《電力・管理》〈送電〉[H28:問4] 内部異常電圧に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

架空送電線への雷撃に対しては,架空地線などの避雷対策を講ずるものの,フラッシオーバ事故を皆無にすることは事実上不可能である。架空送電線の絶縁設計においては,系統に発生する内部異常電圧によるフラッシオーバ事故を起こさないようにするのが標準的である。次の問に答えよ。

(1) 内部異常電圧とは何か,具体的な例を三つ挙げて説明せよ。また,それぞれの内部異常電圧の特徴と異常電圧の大きさを左右する要因について説明せよ。

(2) \(154\mathrm {kV}\)以下の電圧階級における磁器がいし一連個数の決定法について説明せよ。

【ワンポイント解説】

架空送電線に発生する異常電圧は外部異常電圧と内部異常電圧に分けられ,外部異常電圧が雷サージになります。一次二次試験,また電験一種二種問わずよく出題される問題なので,外部異常電圧も合わせてよく理解しておきましょう。

1.雷サージ
雷サージは極めて急峻なものであり,系統で発生するサージでは最も大きいものです。特に雷サージの中で配慮が必要なのが,導体への直撃雷や鉄塔や架空地線等の落雷の逆フラッシオーバで,過電圧が大きい場合は送電線ではアークホーン,変電所では避雷器によって過電圧のピーク値を抑制します。

2.開閉サージ
遮断器の投入時の投入開閉サージと遮断器開放時のサージがあり,継続時間が\(\mathrm {ms}\)オーダーの過電圧です。サージの波形や波高値は,線路の長さや充電容量,中性点の接地方式や遮断器投入時の位相や残留電荷によって変化します。

3.事故サージ
線路事故により発生するサージで,最も多いのが一線地絡事故による地絡サージです。地絡サージの大きさは中性点接地方式や故障の発生する位相により変化しますが,直接接地系での波高値は運転電圧波高値の1.6~1.7倍程度となります。

【解答】

(1)内部異常電圧の具体的な例を三つとそれぞれの内部異常電圧の特徴と異常電圧の大きさを左右する要因
(ポイント)
ワンポイント解説の通りですが,本問では三つの例を挙げることになっているので,模範解答は負荷遮断時の電圧上昇を開閉サージと分けて記述しています。

(試験センター解答例)
内部異常電圧とは,外部より侵入する雷電圧(外雷又は外部異常電圧と呼ぶ。)と区別して,電力系統の内部的原因によって生じる異常電圧のことを意味し,開閉サージ,1 線地絡時の健全相電圧上昇や負荷遮断時の異常電圧などが
ある。

開閉サージは,遮断器の開閉操作によって生じ,最大数ミリ秒程度継続する過渡的異常電圧である。開閉サージの大きさは,送電線のこう長や高さなど送電線路の静電容量の大きさ,再閉路時の残留電圧の有無などにより左右される。

1 線地絡時の健全相電圧上昇は,1 線地絡故障時に健全相に発生する商用周波数の過電圧である。電圧の大きさは,中性点接地方式などによって左右される。

負荷遮断時の電圧上昇は,遮断器などで負荷遮断時に発生する商用周波数の過電圧である。電圧の大きさは,負荷遮断前の潮流,発電機の定数,送電線の静電容量などによって左右される。

(2)\(154\mathrm {kV}\)以下の電圧階級における磁器がいし一連個数の決定法
(ポイント)
・がいし一連個数は雷サージは対象外とし,基本的には内部異常電圧に対して対応する。
・がいしの個数は開閉サージを考慮すれば,他の異常電圧を包括する設計となる。
・湾岸地域等海に近い場所では塩害等により,がいしの絶縁強度が大幅に下がるので,一連個数の決定に大きく影響する。また,必要に応じて耐塩がいしや洗浄装置の設置を検討する。

(試験センター解答例)
がいし一連個数を決定する場合にも,内部異常電圧によってフラッシオーバが発生しないようにするという原則が有効である。154 kV 以下の電圧階級では,開閉サージ電圧波高値とがいし連の注水時の開閉サージ耐電圧特性及び持続性異常電圧実効値とがいし連の注水時の商用周波数耐電圧特性の二つから所要連結個数を計算する。両者の計算結果を比較すると後者の絶縁裕度の方が大きく,がいし個数は通常全て開閉サージによって決まる。

実際には,保守用にがいしを通常 1 個多く設けることとして最終的な一連個数が決定される。また,臨海部などで塩害が甚だしい場合など,汚損条件下では耐圧特性が低下するので考慮が必要である。



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