《理論》〈電磁気〉[R02:問2]鉄心を移動することによるコイルに蓄えられるエネルギーに関する計算問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,コイルに蓄えられるエネルギーに関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

図のようなコイルがあり,鉄心が完全に挿入された状態から\( \ x \ \)だけ引き出された時の自己インダクタンスを\( \ L\left( x\right) \ \)とする。ただし,鉄心の渦電流,磁気飽和やヒステリシスは無視できるものとする。また,コイルの電気抵抗は無視でき,コイルに流れる電流は電気抵抗によって減衰しないものとする。

鉄心の最初の位置は\( \ x=0 \ \)であり,コイルは短絡されて電流\( \ i=I \ \)が流れ続けているものとする。このとき,コイルに鎖交する磁束数は\( \ \fbox {  (1)  } \ \)で,コイルが蓄えているエネルギーは\( \ \fbox {  (2)  } \ \)である。

次に,コイルを短絡したまま,外力を加えて鉄心を\( \ x \ \)まで引き出した。このとき,コイルに鎖交する磁束数は\( \ \fbox {  (1)  } \ \)のまま変わらないため,電流\( \ i \ \)は\( \ \fbox {  (3)  } \ \)となり,コイルが蓄えているエネルギーは\( \ \fbox {  (4)  } \ \)に変化する。また,外力がした仕事は\( \ \fbox {  (5)  } \ \)。

〔問2の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& L\left( 0\right) I    &(ロ)& \frac {1}{2}\frac {L\left( 0 \right) ^{2}}{L\left( x\right) }I^{2}    &(ハ)& 全て鉄心で熱になった \\[ 5pt ] &(ニ)& \frac {1}{2}L\left( x\right) I^{2}     &(ホ)& \frac {1}{2}L\left( 0\right) I    &(ヘ)& L\left( 0\right) I^{2} \\[ 5pt ] &(ト)& L\left( x\right) I^{2}    &(チ)& 0    &(リ)& 全て巻線で熱になった \\[ 5pt ] &(ヌ)& 全てコイルに蓄えられた        &(ル)& \frac {L\left( x\right) }{L\left( 0 \right) }I    &(ヲ)& \frac {1}{4}L\left( 0\right) I^{2} \\[ 5pt ] &(ワ)& \frac {L\left( 0 \right) }{L\left( x\right) }I    &(カ)& I   &(ヨ)& \frac {1}{2}L\left( 0\right) I^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

コイルに蓄えられるエネルギーの変化に関する問題です。
あまり\( \ 3 \ \)種では見ないような問題であり,戸惑う受験生も多いかもしれませんが,扱う公式は\( \ 3 \ \)種で覚えた公式と変わらない公式です。
しっかりと内容を理解し,(3)や(4)を試験本番までに解けるようにしましょう。

1.自己インダクタンス\( \ L \ \)
図1のような環状ソレノイド回路において,巻数\( \ N \ \)のコイルに電流\( \ I \ \)を流した時の鉄心の磁束\( \ \phi \ \)と比例定数\( \ L \ \)の関係は,起電力\( \ e \ \)を求める関係より,
\[
\begin{eqnarray}
-N\frac {\Delta \phi }{\Delta t}&=&-L\frac {\Delta I}{\Delta t} \\[ 5pt ] N\phi &=&LI \\[ 5pt ] L &=&\frac {N\phi }{I} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,\( \ L \ \)を自己インダクタンスと言います。

2.自己インダクタンス\( \ L \ \)と蓄積される電磁エネルギー\( \ W \ \)の関係式
自己インダクタンス\( \ L \ \)のコイルに電流\( \ I \ \)を流し,十分時間が経った時にコイルに蓄積されるエネルギー\( \ W \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&\frac {1}{2}LI^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

【解答】

(1)解答:イ
ワンポイント解説「1.自己インダクタンス\( \ L \ \)」の通り,鎖交する磁束\( \ \varPhi \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
\varPhi &=&N\phi \\[ 5pt ] &=&L\left( 0\right) I \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(2)解答:ヨ
ワンポイント解説「2.自己インダクタンス\( \ L \ \)と蓄積される電磁エネルギー\( \ W \ \)の関係式」の通り,コイルに蓄積されるエネルギー\( \ W \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W&=&\frac {1}{2}L\left( 0\right) I^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(3)解答:ワ
題意より,外力を加えて鉄心を\( \ x \ \)まで引き出したとき,自己インダクタンスは\( \ L\left( x\right) \ \)であり,コイルに鎖交する磁束数は\( \ L\left( 0\right) I \ \)のままであるから,
\[
\begin{eqnarray}
L\left( x\right) i&=&L\left( 0\right) I \\[ 5pt ] i&=&\frac {L\left( 0 \right) }{L\left( x\right) }I \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(4)解答:ロ
\( \ x \ \)まで引き出したときのコイルに蓄積されるエネルギー\( \ W^{\prime } \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
W^{\prime }&=&\frac {1}{2}L\left( x\right) i^{2} \\[ 5pt ] &=&\frac {1}{2}L\left( x\right) \left\{ \frac {L\left( 0 \right) }{L\left( x\right) }I\right\} ^{2} \\[ 5pt ] &=&\frac {1}{2}\frac {L\left( 0 \right) ^{2}}{L\left( x\right) }I^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(5)解答:ヌ
題意より,鉄心の渦電流,磁気飽和やヒステリシスは無視できるとなっているので,熱損失は発生せず,外力がした仕事は全てコイルに蓄えられます



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