《電力・管理》〈電気施設管理〉[H20:問6]各発電設備の電源開発及び運用に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)

次の文章は,電源の開発に関する記述である。

電力需要に対応する供給力は,国のエネルギー政策として,従来から石油代替エネルギーの開発・導入を推進し多様化を図ってきた。しかし,石油・天然ガスを始めとするエネルギー資源の大部分を海外に依存していること,そして気候変動問題を始めとする環境問題への対応が重要な課題となっていることを踏まえれば,供給力ごとに供給安定性,環境適合性,経済性等を評価し,その開発を着実に推進していくことが必要である。

次の供給力は,石油代替エネルギーの一部を使用した発電方式であるが,それぞれについてその特徴及び技術的な課題を例題にならって述べよ。

 (1) 一般水力による発電

 (2) 石炭燃料による火力発電

 (3) 太陽光,風力,バイオマスの新エネルギーによる発電

[解答例]
〇原子力発電
特徴:原子力発電は,日々の運転においてベース供給力を分担し,基幹電源として電力供給の主役を担っている。原料であるウランの供給国の多様性という供給安定性,発電過程において二酸化炭素を排出しないという地球温暖化問題への環境適合性,発電コストに占める燃料費比率が低く発電コスト安定性という経済性の特徴がある。

課題:安全の確保と平和利用の確保を前提に,技術的には高経年化対策,耐震安全対策の充実,使用済み燃料を含めた核燃料サイクルの確立等の課題がある。

【ワンポイント解説】

日本における電力エネルギー政策に関する問題です。
様々な知識の組合せの出題です。\( \ 3 \ \)種や\( \ 2 \ \)種で学習した内容を駆使して高得点できるように準備して下さい。
解答にある「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」は現在「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」という名称で運用されており,太陽光,風力,水力,地熱,バイオマス発電が対象となっています。

1.供給力の区分
電力は原則蓄えることができない(同時同量の原則)ため,日負荷曲線で示される需要カーブに応じて,常に発電所全体の出力をコントロールする必要があり,供給力は主に以下の三つに区分されます。

① ベース供給力
 需要カーブに関係なくほぼ一定に運転するもので,原子力,石炭火力,流れ込み式水力,地熱,等があります。一般に発電コストが安いもの,出力調整ができないもの,が該当します。

② ミドル供給力
 \( \ 1 \ \)日の需要カーブに沿って出力を調整しながら運転,もしくは停止するもので,コンバインドサイクル発電をはじめとする\( \ \mathrm {LNG} \ \)火力,等があります。ベース供給力よりは発電コストは高いですが出力調整がしやすいもの,が該当します。

③ ピーク供給力
 \( \ 1 \ \)日の需要カーブのピークに合わせて運転を行い,需要が低い時間帯は停止もしくは最低負荷運転,揚水発電においては揚水,等を行うもので,石油火力,揚水式水力,調整池式・貯水池式水力,等があります。発電コストが高いものや調整がしやすいもの,が該当します。

2.近年の電力需給カーブと電源構成
近年は太陽光発電をはじめとした自然エネルギーの普及に伴い電力需給のバランスが変化してきており,特に下図に示すように気候が比較的穏やかで日照量も多い5月等は日中の発電量が電力需要を上回り,太陽光発電の出力制限をかける事例も発生してきています。
一方\( \ \mathrm {NAS} \ \)電池をはじめとした,電力貯蔵用の大型の蓄電池の技術も向上し,こちらは負荷平準化に貢献しています。
自然エネルギー普及前から使用されている電源はベース供給力(原子力,石炭火力,流れ込み式水力等),ミドル供給力(天然ガス等),ピーク供給力(石油火力,揚水式水力)に分けられていましたが,これに自然エネルギーの要素が加わり,より高度な需給調整が必要になってきたと言えるでしょう。

出典:自然エネルギー庁 広報パンフレット 日本のエネルギー
URL:https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2022.pdf

【解答】

(1)一般水力による発電
(ポイント)
・一般水力は純国産エネルギーとして,重要な電源の一つとして扱われています。
・一般水力は建設コストは高いですが,発電コストは低く,発電時に二酸化炭素や硫黄酸化物,窒素酸化物等の大気汚染物質を発生しないという特徴があります。

(試験センター解答例)
特徴:自然エネルギーであるために自然条件に左右される面はあるが,海外に依存する必要のない純国産エネルギーという供給安定性,発電時に二酸化炭素\( \ \left( \mathrm {CO}_{2}\right) \ \)や硫黄酸化物\( \ \left( \mathrm {{SO}_{x}}\right) \ \)等を発生しない環境適合性,燃料を使用しない発電コスト安定性という経済性の特徴がある。なお,これらのエネルギーは,\( \ 2003 \ \)年\( \ 4 \ \)月に施行された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」\( \ \left( \mathrm {RPS}\right. \ \)法\(\left. \mathrm {}\right) \ \)の対象エネルギーとして,その導入・利用が支援され,推進が図られている。

課題:既に一般水力の開発が相当進んでいるため,今後の開発は立地地点の奥地化や小規模化となり,開発コストの上昇が見込まれるため,低落差や小流量に適応した技術の向上が課題である。

(2)石炭燃料による火力発電
(ポイント)
・石炭火力は化石燃料の中でも埋蔵量が多い燃料で,価格も安価です。
・原子力発電と同様,ベース供給力としての役割を担っています。
・環境負荷が大きいため,世界的な「脱炭素化」の流れとしては大きな課題となっています。

(試験センター解答)
特徴:石炭による火力発電は,供給力の運用上において電力\( \ \mathrm {[kW]} \ \)及び電力量\( \ \mathrm {[kW\cdot h]} \ \)ともに,長時間継続して運転を行い安定的に電気を供給する電源として重要な役割を果たしてきている。燃料である石炭は海外に依存しているが,世界各国に幅広く分布する等,他の化石燃料に比べ供給国の多様性という供給安定性が高く,大気汚染防止面からは脱硫や脱硝技術などの利用により環境適合性,経済性にも優れているという特徴がある。

課題:石炭は,他の化石燃料に比し,燃焼過程における単位熱量当たりの二酸化炭素排出量が大きいこと等,環境への適合を図る観点から課題を抱えている。このための対策技術が必要であり,燃料自体のガス化によるクリーン化,超臨界圧採用による高効率発電,ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて発電する石炭ガス化複合発電\( \ \left( \mathrm {IGCC} \right) \ \)等のより効率の高い発電利用技術の開発・導入が課題である。

(3)太陽光,風力,バイオマスの新エネルギーによる発電
(ポイント)
・太陽光や風力は発電時に二酸化炭素を発生しない,バイオマスは発電時に発生した二酸化炭素を植林等を回収できる(カーボンニュートラル)という特徴があります。
・太陽光や風力は発電電力が気象状況に左右され安定しないという特徴があります。
・いずれもエネルギー密度が化石燃料による発電より低いです。
・いずれも再生可能エネルギーとして,\( \ 1 \ \mathrm {kW} \ \)あたりの単価が優遇されています。

(試験センター解答)
特徴:新エネルギーのうち,太陽光,風力,バイオマスの再生可能エネルギーは,地域におけるエネルギー自給率の向上,地球温暖化対策に資するほか,分散形エネルギーシステムとしてのメリットや国民がエネルギー供給に参加する機会を与えることもできる貴重なエネルギーである。なお,これらのエネルギーは,\( \ 2003 \ \)年\( \ 4 \ \)月に施行された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」\( \ \left( \mathrm {RPS}\right. \ \)法\(\left. \mathrm {}\right) \ \)の対象エネルギーとして,その導入・利用が支援され,推進が図られている。

課題:当該新エネルギーは,エネルギー密度が一般的には小さく,現時点ではエネルギー変換効率や設備利用率など,競合するエネルギーと比較して,出力の不安定性や高コスト,電力品質の確保等の課題を抱えている。このため,コスト低減や系統安定化,性能向上等の技術開発が課題である。



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