《機械》〈回転機〉[R4下:問1]直流機の構造や分類及び特性に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)

直流機の構造に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1) 直流機は固定子と回転子からなる。界磁は固定子にあり,電機子及び整流子は回転子にある。

(2) 電機子鉄心には,交番磁束による渦電流損を少なくするため,電磁鋼板を層状に重ねた積層鉄心が用いられる。

(3) 直流発電機には他励式と自励式がある。他励式には,分巻発電機,直巻発電機などがある。

(4) 電機子電流による起磁力がエアギャップの磁束分布に影響を与える作用を電機子反作用といい,この影響を防ぐために補償巻線や補極が用いられる。

(5) 直流電動機に生じる電機子反作用の向きは発電機の場合とは反対であるが,電機子電流の向きが反対であるので補償巻線や補極の接続方法は発電機の場合と同じでよい。

【ワンポイント解説】

直流機の構造や分類及び特性等,総合的な知識を問う問題です。
すべての選択肢を理解するための知識としては幅広い知識を必要としますが,比較的間違いが見つけやすい問題ですので正答率は高かったと予想されます。

1.直流機の構造
下図に示すように界磁を発生させる固定子と電機子がある回転子から構成されています。
固定子は界磁鉄心と界磁巻線,継鉄から構成され,磁束を発生し電機子巻線に通します。
回転子は電機子鉄心,電機子巻線,整流子から構成され,電機子鉄心には鉄損の低減のためけい素鋼板を積み重ねた積層鉄心が使用されます。


出典:みんなが欲しかった!電験三種 機械の実践問題集P.5 (TAC出版)

2.他励発電機及び電動機の等価回路と特性
他励発電機の等価回路を図1-1,他励電動機の等価回路を図1-2に示します。ただし,図において,\( \ E \ \)は誘導起電力(電動機の場合は逆起電力),\( \ V \ \)は端子電圧,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \)は界磁抵抗です。
界磁回路が別電源で励磁されているのが特徴です。図を見て分かる通り,発電機も電動機もほぼ同じ等価回路となります。
磁束を\( \ \phi \ \),回転速度を\( \ N \ \)とすると,\( \ \phi ∝ I_{\mathrm {f}} \ \)となるので,誘導起電力(逆起電力)\( \ E \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {f}} N \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。またトルク\( \ T \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
T &=&k_{\mathrm {f}}\phi I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

3.分巻発電機及び電動機の等価回路と特性
分巻発電機の等価回路を図2-1,分巻電動機の等価回路を図2-2に示します。ただし,図において,\( \ E \ \)は誘導起電力(電動機の場合は逆起電力),\( \ V \ \)は端子電圧,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \)は界磁抵抗です。
界磁を同じ電源から得る自励式ですが,界磁回路が電機子回路に並列に接続されているのが特徴です。
磁束を\( \ \phi \ \),回転速度を\( \ N \ \)とすると,\( \ \phi ∝ I_{\mathrm {f}} \ \)となるので,誘導起電力(逆起電力)\( \ E \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {f}} N \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。またトルク\( \ T \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
T &=&k_{\mathrm {f}}\phi I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

4.直巻発電機及び電動機の等価回路と特性
直巻発電機の等価回路を図3-1,直巻電動機の等価回路を図3-2に示します。分巻発電機の時と同様に,\( \ E \ \)は誘導起電力(電動機の場合は逆起電力),\( \ V \ \)は端子電圧,\( \ I_{\mathrm {a}} \ \)は電機子電流,\( \ I_{\mathrm {f}} \ \)は界磁電流,\( \ R_{\mathrm {a}} \ \)は電機子抵抗,\( \ R_{\mathrm {f}} \ \)は界磁抵抗です。
分巻は電機子回路と界磁回路が並列なのに対し,直巻は界磁回路が直列である特徴があります。
磁束を\( \ \phi \ \),回転速度を\( \ N \ \)とすると,\( \ \phi ∝ I_{\mathrm {f}}=I_{\mathrm {a}} \ \)となるので,誘導起電力(逆起電力)\( \ E \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
E &=&k_{\mathrm {e}}\phi N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {f}} N \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {e}}^{\prime } I_{\mathrm {a}} N \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。またトルク\( \ T \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
T &=&k_{\mathrm {f}}\phi I_{\mathrm {a}} \\[ 5pt ] &=&k_{\mathrm {f}}^{\prime } I_{\mathrm {a}}^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となり,トルクが電機子電流の\( \ 2 \ \)乗に比例するという特徴があります。

5.直流機の電機子反作用
直流機は,図4に示すように,界磁電流により作られる界磁磁束に電機子電流により発生する磁束が合成され,磁束が強め合う部分と磁束が弱め合う部分が発生します。これにより,界磁磁束に乱れが生じます。これを電機子反作用と言います。電機子反作用により以下の現象が発生します。
①主磁束の減少
 強め合う部分では磁気飽和により磁束はそれほど強くならず,弱め合う部分では磁束が弱くなるという交差磁化作用が発生するため,全体として磁束が減少します。
②電気的中性軸の移動
 磁束分布が乱れることで,電気的中性軸が発電機では回転方向と同方向,電動機では逆方向に移動します。
③整流子片での火花の発生
 磁束分布が乱れ,整流子片に起電力が生じ,整流子片間にアークが生じやすくなります。

6.直流機の電機子反作用の対策
直流機の電機子反作用の対策として,補償巻線と補極があります。
①補償巻線
電機子電流に流れる電流の近くに逆方向の電流を流すことで,電機子巻線が作る磁束を打ち消します。具体的には,磁極片に巻線を施し,電機子巻線と直列に接続する方法がとられます。

②補極
主磁極とは別に,幾何学的中性軸上に磁極を設けます。これにより幾何学的中性軸上の磁束を打ち消し,整流時のリアクタンス電圧も打ち消します。


出典:みんなが欲しかった!電験三種 機械の実践問題集P.4 (TAC出版)

【解答】

解答:(3)
(1)正しい
ワンポイント解説「1.直流機の構造」の通り,直流機は固定子と回転子からなり,界磁は固定子,電機子及び整流子は回転子にあります。

(2)正しい
ワンポイント解説「1.直流機の構造」の通り,電機子鉄心には交番磁束による渦電流損を少なくするため,電磁鋼板を層状に重ねた積層鉄心が用いられます。

(3)誤り
ワンポイント解説「2.他励発電機及び電動機の等価回路と特性」「3.分巻発電機及び電動機の等価回路と特性」「4.直巻発電機及び電動機の等価回路と特性」の通り,直流発電機には他励式と自励式があり,分巻発電機,直巻発電機は自励式に分類されます。

(4)正しい
ワンポイント解説「5.直流機の電機子反作用」「6.直流機の電機子反作用の対策」の通り,電機子電流による起磁力がエアギャップの磁束分布に影響を与える作用を電機子反作用といい,この影響を防ぐために補償巻線や補極が用いられます。

(5)正しい
直流電動機に生じる電機子反作用の向きは発電機の場合とは反対ですが,ワンポイント解説「2.他励発電機及び電動機の等価回路と特性」の通り,電機子電流の向きが反対であるので補償巻線や補極の接続方法は発電機の場合と同じで大丈夫となります。