《法規》〈電気施設管理〉[H23:問13]需要家構内における保護協調に関する計算・論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

図は,電圧\( \ 6 \ 600 \ \mathrm {[V]} \ \),周波数\( \ 50 \ \mathrm {[Hz]} \ \),中性点接地方式の三相\( \ \mathrm {3} \ \)線式配電線路及び需要家\( \ \mathrm {A} \ \)の高圧地絡保護システムを簡易に表した単線図である。次の(a)及び(b)の問に答えよ。

ただし,図で使用している主要な文字記号は付表のとおりとし,\( \ C_{\mathrm {1}}=3.0 \ \mathrm {[\mu F]} \ \),\( \ C_{\mathrm {2}}=0.015 \ \mathrm {[\mu F]} \ \)とする。なお,図示されていない線路定数及び配電用変電所の制限抵抗は無視するものとする。

(a) 図の配電線路において,遮断器\( \ \mathrm {CB} \ \)が「入」の状態で地絡事故点に一線完全地絡事故が発生した場合の地絡電流\( \ I_{\mathrm {g}} \ \mathrm {[A]} \ \)の値として,最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
ただし,間欠アークによる高調波の影響は無視できるものとする。

 (1) \( \ 4 \ \)  (2) \( \ 7 \ \)  (3) \( \ 11 \ \)  (4) \( \ 19 \ \)  (5) \( \ 33 \ \)

(b) 図のような高圧配電線路に接続される需要家が,需要家構内の地絡保護のために設置する継電器の保護協調に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
なお,記述中「不必要動作」とは,需要家の構外事故において継電器が動作することをいう。

(1) 需要家が設置する地絡継電器の動作電流及び動作時限整定値は,配電用変電所の整定値より小さくする必要がある。

(2) 需要家の構内高圧ケーブルが極めて短い場合,需要家が設置する継電器が無方向性地絡継電器でも,不必要動作の発生は少ない。

(3) 需要家が地絡方向継電器を設置すれば,構内高圧ケーブルが長い場合でも不必要動作は防げる。

(4) 需要家が地絡方向継電器を設置した場合,その整定値は配電用変電所との保護協調に関し動作時限のみ考慮すればよい。

(5) 地絡事故電流の大きさを考える場合,地絡事故が間欠アーク現象を伴うことを想定し,波形ひずみによる高調波の影響を考慮する必要がある。

【ワンポイント解説】

高圧配電線路における地絡事故に関する問題です。
テブナンの定理を使った等価回路はメカニズムを理解していても良いとは思いますが,最終的には等価回路は覚えているぐらいになると良いかと思います。

1.テブナンの定理
下図のような回路において,端子\( \ \mathrm {a-b} \ \)の開放電圧を\( \ V_{\mathrm {0}} \ \mathrm {[V]} \ \),端子\( \ \mathrm {a-b} \ \)から電源側をみた合成抵抗を\( \ R_{\mathrm {0}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)とする(ただし,電圧源は短絡,電流源は開放する)と,図の抵抗\( \ R \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)を流れる電流の大きさ\( \ I \ \mathrm {[A]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
I&=&\frac {V_{\mathrm {0}}}{R+R_{0}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] で求められます。

2.配電線路での\( \ 1 \ \)線地絡事故発生時の等価回路
三相\( \ 3 \ \)線式配電線路で\( \ 1 \ \)線地絡事故が発生した場合の様子を図2に示します。
地絡点にテブナンの定理を適用すると,地絡点からみた合成インピーダンス\( \ Z_{0} \ \)は,図に示すように\( \ 3 \ \)個の静電容量\( \ C \ \)の並列回路であるため,
\[
\begin{eqnarray}
Z_{0}&=&\frac {1}{\mathrm {j}2\pi f\cdot 3C} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,開放電圧\( \ V \ \)は通常時の電圧となるので,三相平衡であるとすれば,
\[
\begin{eqnarray}
V&=&E_{\mathrm {c}}=E \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。したがって,完全地絡したときの等価回路は図3のようになります。


【解答】

(a)解答:(3)
ワンポイント解説「2.配電線路での\( \ 1 \ \)線地絡事故発生時の等価回路」に沿って,問題図の地絡事故点で\( \ 1 \ \)線地絡事故が発生した時の等価回路を図4に示す。
図4より,\( \ 1 \ \)線地絡事故時の地絡電流\( \ I_{\mathrm {g}} \ \mathrm {[A]} \ \)の大きさは,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {g}}&=&\frac {E}{Z_{0}} \\[ 5pt ] &=&2\pi f\cdot 3\left( C_{1}+C_{2}\right) E \\[ 5pt ] &=&2\pi \times 50\times 3\left( 3.0\times 10^{-6}+0.015\times 10^{-6}\right) \times \frac {6600}{\sqrt {3}} \\[ 5pt ] &≒&10.8 \ \mathrm {[A]} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] と求められる。

(b)解答:(4)
(1)正しい
変電所から見て下流側に需要家が設置する地絡継電器の動作電流及び動作時限整定値は,配電用変電所の整定値より小さくし,停電範囲を極小化する必要があります。

(2)正しい
問題図の地点で地絡事故(構外事故)が発生したとすると,零相変流器に流れる電流\( \ I_{\mathrm {ZCT}} \ \mathrm {[A]} \ \)は,分流の法則より,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {ZCT}}&=&\frac {\displaystyle \frac {1}{\mathrm {j}2\pi f\cdot 3C_{1}}}{\displaystyle \frac {1}{\mathrm {j}2\pi f\cdot 3C_{1}}+\frac {1}{\mathrm {j}2\pi f\cdot 3C_{2}}}I_{\mathrm {g}} \\[ 5pt ] &=&\frac {\displaystyle \frac {1}{C_{1}}}{\displaystyle \frac {1}{C_{1}}+\frac {1}{C_{2}}}I_{\mathrm {g}} \\[ 5pt ] &=&\frac {C_{2}}{C_{1}+C_{2}}I_{\mathrm {g}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。需要家構内のケーブルが極めて短い場合は上式の\( \ C_{2} \ \)の値が非常に小さくなり零相変流器にはほとんど電流が流れないため,上位系統における地絡事故による不必要動作は発生しにくくなります。

(3)正しい
需要家が地絡方向継電器を設置すれば,喩え\( \ C_{2} \ \)が大きい場合でも通常動作とは逆方向の電流の流れとなるため,不必要動作は発生しなくなります。

(4)誤り
需要家が地絡方向継電器を設置した場合には,その整定値は動作時限と動作感度について保護協調をとる必要があります。
「~のみ」となっているので誤答である可能性が高いと狙いをつけると良いと思います。

(5)正しい
問題文の通り,間欠アーク現象を伴う場合高調波が発生するため,その影響を考慮する必要があります。