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【問題】
【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)
次の文章は,ニッケル-水素化物電池に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
充電して反復使用可能な電池を二次電池または蓄電池という。充電と放電の全く逆な過程を\( \ \fbox { (1) } \ \)に進行させることができる電池である。二次電池の一つであるニッケル-水素化物電池は,水酸化ナトリウムなど強アルカリ濃厚水溶液を電解液とした二次電池であり,負極に金属水素化物,正極にオキシ水酸化ニッケルを用いるアルカリ蓄電池の一種である。金属水素化物に\( \ \mathrm {LaNi_{5}H_{6}} \ \)を使用したニッケル-水素化物電池の電極反応は以下のように書ける。
負極 \( \ \displaystyle \frac {1}{6}\mathrm {LaNi_{5}H_{6}}+\mathrm {OH^{-}}⇄\frac {1}{6}\mathrm {LaNi_{5}}+\mathrm {H_{2}O}+\mathrm {e^{-}} \ \)
正極 \( \ \displaystyle \mathrm {NiOOH}+\mathrm {H_{2}O}+\mathrm {e^{-}}⇄\mathrm {Ni\left( OH \right) _{2}}+\mathrm {OH^{-}} \ \)
ここで,この電極反応式の左向きに進む反応が\( \ \fbox { (2) } \ \)である。電池の構成としては,正極負極間の距離を短くするとともに短絡を防止するために\( \ \fbox { (3) } \ \)が設けられる。電池の容量はファラデーの法則に従い活物質量に比例する。\( \ 900 \ \mathrm {mA\cdot h} \ \)の容量に必要な理論的な活物質量は\( \ \fbox { (4) } \ \mathrm {g} \ \)である。今,公称電圧\( \ 1.2 \ \mathrm {V} \ \),容量\( \ 900 \ \mathrm {mA\cdot h} \ \)のニッケル水素化物電池の全体重量が\( \ 13 \ \mathrm {g} \ \)であるとき,重量あたりの電気エネルギー容量は\( \ \fbox { (5) } \ \)である。なお,原子量はそれぞれ\( \ \mathrm {H}= 1.01 \ \),\( \ \mathrm {O}= 16.0 \ \),\( \ \mathrm {Ni}= 58.7 \ \),\( \ \mathrm {La}= 139 \ \),ファラデー定数は\( \ 26.8 \ \mathrm {A\cdot h / mol } \ \)である。
〔問7の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 非可逆 &(ロ)& 5.54 &(ハ)& 可逆的 \\[ 5pt ]
&(ニ)& 放電 &(ホ)& 絶縁膜 &(ヘ)& 83.1 \ \mathrm {mW\cdot h / g} \\[ 5pt ]
&(ト)& イオン交換膜 &(チ)& 69.2 \ \mathrm {mW\cdot h / g} &(リ)& 充電 \\[ 5pt ]
&(ヌ)& 11.1 &(ル)& セパレータ &(ヲ)& 同時 \\[ 5pt ]
&(ワ)& 83.1 \ \mathrm {J / g} &(カ)& 2.77 &(ヨ)& 自発的 \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【ワンポイント解説】
ニッケル-水素化物電池に関する問題ですが,実質的には電気化学の一般論とファラデーの法則の理解を問う問題です。
\( \ 2 \ \)種の受験生ですと,後半の(4)と(5)の空欄の正答率が\( \ 3 \ \)種の受験生に比べ大幅に高くなりますので,必ず計算方法をマスターしておくようにして下さい。
1.ニッケル-水素化物電池
負極活物質に水素吸蔵合金(\( \ \mathrm {MH} \ \)),正極活物質にオキシ水酸化ニッケル(\( \ \mathrm {NiOOH} \ \))を用いた二次電池で,一昔前はニッケル-カドミウム電池が充電池の主流でしたが,カドミウムの環境負荷が大きいため,現在はニッケル-水素化物電池が使用されています。
①化学反応式(反応式は暗記不要です)
正 極:\( \ \displaystyle \mathrm {MH}+\mathrm {OH^{-}}\array { 放電 \\ ⇄ \\ 充電 }\mathrm {M}+\mathrm {H_{2}O}+\mathrm {e^{-}} \ \)
負 極:\( \ \displaystyle \mathrm {NiOOH}+\mathrm {H_{2}O}+\mathrm {e^{-}}\array { 放電 \\ ⇄ \\ 充電 }\mathrm {Ni\left( OH \right) _{2}}+\mathrm {OH^{-}} \ \)
全 体:\( \ \displaystyle \mathrm {MH}+\mathrm {NiOOH} \array { 放電 \\ ⇄ \\ 充電 }\mathrm {M} + \mathrm {Ni\left( OH \right) _{2}} \ \)
②特徴
・公称電圧は約\( \ 1.2 \ \mathrm {V} \ \)とニッケル-カドミウム電池と同等。
・ニッケル-カドミウム電池よりもエネルギー密度が高い。
・\( \ 500 \ \)回以上の充放電が可能で,高寿命である。
・ニッケル-カドミウム電池より環境負荷が小さい。
・鉛蓄電池のような充放電時の電解液の濃度変化がない。
・リチウムイオンに比べ急速充電が可能で価格も安価。
・自己放電やメモリー効果(放電がしきらない状態で充電を繰り返すと見かけ上容量が低下し,電池電圧が一時的に低下してしまう現象)が発生する。
2.電気分解におけるファラデーの法則
電極に析出する物質の質量\( \ W \ \mathrm {[g]} \ \)は溶液を通過する電気量\( \ Q \ \mathrm {[C]} \ \)に比例する(第\( \ 1 \ \)法則)もしくは物質の化学当量(=原子量\( \ m \ \)/原子価\( \ n \ \))に比例する(第\( \ 2 \ \)法則)という法則で,ファラデー定数を\( \ F≒96 \ 500 \ \mathrm {[C / mol]} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&\frac {1}{F}\cdot \frac {m}{n} Q \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となります。また,電流\( \ I \ \mathrm {[A]} \ \)を時間\( \ t \ \mathrm {[s]} \ \)通電していたとすると,\( \ Q=It \ \)の関係から,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&\frac {1}{F}\cdot \frac {m}{n} It \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となります。
※ファラデーの法則を覚えても良いですが,できるだけ単位や化学式を用いた解法をマスターするようにしましょう。
【解答】
(1)解答:ハ
題意より解答候補は,(イ)非可逆,(ハ)可逆的,(ヲ)同時,(ヨ)自発的,になると思います。
ワンポイント解説「1.ニッケル-水素化物電池」の通り,充電池は充電と放電の過程を可逆的に進行させることができる電池です。
(2)解答:リ
題意より解答候補は,(ニ)放電,(リ)充電,になると思います。
ワンポイント解説「1.ニッケル-水素化物電池」の通り,反応式の右向きに進む反応が放電,左向きに進む反応が充電となります。
(3)解答:ル
題意より解答候補は,(ホ)絶縁膜,(ト)イオン交換膜,(ル)セパレータ,になると思います。
正極負極間の距離を短くするとともに短絡を防止するために設けられているものをセパレータといいます。
(4)解答:ロ
ファラデー定数\( \ F=26.8 \ \mathrm {[A\cdot h / mol ]} \ \)より,\( \ Q=900 \ \mathrm {[mA\cdot h]} \ \)を物質量換算した大きさ\( \ N_{\mathrm {e}} \ \mathrm {[mol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
N_{\mathrm {e}}&=&\frac {Q}{F} \\[ 5pt ]
&=&\frac {900\times 10^{-3}}{26.8} \\[ 5pt ]
&≒&0.03358 \ \mathrm {[mol]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となる。負極の反応式より,反応する\( \ \mathrm {LaNi_{5}H_{6}} \ \)の物質量\( \ N_{\mathrm {m}} \ \mathrm {[mol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
N_{\mathrm {m}}&=&\frac {1}{6}N_{\mathrm {e}} \\[ 5pt ]
&=&\frac {1}{6}\times 0.03358 \\[ 5pt ]
&≒&0.005597 \ \mathrm {[mol]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となり,正極の反応式より,反応する\( \ \mathrm {NiOOH} \ \)の物質量は\( \ N_{\mathrm {e}}≒0.03358 \ \mathrm {[mol]} \ \)と等しい。
ここで,\( \ \mathrm {H}= 1.01 \ \),\( \ \mathrm {O}= 16.0 \ \),\( \ \mathrm {Ni}= 58.7 \ \),\( \ \mathrm {La}= 139 \ \)より\( \ \mathrm {LaNi_{5}H_{6}} \ \)の原子量\( \ m_{1} \ \)及び\( \ \mathrm {NiOOH} \ \)の原子量\( \ m_{2} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
m_{1}&=&139+58.7\times 5+1.01\times 6 \\[ 5pt ]
&≒&438.6 \\[ 5pt ]
m_{2}&=&58.7+16.0+16.0+1.01 \\[ 5pt ]
&=&91.71 \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
であるから,必要な活物質量\( \ W \ \mathrm {[g]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&m_{1}N_{\mathrm {m}}+m_{2}N_{\mathrm {e}} \\[ 5pt ]
&=&438.6\times 0.005597+91.71\times 0.03358 \\[ 5pt ]
&≒&5.534 \ \mathrm {[g]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
と求められる。
(5)解答:ヘ
題意より,公称電圧\( \ 1.2 \ \mathrm {V} \ \),容量\( \ 900 \ \mathrm {mA\cdot h} \ \)であり,全体重量が\( \ 13 \ \mathrm {g} \ \)であるので,重量あたりの電気エネルギー容量\( \ C \ \ \mathrm {[mW\cdot h / g]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
C&=&\frac {900\times 1.2}{13} \\[ 5pt ]
&≒&83.1 \ \mathrm {[mW\cdot h / g]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
と求められる。