【問題】
【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)
次の文章は,電解採取に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
亜鉛,コバルト,マンガン,クロムなどの金属は,必要に応じて予備処理を行った原鉱石から,\( \ \fbox { (1) } \ \)などの適当な溶媒を用いて目的金属を抽出し,不純物を分離,精製したものを電解浴に入れ,電気分解を行い,\( \ \fbox { (2) } \ \)上に目的金属を析出させて電解採取する。目的金属よりイオン化傾向が\( \ \fbox { (3) } \ \)金属イオンはなるべく分離しておかないと製品の純度が低くなる。亜鉛の電解精錬の電流効率は約\( \ 90 \ \mathrm {%} \ \)で金属亜鉛を生成する。このとき,亜鉛の酸化還元\( \ \left( \mathrm {Zn^{2+}+2e^{-}⇄Zn}\right) \ \)の標準水素電極基準の標準電極電位は\( \ – 0.763 \ \mathrm {V} \ \)で水素発生反応よりも熱力学的には\( \ \fbox { (4) } \ \)。また,電流効率\( \ 90.0 \ \mathrm {%} \ \)で亜鉛を\( \ 1 \ \mathrm {t} \ \)精錬するために必要な電気量は\( \ \fbox { (5) } \ \mathrm {kA\cdot h / t} \ \)である。なお,亜鉛の原子量を\( \ 65.4 \ \),ファラデー定数を\( \ 26.8 \ \mathrm {A\cdot h / mol} \ \)とする。
〔問6の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& エタノール &(ロ)& 小さい &(ハ)& 有利である \\[ 5pt ]
&(ニ)& 大きい &(ホ)& アノード &(ヘ)& 大差ない \\[ 5pt ]
&(ト)& 911 &(チ)& 硫酸水溶液 &(リ)& 不利である \\[ 5pt ]
&(ヌ)& ほぼ同じ &(ル)& 820 &(ヲ)& アルカリ水溶液 \\[ 5pt ]
&(ワ)& 455 &(カ)& カソード &(ヨ)& 正極 \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【ワンポイント解説】
金属の電解採取に関する問題です。
今回の内容は亜鉛の電解採取の内容ですが,基本的に金属の電解採取は同じような方法でできますので,一つ覚えておけば,様々な類題に対応できるようになるかと思います。
1.銅の電解精製プロセス
乾式精錬で純度を\( \ 99 \ \mathrm {%} \ \)程度に上げた粗銅を,さらに純度を上げ\( \ 99.99 \ \mathrm {%} \ \)以上に上げるため,図1に示すようなプロセス行う方法です。陽極(アノード)に粗銅,陰極(カソード)に純銅を配置して,電解液に硫酸水溶液等を用いて,以下のような反応をさせます。
\[
\begin{eqnarray}
陽極(アノード)&:& \mathrm {Cu} &→& \mathrm {Cu}^{2+} +2\mathrm {e}^{-} \\[ 5pt ]
陰極(カソード)&:& \mathrm {Cu}^{2+} +2\mathrm {e}^{-} &→& \mathrm {Cu} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
2.金属のイオン化傾向
金属のイオンのなりやすさを示す指標で以下のような順番になります。高校の化学で覚え方も習ったと思います。
\[
\begin{eqnarray}
\mathrm {K}→\mathrm {Ca}→\mathrm {Na}→\mathrm {Mg}→\mathrm {Al}→\mathrm {Zn}→\mathrm {Fe}→\mathrm {Ni}→\mathrm {Sn}→\mathrm {Pb} \\[ 5pt ]
→\mathrm {( H ) }→\mathrm {Cu}→\mathrm {Hg}→\mathrm {Ag}→\mathrm {Pt}→\mathrm {Au} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
【覚え方】
かそうかな、まああてにするな、ひどすぎる借金
【解答】
(1)解答:チ
題意より解答候補は,(イ)エタノール,(チ)硫酸水溶液,(ヲ)アルカリ水溶液,になると思います。
ワンポイント解説「1.銅の電解精製プロセス」の通り,このうち電解採取として適当な溶媒は硫酸水溶液となります。
(2)解答:カ
題意より解答候補は,(ホ)アノード,(カ)カソード,(ヨ)正極,になると思います。
ワンポイント解説「1.銅の電解精製プロセス」の通り,目的金属を析出させるのはカソードとなります。
(3)解答:ロ
題意より解答候補は,(ロ)小さい,(ニ)大きい,(ヌ)ほぼ同じ,になると思います。
ワンポイント解説「2.金属のイオン化傾向」の通り,目的金属よりもイオン化傾向が小さい金属イオンはイオンになりにくくカソードに析出してしまうので,なるべく分離しておく必要があります。
(4)解答:リ
題意より解答候補は,(ハ)有利である,(ヘ)大差ない,(リ)不利である,になると思います。
ワンポイント解説「2.金属のイオン化傾向」の通り,亜鉛は水素よりもイオン化傾向が大きく,カソードに析出した亜鉛が再び溶解してしまう可能性があるので,熱力学的には不利であるとなります。ただし,実際には活性化エネルギー等もう少し細かい理論により析出することは可能です。
標準電極電位(標準状態での電極電位)を順番に並べたものがイオン化傾向であり,標準電極電位は電圧がマイナスであるほど反応がしやすい不安定(不利)となります。
(5)解答:ト
亜鉛の\( \ 1 \ \mathrm {t} \ \)のモル数\( \ N_{\mathrm {Zn}} \ \mathrm {[kmol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
N_{\mathrm {Zn}}&=&\frac {1\times 10^{3}}{65.4} \\[ 5pt ]
&≒&15.29 \ \mathrm {[kmol]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
であり,\( \ \mathrm {Zn^{2+}+2e^{-}⇄Zn} \ \)より,電子のモル換算\( \ N_{\mathrm {e}} \ \mathrm {[kmol]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
N_{\mathrm {e}}&=&2N_{\mathrm {Zn}} \\[ 5pt ]
&=&2\times 15.29 \\[ 5pt ]
&≒&30.58 \ \mathrm {[kmol]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となる。ファラデー定数が\( \ F=26.8 \ \mathrm {[A\cdot h / mol]} \ \)であるから,必要な電気量を\( \ W \ \mathrm {[kA\cdot h]} \ \)とすると,
\[
\begin{eqnarray}
0.9W&=&FN_{\mathrm {e}} \\[ 5pt ]
W&=&\frac {FN_{\mathrm {e}}}{0.9} \\[ 5pt ]
&=&\frac {26.8\times 30.58}{0.9} \\[ 5pt ]
&≒&910.6 → 911 \ \mathrm {[kA\cdot h]} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
と求められる。