《機械》〈直流機〉[R07上:問1]様々な直流電動機の特性の違いに関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

直流電動機に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) 直巻電動機は,負荷電流の増減によって回転速度が大きく変わる。トルクは,回転速度が小さいときに大きくなるので,始動時のトルクが大きいという特徴があり,クレーン,巻上機などの電動機として適している。

(2) 分巻電動機の速度制御の方法の一つとして界磁制御法がある。これは,界磁巻線に直列に接続した界磁抵抗器によって界磁電流を調整して界磁磁束の大きさを変え,速度を制御する方法である。

(3) 分巻電動機は,端子電圧を一定として機械的な負荷を増加したとき,電機子電流が増加し,回転速度は,わずかに減少するがほぼ一定である。このため,定速度電動機と呼ばれる。

(4) 複巻電動機には,直巻界磁巻線及び分巻界磁巻線が施され,合成界磁磁束が直巻界磁磁束と分巻界磁磁束との和になっている構造の和動複巻電動機と,差になっている構造の差動複巻電動機とがある。

(5) 直巻電動機は,界磁電流が負荷電流(電動機に流れる電流)と同じである。このため,未飽和領域では界磁磁束が負荷電流に比例し,トルクも負荷電流に比例する。

【ワンポイント解説】

様々な直流機の特性の違いに関する問題です。
問題文の内容を丸暗記するのは非現実的なので,それぞれの特徴について等価回路や関係式から正答を導き出すようにしていく方法が良いかと思います。誤りはなかなか見つけにくく,少々時間を要する問題ですが,落ち着いて丁寧に解くようにしましょう。
ただし,本問は平成25年問1からの再出題なので,過去問をしっかりと学習された方は解けた問題かと思います。

1.他励発電機及び電動機の等価回路と特性
他励発電機の等価回路を図1-1,他励電動機の等価回路を図1-2に示します。ただし,図において,\( \ E \ \mathrm {[V]} \ \)は誘導起電力(電動機の場合は逆起電力),\( \ V \ \mathrm {[V]} \ \)は端子電圧,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[A]} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \mathrm {[A]} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は界磁抵抗です。
界磁回路が別電源で励磁されているのが特徴です。図を見て分かる通り,発電機も電動機もほぼ同じ等価回路となります。
磁束を\( \ \phi \ \mathrm {[Wb]} \ \),回転速度を\( \ N \ \mathrm {[{min}^{-1}]} \ \)とすると,\( \ \phi ∝ I_{\mathrm {f}} \ \)となるので,誘導起電力(逆起電力)\( \ E \ \mathrm {[V]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {f}} N \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。またトルク\( \ T \ \mathrm {[N\cdot m]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
T &=&k_{\mathrm {f}}\phi I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

2.分巻発電機及び電動機の等価回路と特性
分巻発電機の等価回路を図2-1,分巻電動機の等価回路を図2-2に示します。ただし,図において,\( \ E \ \mathrm {[V]} \ \)は誘導起電力(電動機の場合は逆起電力),\( \ V \ \mathrm {[V]} \ \)は端子電圧,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[A]} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \mathrm {[A]} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は界磁抵抗です。
界磁を同じ電源から得る自励式ですが,界磁回路が電機子回路に並列に接続されているのが特徴です。
磁束を\( \ \phi \ \mathrm {[Wb]} \ \),回転速度を\( \ N \ \mathrm {[{min}^{-1}]} \ \)とすると,\( \ \phi ∝ I_{\mathrm {f}} \ \)となるので,誘導起電力(逆起電力)\( \ E \ \mathrm {[V]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {f}} N \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。またトルク\( \ T \ \mathrm {[N\cdot m]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
T &=&k_{\mathrm {f}}\phi I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

3.直巻発電機及び電動機の等価回路と特性
直巻発電機の等価回路を図3-1,直巻電動機の等価回路を図3-2に示します。分巻発電機の時と同様に,\( \ E \ \mathrm {[V]} \ \)は誘導起電力(電動機の場合は逆起電力),\( \ V \ \mathrm {[V]} \ \)は端子電圧,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[A]} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \mathrm {[A]} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \mathrm {[\Omega ]} \ \)は界磁抵抗です。
分巻は電機子回路と界磁回路が並列なのに対し,直巻は界磁回路が直列である特徴があります。
磁束を\( \ \phi \ \mathrm {[Wb]} \ \),回転速度を\( \ N \ \mathrm {[{min}^{-1}]} \ \)とすると,\( \ \phi ∝ I_{\mathrm {f}}=I_{\mathrm {a}} \ \)となるので,誘導起電力(逆起電力)\( \ E \ \mathrm {[V]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {f}} N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {a}} N \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。またトルク\( \ T \ \mathrm {[N\cdot m]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
T &=&k_{\mathrm {f}}\phi I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {f}}^{\prime } I_{\mathrm {a}}^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,トルクが電機子電流の\( \ 2 \ \)乗に比例するという特徴があります。

4.複巻電動機の等価回路
複巻電動機は直巻電動機と分巻電動機を組み合わせたような電動機で等価回路は図4-1及び図4-2のようになり,図4-1を内分巻電動機,図4-2を外分巻電動機といいます。さらに,それぞれの巻線について,直巻界磁巻線と分巻界磁巻線を磁束の向きが揃うようにすると磁束を強め合う和動複巻,磁束の向きが逆になるようにすると磁束を弱め合う差動複巻となります。発電機の等価回路もありますが,電動機とほとんど同じなので割愛します。

【解答】

解答:(5)
(1):正しい
ワンポイント解説「3.直巻発電機及び電動機の等価回路と特性」の通り,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {a}} N \\[ 5pt ] N &=&\frac {E}{k_{\mathrm {e}}^{\prime }I_{\mathrm {a}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係があり,負荷電流\( \ I_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[A]} \ \)に反比例して回転速度\( \ N \ \mathrm {[{min}^{-1}]} \ \)は大きく変わります。
また,図3-2より,通常時の電機子電流\( \ I_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[A]} \ \)の大きさは,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {a}} &=\frac {V-E}{R_{\mathrm {a}}+R_{\mathrm {f}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となりますが,始動時は\( \ E=0 \ \mathrm {[V]} \ \)なので,
\[
\begin{eqnarray}
I_{\mathrm {a}} &=\frac {V}{R_{\mathrm {a}}+R_{\mathrm {f}}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,非常に大きくなり,トルクが電機子電流\( \ I_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[A]} \ \)の\( \ 2 \ \)乗に比例することから始動時のトルクが大きいという特徴があります。

(2):正しい
ワンポイント解説「2.分巻発電機及び電動機の等価回路と特性」及び図2-2の通り,分巻電動機の逆起電力\( \ E \ \mathrm {[V]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N =V-R_{\mathrm {a}}I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係があるため,\( \ N \ \mathrm {[{min}^{-1}]} \ \)について整理すると,
\[
\begin{eqnarray}
N &=&\frac {V-R_{\mathrm {a}}I_{\mathrm {a}}}{k_{\mathrm {e}}\phi } \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係があり,\( \ \phi ∝ I_{\mathrm {f}} \ \)の関係から,図2-2の界磁巻線側に可変抵抗器を直列に接続することで,界磁電流\( \ I_{\mathrm {f}} \ \mathrm {[A]} \ \)を調整して界磁磁束\( \ \phi \ \mathrm {[Wb]} \ \)の大きさを変え,回転速度\( \ N \ \mathrm {[{min}^{-1}]} \ \)を制御することができます。

(3):正しい
ワンポイント解説「2.分巻発電機及び電動機の等価回路と特性」及び図2-2の通り,分巻電動機の逆起電力\( \ E \ \mathrm {[V]} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N =V-R_{\mathrm {a}}I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] の関係があるため,\( \ N \ \mathrm {[{min}^{-1}]} \ \)について整理すると,
\[
\begin{eqnarray}
N &=&\frac {V-R_{\mathrm {a}}I_{\mathrm {a}}}{k_{\mathrm {e}}\phi } \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,回転速度\( \ N \ \mathrm {[{min}^{-1}]} \ \)は電機子電流\( \ I_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[A]} \ \)が増加した分だけわずかに減少しますが大きく変化しないと考えることができます。

(4):正しい
ワンポイント解説「4.複巻電動機の等価回路」の通り,複巻電動機は,直巻界磁巻線及び分巻界磁巻線が施され,合成界磁磁束が直巻界磁磁束と分巻界磁磁束との和になっている構造の和動複巻電動機と,差になっている構造の差動複巻電動機とがあります。

(5):誤り
ワンポイント解説「3.直巻発電機及び電動機の等価回路と特性」の通り,直巻電動機は,界磁電流\( \ I_{\mathrm {f}} \ \mathrm {[A]} \ \)が負荷電流(電動機に流れる電流)\( \ I_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[A]} \ \)と同じ大きさです。未飽和領域では界磁磁束が負荷電流に比例しますが,トルク\( \ T \ \mathrm {[N\cdot m]} \ \)は負荷電流\( \ I_{\mathrm {a}} \ \mathrm {[A]} \ \)の\( \ 2 \ \)乗に比例します