【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
発変電所に設置された保護リレーが誤動作するおそれがある場合について,その理由と,保護リレーにおける誤動作防止策を,次の各問にそれぞれ\( \ 200 \ \)字程度で簡潔に答えよ。
(1) 送電線保護に用いられる電流差動リレーが,外部事故時の大電流により誤動作するおそれがある理由と,その防止策
(2) 変圧器保護に用いられる比率差動リレーが,変圧器の励磁突入電流により誤動作するおそれがある理由と,その防止策
(3) 母線保護に用いられる電流差動リレーが,外部至近端事故により誤動作するおそれがある理由と,その防止策
【ワンポイント解説】
保護リレーの誤動作に関する問題です。
差動リレー方式では,電流の差が正常値範囲外になった際に動作するように設定するため,大電流が発生するとその分電流差も大きくなりやすいことを理解していると解答の方向性が導き出しやすいかと思います。
1.電流差動リレー
送電線において,事故区間を高速かつ確実に遮断させるため,電流差動リレーが設けられています。
現在主保護リレーの主流となっている\( \ \mathrm {PCM\left( Pulse Code Modulation \right) } \ \)電流差動リレーは,送電線の二か所における瞬時値の電流差を測定し,設定した範囲から逸脱した場合に動作するリレーです。
2.励磁突入電流
変圧器を遮断器投入によって電路に接続すると,投入時の電圧の位相によっては定格電流の数倍から十数倍の大きな励磁電流が流れることがあり,これを励磁突入電流といいます。
ファラデーの電磁誘導の法則より,電圧\( \ e \ \mathrm {[V]} \ \)と磁束\( \ \phi \ \mathrm {[Wb]} \ \)には,
\[
\begin{eqnarray}
e&=&-N\frac {\mathrm {d}\phi }{\mathrm {d}t} \\[ 5pt ]
N\mathrm {d}\phi &=&-e\mathrm {d}t \\[ 5pt ]
N\int \mathrm {d}\phi &=&-\int e\mathrm {d}t \\[ 5pt ]
N\phi &=&-\int e\mathrm {d}t \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
という積分の関係があるため,仮に正弦波の電圧が加わっている状態で図1の+から-に切り替わる\( \ 0 \ \mathrm {[V]} \ \)付近で投入された場合には,最大で\( \ 2 \ \)倍程度の磁束が発生し,残留磁束の影響でさらに磁束が大きくなると鉄心の飽和磁束密度を超えて大きな励磁電流が流れる可能性があります。
したがって,励磁突入電流の対策としては励磁磁束と残留磁束の合計値を小さくすれば良いので,残留磁束の消去や投入位相の制御等が有効となります。
3.比率差動リレー
図2に示されるような方式で,変圧器の一次側と二次側電流を\( \ \mathrm {CT} \ \)を介して検出し,一次側と二次側の差が分かるようにするリレーです。通常時は(a)のように動作コイルに流れる電流がほぼ零となるように整定しておき,異常発生時は(b)のように動作コイルに流れる電流が零でなくなります。しかし,一次側と二次側\( \ \mathrm {CT} \ \)の違いや誤差等により,厳密に動作コイルに流れる電流を零とすることができないため,抑制コイルを設けています。また,抑制コイルには外部事故が発生した際等の誤動作防止の役割もあります。
【解答】
(1)送電線保護に用いられる電流差動リレーが,外部事故時の大電流により誤動作するおそれがある理由と,その防止策
(ポイント)
・電流差動リレーは\( \ 2 \ \)箇所の電流の差でリレーを動作させるため,電流が大きくなると差分も比例して大きくなるため誤動作が発生しやすくなります。
・\( \ \mathrm {CT} \ \)鉄心の磁気飽和により電流の誤差が大きくなる傾向があります。
(試験センター解答)
送電線の外部事故発生時において,故障電流が大電流になると,\( \ \mathrm {CT} \ \)にも大きな電流が流れるため比例分誤差が大きくなる。特に\( \ \mathrm {CT} \ \)の鉄心飽和に伴い電流値の誤差が大きくなると,端子間に不要な差電流が生じて電流差動リレーが誤動作するおそれがある。対策として,電流差動リレーの比率特性を小電流域特性と大電流域特性の二つの要素から構成し,大電流域において誤差が大きくなったときに動作感度を低下させることにより,誤動作を防止する。
(2)変圧器保護に用いられる比率差動リレーが,変圧器の励磁突入電流により誤動作するおそれがある理由と,その防止策
(ポイント)
・励磁突入電流が遮断器投入により発生し,一時的に大きな電流が流れることを記載すると良いかと思います。
・励磁突入電流が第\( \ 2 \ \)調波を多く含むことや,一時的であることから,高調波を含むときにリレーが動作しないように差動リレーの抑制量を増やすもしくは変圧器充電時に一定時間ロックする等の対応が取られます。
(試験センター解答例)
変圧器を停止したときに変圧器鉄心に残留磁束が残った状態で,次に変圧器を充電すると,系統電圧の位相によっては大きな励磁突入電流が発生するため差動回路に大きな差電流が発生し,比率差動リレーが誤動作するおそれがある。対策として,励磁突入電流には第二高調波が多く含まれることから,これを検出した場合は差動リレーの抑制量を増やしたり,リレーを短時間ロックすることにより,誤動作を防止する。
(3)母線保護に用いられる電流差動リレーが,外部至近端事故により誤動作するおそれがある理由と,その防止策
(ポイント)
・事故回線は一時的に電流値が大きくなり差分が増加し,また\( \ \mathrm {CT} \ \)鉄心の磁気飽和により電流の誤差がさらに大きくなり誤動作するおそれがあります。
・交流電流に直流分が重畳するため磁気飽和が発生しますが,\( \ 1 \ \)サイクルの間に磁気飽和しない区間があるため,その区間に無変化を検出した場合には外部事故と判断する方法がとられます。
(試験センター解答例)
母線の外部至近端の回線で事故が発生した場合,事故回線の\( \ \mathrm {CT} \ \)一次側に大きな故障電流が流れる。この際,交流電流に過渡直流分が重畳するため\( \ \mathrm {CT} \ \)鉄心に磁気飽和が発生し誤差が生じる。一方,事故回線以外の変流器は飽和せず誤差も生じないため,母線保護リレーが不要な差電流を検出し誤動作するおそれがある。対策として,事故回線の\( \ \mathrm {CT} \ \)の非飽和期間に差電流の無変化を検出した場合は外部事故と判定して,リレーを短時間ロックすることにより,誤動作を防止する。