《電力》〈送電〉[R02:問3]電力系統の短絡電流の増大による影響とその対策に関する空欄穴埋問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

次の文章は,電力系統の短絡電流に関する記述である。文中の\( \ \fbox{$\hskip3em\Rule{0pt}{0.8em}{0em}$} \ \)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。

同期発電機の増加や送電線の新増設等により,\( \ \fbox {  (1)  } \ \)の増大や系統連系が密になることによって,系統事故発生時の短絡電流が大きくなる。短絡電流の増加により,送変電機器の損傷増大や,周辺通信線への\( \ \fbox {  (2)  } \ \)が考えられるため,以下のような短絡電流抑制対策を施す必要がある。

a) 現在採用されている電圧より上位の電圧の系統を作り,既設系統を分割する。

b) 発電機や変圧器の\( \ \fbox {  (3)  } \ \)を大きくする。

c) 送電線や母線間に\( \ \fbox {  (4)  } \ \)を設置する。

d) 系統間を直流設備で連系する。

e) 変電所の\( \ \fbox {  (5)  } \ \)運用を行う。

〔問3の解答群〕
\[
\begin{eqnarray}
&(イ)& 熱容量     &(ロ)& 直列コンデンサ     &(ハ)& インピーダンス \\[ 5pt ] &(ニ)& 系統慣性定数     &(ホ)& 静電誘導障害     &(ヘ)& 母線分離 \\[ 5pt ] &(ト)& 系統容量     &(チ)& 遮断電流      &(リ)& 保護リレー \\[ 5pt ] &(ヌ)& 電磁誘導障害     &(ル)& 接続障害     &(ヲ)& 母線併用 \\[ 5pt ] &(ワ)& 定格容量     &(カ)& 複母線     &(ヨ)& 限流リアクトル \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\]

【ワンポイント解説】

短絡電流抑制対策に関する問題です。近年の分散型電源の増加の状況から出題される頻度が高くなっている印象があります。
本問は知識を問う問題となっていますが,百分率インピーダンスによる短絡電流や短絡容量の式を理解していると解答が忘れにくくなるため,そちらも合わせて理解しておきましょう。

1.三相短絡事故時の短絡電流及び短絡容量
図1のような負荷に定格電圧\( \ V_{\mathrm {n}} \ \mathrm {[V]} \ \),定格電流\( \ I_{\mathrm {n}} \ \mathrm {[A]} \ \)で供給している系統があり,事故点において三相短絡事故が発生したとします。
事故点から電源側をみたインピーダンスを\( \ Z \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)とすると,その百分率インピーダンス\( \ %Z \ \mathrm {[%]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
%Z&=&\frac {\sqrt {3}ZI_{\mathrm {n}}}{V_{\mathrm {n}}}\times 100 \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,図1より三相短絡電流\( \ I_{\mathrm {s}} \ \mathrm {[A]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {s}}&=&\frac {\displaystyle \frac {V_{\mathrm {n}}}{\sqrt {3}}}{Z} \\[ 5pt ] &=&\frac {V_{\mathrm {n}}}{\sqrt {3}Z} \\[ 5pt ] &=&\frac {V_{\mathrm {n}}}{\sqrt {3}ZI_{\mathrm {n}}}\cdot I_{\mathrm {n}} \\[ 5pt ] &=&\frac {100I_{\mathrm {n}}}{%Z} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。また,短絡容量\( \ P_{\mathrm {s}} \ \mathrm {[V\cdot A]} \ \)は,定格容量\( \ P_{\mathrm {n}}=\sqrt {3}V_{\mathrm {n}}I_{\mathrm {n}} \ \mathrm {[V\cdot A]} \ \)とおくと,
\[
\begin{eqnarray}
P_{\mathrm {s}}&=&\sqrt {3}V_{\mathrm {n}}I_{\mathrm {s}} \\[ 5pt ] &=&\sqrt {3}V_{\mathrm {n}}\times \frac {100I_{\mathrm {n}}}{%Z}\\[ 5pt ] &=&\frac {100\times \sqrt {3}V_{\mathrm {n}}I_{\mathrm {n}}}{%Z}\\[ 5pt ] &=&\frac {100P_{\mathrm {n}}}{%Z} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] で求められます。したがって,短絡電流及び短絡容量の抑制対策としては,系統のインピーダンスを大きくする方法が有効であることがわかります。

2.電力系統の短絡容量抑制対策
①発電機や変圧器などに高インピーダンス機器を採用する
インピーダンスを大きくすることで,短絡電流を抑えることができますが,電圧変動率や安定度が低下する,負荷損が増加する等のデメリットがあります。

②送電線に直列に限流リアクトルを設置する
限流リアクトルを設置することで,短絡電流を抑えることができますが,無効電力損失の増加,安定度の低下等のデメリットがあります。

③変電所の母線分離運用を行う
母線分離運用を行うことで,並列回路数が少なくなり,系統のインピーダンスが増大しますが,安定度が低下します。

④短絡電流を流さない\( \ \mathrm {BTB} ( \mathrm {Back \ to \ Back} ) \ \)を設置する
同一構内に交直変換装置を設置する方法で,間に直流を挟むことにより交流系統を分割して短絡電流を抑えることができますが,安定度が低下し,設置コストがかかるデメリットがあります。

⑤現在採用されているよりも上位の電圧階級を導入し,既存の系統を分割する
電圧が高くなることで,電流を抑えることができ,安定度も向上しますが,コストが非常にかかります。

【解答】

(1)解答:ト
題意より解答候補は,(イ)熱容量,(ハ)インピーダンス,(ト)系統容量,(チ)遮断電流,(ワ)定格容量,等になると思います。
ワンポイント解説「1.三相短絡事故時の短絡電流及び短絡容量」の通り,同期発電機の増加や送電線の新増設によって系統の並列回路数が増加し,系統のインピーダンスが小さくなるので,系統容量が増加することになります。系統容量が大きくなると,短絡電流が増加します。

(2)解答:ヌ
題意より解答候補は,(ホ)静電誘導障害,(ヌ)電磁誘導障害,(ル)接続障害,になると思います。
電流が増加することによって増大するのは電磁誘導障害となります。

(3)解答:ハ
題意より解答候補は,(イ)熱容量,(ハ)インピーダンス,(ニ)系統慣性定数,(ト)系統容量,(チ)遮断電流,(ワ)定格容量,等になると思います。
ワンポイント解説「1.三相短絡事故時の短絡電流及び短絡容量」の通り,短絡電流を小さくするためには,インピーダンスを大きくすることが有効となります。

(4)解答:ヨ
題意より解答候補は,(ロ)直列コンデンサ,(ハ)インピーダンス,(ヨ)限流リアクトル,等になると思います。
ワンポイント解説「2.電力系統の短絡容量抑制対策」の通り,この中で有効な対策は限流リアクトルを設置し,短絡電流を抑制することになります。

(5)解答:ヘ
題意より解答候補は,(ヘ)母線分離,(ヲ)母線併用,(カ)複母線,になると思います。
ワンポイント解説「2.電力系統の短絡容量抑制対策」の通り,母線分離運用はインピーダンスが大きくなり,短絡電流の抑制対策となります。



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