《電力・管理》〈電気施設管理〉[H30:問6] 変電所設置時の使用前自主検査に関する計算・論説問題

【問題】

【難易度】★★★★★(難しい)

三相変圧器(定格電圧:一次\( \ 275 \ \mathrm {kV} \ \)/二次\( \ 77 \ \mathrm {kV} \ \),結線方式:\( \ \mathrm {Yd1} \ \)(一次星形,二次三角で\( \ 30° \ \)遅れ),一次中性点:直接接地)を含む変電所を設置したときに実施する電気事業法に規定する使用前自主検査に関して,次の問に答えよ。

(1) 図1は,接地線がメッシュ状に埋設してある変電所の接地抵抗を求める交流電圧降下法による測定回路である。電流を流さないときの高入力インピーダンス電圧計の読み\( \ V_{0} \ \)が\( \ 1.10 \ \mathrm {V} \ \),電流\( \ I \ \)を\( \ 20.0 \ \mathrm {A} \ \)流したときの読み\( \ V_{\mathrm {S1}} \ \)が\( \ 4.00 \ \mathrm {V} \ \),極性を反転して電流\( \ -I \ \)を\( \ 20.0 \ \mathrm {A} \ \)流したときの読み\( \ V_{\mathrm {S2}} \ \)が\( \ 5.20 \ \mathrm {V} \ \)であったとき,電圧回路に対する誘起電圧の影響及び接地電流その他による大地浮遊電位の影響による誤差を除いた接地抵抗値を図2のベクトル図を参考に求めよ。ただし,接地抵抗値は電流の極性では変わらないものとし,周囲の送配電線は停止しているものとする。

(2) 電気設備技術基準への適合性を電気設備技術基準の解釈の規定に基づき確認する場合について,以下の問に答えよ。

a 変電所の周囲にさくを設ける場合,構内に取扱者以外の者が立ち入らないように出入口に講じるべき措置を二つ説明せよ。

b 図3は,変圧器二次側\( \ \mathrm {v} \ \)相に電圧を印加して変圧器一次側\( \ \mathrm {V} \ \)相の絶縁性能を確認する試験回路である。ただし,変圧器は理想的であり,損失等は無視できるものとし,試験時のタップは\( \ 300 \ \mathrm {kV}/77 \ \mathrm {kV} \ \)として,一次側中性点の接地線は切り離されているものとする。

① このとき,一次側\( \ \mathrm {V} \ \)相の対地電圧は,二次側\( \ \mathrm {v} \ \)相に印加する対地電圧の何倍になるか求めよ。

② 変圧器一次側の使用電圧を公称電圧と同じ\( \ 275 \ \mathrm {kV} \ \)とするとき,二次側\( \ \mathrm {v} \ \)相に印加すべき試験電圧値を求めよ。

c 変圧器の電路の絶縁性能を確認する方法は,上記bのように現地で試験電圧を印加して確認する方法以外に,変圧器の輸送,現地組立作業の品質管理が確実にできていることを前提に,絶縁耐力を確認する方法がある。この確認方法について重要な要件を二つ説明せよ。



【ワンポイント解説】

接地抵抗値に係る現場に沿った問題から電気設備技術基準の解釈に関する知識,更には余弦定理等の数学的な要素も含む発展的な問題です。出題者もかなり力を入れて作った問題であると思いますが,受験生には厳しい問題であるため,ほとんどの受験生が選択しない問題であると思います。

1.余弦定理
図3のような三角形において,
\[
\begin{eqnarray}
a^{2}&=&b^{2}+c^{2}-2bc\cos \theta \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係が成立します。

2.変圧器の試験電圧値
電気設備技術基準の解釈第16条の16-1表に試験電圧値が規定されています。今回の問題では,試験電圧値が\( \ 60000 \ \mathrm {V} \ \)を超え,中性点接地式電路に接続し,星形結線であり,中性点を直接接地し,最大使用電圧が\( \ 170000 \ \mathrm {V} \ \)を超えるので,試験電圧は,最大使用電圧の\( \ 0.64 \ \)倍となります。

【解答】

(1)電圧回路に対する誘起電圧の影響及び接地電流その他による大地浮遊電位の影響による誤差を除いた接地抵抗値
図2のベクトル図において,\( \ V_{\mathrm {S1}}=V_{0}+RI \ \)及び\( \ V_{\mathrm {S2}}=V_{0}-RI \ \)の関係からベクトル図は図2-1のように描ける。図2-1において,ピンク色の三角形に関して余弦定理を適用すると,
\[
\begin{eqnarray}
{V_{0}}^{2}&=&{V_{\mathrm {S2}}}^{2}+\left( RI \right) ^{2}-2V_{\mathrm {S2}}\left( RI \right) \cos \theta \\[ 5pt ] \cos \theta &=&\frac {{V_{\mathrm {S2}}}^{2}+R^{2}I^{2}-{V_{0}}^{2}}{2V_{\mathrm {S2}}RI} ・・・・・・・・・ ① \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,同様に,緑色の三角形に関しても余弦定理を適用すると,
\[
\begin{eqnarray}
{V_{\mathrm {S1}}}^{2}&=&{V_{\mathrm {S2}}}^{2}+\left( 2RI \right) ^{2}-2V_{\mathrm {S2}}\left( 2RI \right) \cos \theta \\[ 5pt ] \cos \theta &=&\frac {{V_{\mathrm {S2}}}^{2}+4R^{2}I^{2}-{V_{\mathrm {S1}}}^{2}}{4V_{\mathrm {S2}}RI} ・・・・・・・・ ② \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。①,②式に関して,\( \cos \theta \ \)の値は等しいから,
\[
\begin{eqnarray}
\frac {{V_{\mathrm {S2}}}^{2}+R^{2}I^{2}-{V_{0}}^{2}}{2V_{\mathrm {S2}}RI}&=&\frac {{V_{\mathrm {S2}}}^{2}+4R^{2}I^{2}-{V_{\mathrm {S1}}}^{2}}{4V_{\mathrm {S2}}RI} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係が成立する。これを\( \ R \ \)について解き,数値を代入すると,
\[
\begin{eqnarray}
{V_{\mathrm {S2}}}^{2}+R^{2}I^{2}-{V_{0}}^{2}&=&\frac {{V_{\mathrm {S2}}}^{2}+4R^{2}I^{2}-{V_{\mathrm {S1}}}^{2}}{2} \\[ 5pt ] 2\left( {V_{\mathrm {S2}}}^{2}+R^{2}I^{2}-{V_{0}}^{2}\right) &=&{V_{\mathrm {S2}}}^{2}+4R^{2}I^{2}-{V_{\mathrm {S1}}}^{2} \\[ 5pt ] 2R^{2}I^{2}&=&{V_{\mathrm {S1}}}^{2}+{V_{\mathrm {S2}}}^{2}-2{V_{0}}^{2} \\[ 5pt ] R&=&\frac {1}{I}\sqrt{\frac {{V_{\mathrm {S1}}}^{2}+{V_{\mathrm {S2}}}^{2}-2{V_{0}}^{2}}{2}} \\[ 5pt ] &=&\frac {1}{20}\sqrt{\frac {4.00^{2}+5.20^{2}-2\times 1.10^{2}}{2}} \\[ 5pt ] &≒&0.22533 → 0.225 \ \mathrm {[\Omega ]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(2)a変電所の周囲にさくを設ける場合,構内に取扱者以外の者が立ち入らないように出入口に講じるべき措置を二つ
電気設備技術基準の解釈第38条に「出入口に立入りを禁止する旨を表示すること。」と「出入口に施錠装置を施設して施錠する等、取扱者以外の者の出入りを制限する措置を講じること。」が規定されています。

<電気設備技術基準の解釈第38条>
高圧又は特別高圧の機械器具及び母線等(以下、この条において「機械器具等」という。)を屋外に施設する発電所又は変電所、開閉所若しくはこれらに準ずる場所(以下、この条において「発電所等」という。)は、次の各号により構内に取扱者以外の者が立ち入らないような措置を講じること。ただし、土地の状況により人が立ち入るおそれがない箇所については、この限りでない。
一 さく、へい等を設けること。

二 特別高圧の機械器具等を施設する場合は、前号のさく、へい等の高さと、さく、へい等から充電部分までの距離との和は、38-1表に規定する値以上とすること。

\[
\begin{array}{|l|r|}
\hline
充電部分の使用電圧の区分 & \displaystyle {さく、へい等の高さと、} \atop \displaystyle {さく、へい等から充電部分までの距離との和 } \\
\hline
35,000\mathrm {V}以下 & 5 \ \mathrm {m} \\
\hline
35,000\mathrm {V}を超え160,000\mathrm {V}以下     & 6 \ \mathrm {m} \\
\hline
160,000\mathrm {V}超過 & \left( 6+c\right) \ \mathrm {m} \\
\hline
\end{array}
\] (備考) \(c\)は、使用電圧と\(160,000\mathrm {V}\)の差を\(10,000\mathrm {V}\)で除した値(小数点以下を切り上げる。)に\(0.12\)を乗じたもの

三 出入口に立入りを禁止する旨を表示すること。

四 出入口に施錠装置を施設して施錠する等、取扱者以外の者の出入りを制限する措置を講じること。

(2)b①一次側\( \ \mathrm {V} \ \)相の対地電圧は,二次側\( \ \mathrm {v} \ \)相に印加する対地電圧の何倍になるか
図3より,\( \ \mathrm {v} \ \)に印加する試験電圧値を\( \ v \ \mathrm {[V]} \ \)とすると,試験電圧は\( \ \mathrm {v}-\mathrm {u} \ \)間に印加される電圧値である。これに変圧比を乗じた電圧が一次側の\( \ \mathrm {V}-\mathrm {O} \ \)と\( \ \mathrm {O}-\mathrm {U} \ \)間に印加され,\( \ \mathrm {V} \ \)相の対地電圧\( \ V_{\mathrm {VU}} \ \mathrm {[V]} \ \)はその合計である。よって,
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {VU}}&=&v\times \frac {300/\sqrt {3}}{77}\times 2 \\[ 5pt ] &≒&4.4988v → 4.50v \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,一次側\( \ \mathrm {V} \ \)相の対地電圧は,二次側\( \ \mathrm {v} \ \)相に印加する対地電圧の\(4.50\)倍であると求められる。

(2)b②変圧器一次側の使用電圧を公称電圧と同じ\( \ 275 \ \mathrm {kV} \ \)とするとき,二次側\( \ \mathrm {v} \ \)相に印加すべき試験電圧値
ワンポイント解説「2.変圧器の試験電圧値」の通り,試験電圧値は最大使用電圧の\( \ 0.64 \ \)倍である。したがって,試験電圧\( \ V_{\mathrm {T}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
V_{\mathrm {T}}&=&275\times \frac {1.15}{1.1}\times 0.64 \\[ 5pt ] &=&184 \ \mathrm {[kV]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,二次側\( \ \mathrm {v} \ \)相の対地電圧\( \ v \ \)は,(2)b①より,
\[
\begin{eqnarray}
v&=&\frac {184}{4.4988} \\[ 5pt ] &≒&40.900 → 40.9 \ \mathrm {[kV]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(2)c変圧器の輸送,現地組立作業の品質管理が確実にできていることを前提に,絶縁耐力を確認する方法について重要な要件を二つ
(ポイント)
・電気設備技術基準の解釈第16条でも規定されていますが,基本的に変圧器は工場で完成させ,現地で組立と試験を行うことは少ないため,現実的には工場にて耐電圧試験を行うことになります。
・現地では変圧器に常規対地電圧を絶縁性能に影響がないことが確認できる一定時間(10 分間)印加し,問題ないことを確認します。

(試験センター解答例)
重要な要件は次の二つである。
当該変圧器が,規格に定める交流耐電圧試験を工場において実施し,絶縁性能が確認されていること。
もう一つは,現地で変圧器に常規対地電圧を絶縁性能に影響がないことが確認できる一定時間(10 分間)印加すること。

<電気設備技術基準の解釈第16条(抜粋)>
二 日本電気技術規格委員会規格 JESC E7001(2015)「電路の絶縁耐力の確認方法」の「3.2 変圧器の電路の絶縁耐力の確認方法」により絶縁耐力を確認したものであること。



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