《電力・管理》〈火力〉[R02:問1]汽力発電所の所内単独運転に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

我が国における汽力発電所の所内単独運転に関して,次の問に答えよ。

(1) 所内単独運転はどのような事態が発生した際に実施されるのか,その目的とともに\( \ 100 \ \)字程度で述べよ。

(2) 所内単独運転中のボイラ設備,タービン設備,電気設備について,各設備への影響を踏まえて制御上注意すべきことをそれぞれ\( \ 50 \ \)字程度で述べよ。

【ワンポイント解説】

汽力発電所の所内単独運転に関する問題です。
所内単独運転は読んで字のごとく,発電所内の負荷にのみ電気を供給する単独運転の状態で,送電線事故時等に実施するものです。
このような問題は,間違った内容が記載されていなければ部分点を取得できるので,単独運転移行時にどのようになるかを想像し記載すると良いと思います。

1.所内単独運転
所内単独運転は,系統事故等で系統連系が継続できず遮断した際に,汽力発電所を停止せずに構内負荷にのみ電気を供給する状態のことをいいます。
汽力発電所は一旦停止すると再起動するのに時間がかかるので,系統事故復旧時に需給逼迫とならないようにすぐに再並列できるようにする待機状態にしておく運転です。
しかしながら,系統負荷が切り離されると負荷が一気に急減するので,汽力発電所の所内単独運転に移行するためには,ボイラやタービンの制御において以下の様々な点に注意しながら出力を低減させていく必要があります。
①ボイラ設備
 出力に見合ったバーナ本数,燃料流量,空気流量に絞り込み,さらに環境基準を超過しないように燃焼状態を維持します。また,出力急減することにより蒸気量の急変が起きるので,各補機の状態が通常運転範囲内に収まるように制御・監視していく必要があります。
②タービン設備
 ロータに大きな熱応力がかからないように寿命に影響が生じないレベルで蒸気流量を調整し出力を下げていき,余った蒸気を復水器に逃がします。復水器においても蒸気を回収することで復水器の水温が上昇し,真空度が異常低下したり,タービンの振動が異常上昇するおそれがあるので,タービントリップしない程度に蒸気を回収し,協調していく必要があります。
③電気設備
 機器の周波数や電圧を維持して,所内補機が異常停止せず,運転継続していくようにする必要があります。周波数や電圧が規定値を超えると保護継電器が動作し,補機がトリップし,重要補機がトリップした場合は補機トリップによりユニット全体(発電所全体)がトリップしてしまうので注意が必要です。

上記項目を全て満たしたまま,運転員が手動で操作して負荷を調整することは現実的かつ合理的ではないため,一般的な汽力発電所では\( \ \mathrm {FCB} \left( \mathrm {Fast \ Cut \ Back} \right) \ \)と呼ばれる方法を採用して,負荷を急速に減らしていく方法が取られます。

【解答】

(1)所内単独運転はどのような事態が発生した際に実施されるのか
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.所内単独運転」の通りです。系統並列用遮断器に異常が発生した際にもなりますが,主な要因は系統の送電線の故障です。

(試験センター解答)
電力系統の事故により汽力発電ユニットが系統から分離した場合に実施される。ユニットを停止させることなく,所内負荷をもって運転を継続し,系統電圧の復帰を待って迅速に並列・出力上昇を行うことが目的である。

(2)所内単独運転中のボイラ設備,タービン設備,電気設備について,各設備への影響を踏まえて制御上注意すべきこと
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.所内単独運転」の通りですが,\( \ 50 \ \)字程度なので詳しい内容ではなく,概要が記載されていれば十分であると思います。

(試験センター解答例)
①ボイラ設備
安定した燃焼状態を維持するために,出力に追従したバーナ本数制御,燃料,空気流量の絞り込みを行う。

②タービン設備
ロータの寿命に影響を与えるような温度変化が起きないように,蒸気温度を維持する。

③電気設備
所内負荷である補機電動機の運転が継続できるように,定格周波数,定格電圧を維持する。



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