上昇試験記録が規定温度上昇値に達しない
という条件下において,巻線の最高点温度を最大でも\( \ \fbox {  (4)  } \ \)℃として連続運転した場合には,正規寿命(設計時点で定義された運転・温度状態で使用した場合の設計寿命)が期待できる。

ここで,正規寿命を期待する場合の許容負荷が表1のように示される変圧器を,表2のような負荷パターンで短時間過負荷運転する場合を考える。このとき,変圧器の寿命を犠牲にせずに過負荷運転が可能な等価周囲温度を表から読み取ると\( \ \fbox {  (5)  } \ \)℃以下である。ただし表1は,軽負荷時の負荷率が何%以下であるかに応じて,等価周囲温度[℃]と過負荷運転\( \ \mathrm {\left[ h\right] } \ \)により決まる許容負荷(定格負荷に対する百分率)の最大値を表す。また,表2の負荷パターンにおける軽負荷時の負荷率は
\[
\begin{eqnarray}
軽負荷時の負荷率 &=&\sqrt {\frac {H_{1}\cdot P_{1}^{2}+H_{2}\cdot P_{2}^{2}+H_{4}\cdot P_{4}^{2}+H_{5}\cdot P_{5}^{2}}{H_{1}+H_{2}+H_{4}+H_{5}}} \ \mathrm {[%]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] により求められるものとする。

〔問3の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 75     &(ロ)& 一定         &(ハ)& 105 \\[ 5pt ] &(ニ)& 導体         &(ホ)& 95     &(ヘ)& 絶縁物 \\[ 5pt ] &(ト)& 30     &(チ)& 鉄心     &(リ)& 10 \\[ 5pt ] &(ヌ)& 熱     &(ル)& 高い     &(ヲ)& 吸湿 \\[ 5pt ] &(ワ)& 20     &(カ)& 酸化     &(ヨ)& 低い \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

油入変圧器の劣化に関する問題です。
変圧器の劣化として出題されやすいのは絶縁油と絶縁紙で,本問は絶縁紙に関する内容です。
絶縁油は洗浄や交換などが可能ですが,絶縁紙は修理や交換が不可能なので,変圧器の寿命を検討する際には絶縁紙の劣化に着目する必要があります。

1.変圧器を構成する部材
①非劣化部材
 鉄心,コイル
②劣化しても交換できる部材
 保護機器,冷却ファン,絶縁油
③徐々に劣化するが交換できない部材
 巻線部の絶縁に用いられる絶縁紙 ← 変圧器の寿命に影響

2.絶縁紙の劣化診断
絶縁紙は熱によりセルロース分子が切断し,絶縁耐力と機械的強度が減少します。通常使用にて\( \ 30 \ \)年程度使用すると以下の値になり,これが限界とされています。
  絶縁耐力   :約\( \ 90 \ \)%
  機械的引張強度:\( \ 50~60 \ \)%
  平均重合度残率:\( \ 40~50 \ \)%
また,絶縁紙の劣化指標としては,絶縁油中の\( \ \mathrm {CO} \ \),\( \ \mathrm {CO_{2}} \ \)の生成量やフルフラール生成量も確立されています。

3.油入変圧器運転指針
油入変圧器の運転指針として,以下のような内容が記載されています。

温度上昇に関する規定は、
(1)周囲温度が25℃一定で、
(2)定格負荷で連続使用し、
(3)最高点温度が95℃、
の場合に、30年程度の正規寿命が期待できるものとして定められている。
しかし、変圧器の実際運転に際しては、
(1)周囲温度の変動
(2)負荷の変動温度試験値と規定値の差
(3)冷却条件の変化
など、諸条件が上記の規格設定時の条件とは異なるのが普通である。

出典:油入変圧器運転指針 平成11年8月20日

【解答】

(1)解答:ヘ
題意より解答候補は,(ニ)導体,(ヘ)絶縁物,(チ)鉄心,になると思います。
ワンポイント解説「1.変圧器を構成する部材」の通り,主な劣化箇所としては絶縁物が適当となります。

(2)解答:ヌ
題意より解答候補は,(ヌ)熱,(ヲ)吸湿,(カ)酸化,になると思います。
ワンポイント解説「2.絶縁紙の劣化診断」の通り,絶縁紙はによる劣化が発生しやすいです。

(3)解答:ヨ
題意より解答候補は,(ロ)一定,(ル)高い,(ヨ)低い,になると思います。
ワンポイント解説「3.油入変圧器運転指針」の通りで一定か低いか迷うところですが,過負荷運転の内容を規定しており,一定温度でも高い温度では寿命を犠牲にする可能性があるので,低いの方がより適当かと思います。

(4)解答:ホ
題意より解答候補は,(イ)\( \ 75 \ \),(ハ)\( \ 105 \ \),(ホ)\( \ 95 \ \),(ト)\( \ 30 \ \),(リ)\( \ 10 \ \),(ワ)\( \ 20 \ \),になると思います。
ワンポイント解説「3.油入変圧器運転指針」の通り,油入変圧器運転指針では巻線の最高点温度を最大でも\( \ 95 \ \)℃として連続運転した場合には,正規寿命が期待できるとされています。

(5)解答:ト
題意より解答候補は,(ト)\( \ 30 \ \),(リ)\( \ 10 \ \),(ワ)\( \ 20 \ \),になると思います。
表2の条件における軽負荷時の負荷率\( \ \mathrm {[%]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
軽負荷時の負荷率 &=&\sqrt {\frac {8\times 20^{2}+4\times 60^{2}+2\times 80^{2}+6\times 40^{2}}{8+4+2+6}} \\[ 5pt ] &≒&44.7 \ \mathrm {[%]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] であるため,表2の\( \ H_{3}=4 \ \mathrm {[h]} \ \), \( \ P_{3}=120 \ \mathrm {[%]} \ \)の時の等価周囲温度は表1より,約\( \ 30 \ \)℃であることがわかります。



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