《電力・管理》〈火力〉[R03:問1]燃焼時に発生する大気汚染物質の発生原因とその対策に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

大気汚染防止法にて規制される以下の大気汚染物質について,その発生原因と,我が国の火力発電所での対策装置(設備),及びその原理について(1)~(3)それぞれ\( \ 100 \ \)字程度で述べよ。

(1) 煤じん

(2) 硫黄酸化物\( \ \left( \mathrm {SO_{x}}\right) \ \)

(3) 窒素酸化物\( \ \left( \mathrm {NO_{x}}\right) \ \)

【ワンポイント解説】

火力発電所での環境対策に関する問題です。
比較的難易度が高い問題が出題される火力発電の論説問題ですが,令和3年に関しては標準的な内容となっていました。
本問に紹介されている環境対策の内容については,火力発電における基本事項となりますので,必ず覚えておくようにして下さい。

1.火力発電所で発生する大気汚染物質
①窒素酸化物\( \ \left( \mathrm {NO_{x}}\right) \ \)
 燃料に含まれる窒素と酸素が反応することにより発生するフューエル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \),高温燃焼をすることにより発生するサーマル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)があります。
 のどや気管,肺等に悪影響を与えるとされて大気汚染防止法で規制されています。
 火力発電所での対策としては,脱硝装置で排ガス中に含まれる\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を取り除く,低\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)バーナーや\( \ 2 \ \)段燃焼法を採用して高温燃焼を避ける,排ガス混合通風機を採用して燃焼用空気中の酸素濃度を下げ高温燃焼を避ける,等の方法が取られます。

②硫黄酸化物\( \ \left( \mathrm {SO_{x}}\right) \ \)
 主に石炭や液体燃料中に含まれる硫黄分が酸素と反応することにより発生します。
 窒素酸化物と同様にのどや気管等に悪影響を与え,ぜん息の原因にもなるとされています。
 火力発電所での対策としては,燃料中に硫黄分を含まない\( \ \mathrm {LNG} \ \)や良質の液体燃料を採用する,脱硫装置を採用する等の方法が取られます。

③ばいじん
 主に燃料中に含まれる灰分が燃焼することにより発生します。
 ばいじんに関しても気道等呼吸器系に影響を与えるとされており,また煙も黒煙となります。
 火力発電所の対策としては電気集塵機を採用して排ガス中に含まれるばいじんを静電気の力で吸引する等の方法が取られます。

2.火力発電所の煙風道のフロー
図1に石炭火力発電所の煙風道系統の概略フローの一例を示します。図内の各補機の名称及び役割を覚えておいて下さい。

①通風機
 押込通風機:ボイラへ空気を送るためのファン。
 誘引通風機:ボイラから出てくる排ガスを煙突へ送るファン。押込通風機よりも大き
       くして,ボイラ内を負圧にし,粉塵の外への漏れ出しを防ぎます。
 排ガス混合通風機:排ガスを燃焼用空気に混ぜ,酸素濃度を下げて燃焼温度を下げる
          ことにより,サーマル\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を低減させます。

②熱交換器
 空気予熱器:排ガスと燃焼用空気を熱交換して,全体の熱効率を上げます。
 \(\mathrm {GGH}\):冷却吸収塔前後の排ガスを熱交換して,煙突の腐食を防止します。

③環境対策装置
 脱硝装置 :排ガスの\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)を窒素と水に分解し,排ガス中の\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)濃度を
       低減させます。乾式のアンモニア接触還元法が一般的です。
 電気集塵機:排ガスに含まれるばいじんを静電気を利用して回収し,排ガス
       中のばいじん濃度を低減させます。
 冷却吸収塔:排ガス中の\( \ \mathrm {SO_{x}} \ \)を回収し,排ガス中の\( \ \mathrm {SO_{x}} \ \)濃度を低減させ
       ます。大規模発電所では石灰石をスラリー状にして\( \ \mathrm {SO_{x}} \ \)と反
       応させる石灰石膏法が一般的です。

【解答】

(1)煤じん
(ポイント)
・内容はワンポイント解説「1.火力発電所で発生する大気汚染物質」の通りです。
・\( \ 100 \ \)字程度なので,「燃料中に含まれる灰分が原因」,「電気集塵機」,「静電気」等の用語をキーワードとして取り入れると良いかと思います。

(試験センター解答)
発生原因:
 燃料に含まれる灰分が燃焼することで生成される
対策装置(設備):
 電気集じん機(媒じん除去装置)を使用する
原理:
(電気集じん機)
 媒じんを帯電させて静電気力により排ガスより分離捕集を行う

(2)硫黄酸化物\( \ \left( \mathrm {SO_{x}}\right) \ \)
(ポイント)
・内容はワンポイント解説「1.火力発電所で発生する大気汚染物質」の通りです。
・こちらも\( \ 100 \ \)字程度なので,「燃料中に含まれる硫黄分が酸素と反応」,「脱硫装置」,「石灰石(もしくは水酸化マグネシウム)をスラリー状にして反応」,「石灰石膏法(もしくは水酸化マグネシウム法)」等の用語をキーワードとして取り入れると良いかと思います。

(試験センター解答例)
発生原因:
 燃料中に含まれる硫黄分が燃焼することで生成される
対策装置(設備):
 脱硫装置を使用する
原理:
(脱硫装置)
 石灰石―石膏法にて排ガス中の亜硫酸ガスを石灰(石灰スラリー)に吸収させ亜硫酸カルシウムとして除去する。これを空気で酸化することで石膏が生成される。

(3)窒素酸化物\( \ \left( \mathrm {NO_{x}}\right) \ \)
(ポイント)
・内容はワンポイント解説「1.火力発電所で発生する大気汚染物質」の通りです。
・窒素酸化物も同様に\( \ 100 \ \)字程度なので,「燃料や空気中に含まれる窒素分が高温燃焼を伴い酸素と反応」,「脱硝装置(他の方法も可)」,「アンモニアを触媒反応させて窒素と水に分解」等の用語を入れると良いかと思います。

(試験センター解答例)
以下の発生原因の中から一つ,対策装置(設備)の中から一つ及びその原理が記載されていればよい。
発生原因:
 燃焼空気中の窒素が高温条件下で酸素と反応して生成される燃料中に含まれる窒素分が燃焼により酸化され生成される
対策装置(設備):
 低\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)バーナー,排ガス混合法,ボイラ二段燃焼,脱硝装置を使用する
原理:
(低\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)バーナー)
 燃焼方法(燃焼温度低下)の改善により生成量を減らす
(排ガス混合法)
 ガス混合機により排ガスを燃焼空気に混合して低酸素燃焼を行う
(ボイラ二段燃焼)
 バーナー周りの空気比を下げ\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)の生成を抑制させ未燃分を後流から注入した空気で再燃焼させる
(脱硝装置)
 アンモニア接触還元法にて還元剤としてアンモニアを加え混合したのち触媒層に通すことで\( \ \mathrm {NO_{x}} \ \)とアンモニアが還元反応して窒素と水蒸気に分解される



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