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【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
変圧器の異常診断手法として油中ガス分析が用いられている。油中ガス分析は可燃性ガスの量や組成比などから内部異常の有無・様相を診断する手法である。油中ガス分析による異常診断方法及び最終的な処置を決定するための総合診断に関する下記項目について述べよ。
(1) 過熱時に発生する特徴的なガスを二つ挙げ,その発生ガスの組成比などから推定できる過熱の様相について述べよ。
(2) 放電を伴う内部異常時に発生する特徴的なガスを一つ挙げ,内部異常時以外にもこのガスが発生する要因について述べよ。
(3) 油中ガス分析で内部異常と診断された場合,総合診断を行うために実施すべき試験・点検・調査事項並びに,最終的に決定する処置内容について述べよ。
【ワンポイント解説】
油中ガス分析は電気のメンテナンスを専門にされている方であれば,難なく解ける可能性が高いですが,普通の受験者であるとなかなかすべてを暗記できないかもしれません。
1.油中ガス分析
変圧器内の絶縁油には絶縁材料の経年劣化や内部異常等により発生したガスが溶け込みます。この量により,油入変圧器の寿命を診断する方法が油中ガス分析です。経年劣化や内部異常で発生するガスは以下のガスがあります。
①経年劣化
H2 , CH4 , C2H4 , C2H6 , C3H8 , CO , CO2
②内部異常
H2 , CH4 , C2H2 , C2H4
上記のうち, C2H2 はアーク放電や部分放電等高温熱分解時に発生するため,微量でも検出された場合は,総合診断を行う必要があります。
【解答】
(1)過熱時に発生する特徴的なガスを二つと過熱の様相
(ポイント)
・過熱時に発生する特徴的なガスとしては, C2H4 , C2H6 がある。
・高温過熱では C2H4 ,低温過熱では C2H6 がより発生しやすい。
(試験センター解答例)
過熱時に発生する特徴的なガスとしてエチレン( C2H4 )とエタン( C2H6 )が挙げられる。過熱レベル(高温過熱・低温過熱)により発生ガスの成分が変化し,高温過熱ではエチレンが,低温過熱ではエタンが多く発生する。また,組成比などから過熱部位(巻線部・金属部)の推定を行うことができる。過熱時発生するガスに,メタン( CH4 ),一酸化炭素( CO ),二酸化炭素( CO2 )などもある。
(2)放電を伴う内部異常時に発生する特徴的なガスと内部異常時以外にもこのガスが発生する要因
(ポイント)
・最も特徴的なのは C2H2 で,微量でも検出されてはならない。アーク放電や部分放電で発生する。
・ H2 は,内部異常以外の経年劣化でも発生する。
(試験センター解答例)
放電時に発生する特徴的なガスとしてアセチレン( C2H2 ),水素( H2 )が挙げられる。アセチレンは絶縁油から発生する分解ガスのうち,アーク放電など特に高温時に発生するものである。
水素は経年劣化でも発生する一方,アセチレンは微量であっても検出された場合は内部異常の可能性が高い。
アセチレンは LTC (負荷時タップ切換器)動作時に切換開閉器室内の絶縁油が分解することでも発生することから, LTC 内の絶縁油が変圧器本体タンクへ混入すると内部異常と誤診断されるおそれがあるため,注意が必要である。
(3)総合診断を行うために実施すべき試験・点検・調査事項並びに,最終的に決定する処置内容
(ポイント)
・総合判断を行う際には,部分放電測定や巻線抵抗測定の他,外観点検,運転実態等を総合的に確認して判断する。
(試験センター解答例)
電気的試験(巻線抵抗,部分放電測定など),外部一般点検(放圧管の動作,タンクの変形など),運転履歴・改修履歴の調査(過負荷運転など)などの項目を総合して,変圧器の運転継続可否,内部点検・修理の要否などの最終的な処置を決定する。