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【問題】
【難易度】★★★★☆(やや難しい)
次のaからdの電動機を用いた駆動システムがある。
a. 電機子用,界磁用の二つの直流電源で駆動される他励直流電動機
b. 電機子及び界磁共用の一つの直流電源で駆動される直流直巻電動機
c. 定格の電圧と定格の周波数との比を保って,電圧と周波数を制御する交流電源で駆動され,一次抵抗及び漏れインダクタンスを無視できる三相誘導電動機
d. 定格の\( \ 0.9 \ \)倍の電圧と定格の周波数との比を保って,電圧と周波数とを制御する交流電源で駆動され,一次抵抗及び漏れインダクタンスを無視できる三相誘導電動機
これらの駆動システムにおいて,ある速度で運転している電動機の負荷トルクが増加した場合に以下の運転をするとき,トルクの発生に寄与する電動機内の磁束の変動について考える。
a,bのシステムでは,直流電源で電機子電流を増加して,電動機の速度を一定に保つ。
c,dのシステムでは,交流電源の電圧と周波数を維持すると,滑りと一次電流は増加するが,滑りが小さいとすれば電動機の速度はほぼ一定に保たれる。
この運転において,a,bのシステムでは電機子電流に対して,また,c,dのシステムでは一次電流に対して,電動機内の磁束がほぼ比例して変化するのはどの駆動システムであるか。正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) a (2) b (3) cとd (4) d (5) bとd
【ワンポイント解説】
直流機と誘導機の中身を理解しているかどうかを確認する問題です。等価回路や基本公式を理解しているかどうかを問う問題ですが,やや中身が応用的になっています。
1.他励直流電動機の等価回路
図1に他励直流電動機の等価回路を示します。図1において,\( \ V \ \)は端子電圧,\( \ E \ \)は逆起電力,\( \ V_{\mathrm {f}} \ \)は界磁電圧,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \)は界磁抵抗となります。
他励式の特徴としては,界磁回路が独立しているので,界磁磁束を独立して制御できるという特徴があります。
2.直流直巻電動機の等価回路
図2に直流直巻電動機の等価回路を示します。図2において,\( \ V \ \)は端子電圧,\( \ E \ \)は逆起電力,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \)は界磁抵抗となります。
直流直巻電動機の特徴としては,界磁回路と電機子回路が直列となっているため,界磁電流\( \ I_{\mathrm {f}} \ \)と電機子電流\( \ I_{\mathrm {a}} \ \)が等しく,界磁磁束が電流に比例するという特徴があります。
3.誘導電動機の一次,二次誘導起電力
誘導電動機では固定子巻線を一次回路,回転子巻線を二次回路と呼びます。
一次回路については,周波数を\( \ f \ \),巻数を\( \ N_{1} \ \),最大磁束を\( \ \phi _{\mathrm {m}} \ \),巻線定数を\( \ K_{1} \ \)とすると,一次誘導起電力\( \ E_{1} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E_{1} &=& \sqrt {2}\pi K_{1}fN_{1}\phi _{\mathrm {m}} \\[ 5pt ]
&≒& 4.44 K_{1}fN_{1}\phi _{\mathrm {m}} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となります。
また,二次回路については,滑りを\( \ s \ \),周波数を\( \ f \ \),巻数を\( \ N_{2} \ \),最大磁束を\( \ \phi _{\mathrm {m}} \ \),巻線定数を\( \ K_{2} \ \)とすると,二次誘導起電力\( \ E_{2} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E_{2} &=& \sqrt {2}\pi K_{2}sfN_{2}\phi _{\mathrm {m}} \\[ 5pt ]
&≒& 4.44 K_{2}sfN_{2}\phi _{\mathrm {m}} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となります。
【解答】
解答:(2)
(1):比例しない
ワンポイント解説「1.他励直流電動機の等価回路」の通り,界磁回路が独立しているので,界磁磁束は電機子電流の大きさとは無関係となります。
(2):比例する
ワンポイント解説「2.直流直巻電動機の等価回路」の通り,界磁電流と電機子電流が同じ大きさであるため,界磁磁束は電機子電流に比例します。
(3):比例しない
(4):比例しない
ワンポイント解説「3.誘導電動機の一次,二次誘導起電力」より,一次誘導起電力は,
\[
\begin{eqnarray}
E_{1} &=& 4.44 K_{1}fN_{1}\phi _{\mathrm {m}} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となり,これを\( \ \phi _{\mathrm {m}} \ \)について整理すると,
\[
\begin{eqnarray}
\phi _{\mathrm {m}} &=& \frac {E_{1}}{4.44 K_{1}fN_{1}} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となる。ここで,\( \ K_{1} \ \),\( \ N_{1} \ \)は一定であるから,
\[
\begin{eqnarray}
\phi _{\mathrm {m}} &∝& \frac {E_{1}}{f} \\[ 5pt ]
\end{eqnarray}
\]
となり,電圧と周波数の比を一定に保つと磁束は一定となる。よって,電機子電流とは無関係となる。