《電力・管理》〈配電〉[R02:問4]低圧配電方式として広く使用されている単相3線式に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)

一般的に低圧配電方式として広く使用されている単相\( \ 3 \ \)線式について,次の問に答えよ。

(1) 我が国の単相\( \ 2 \ \)線式(\( \ 200 \ \mathrm {V} \ \)と\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \))と単相\( \ 3 \ \)線式を図で示し,単相\( \ 3 \ \)線式を用いた電力供給の特徴を,単相\( \ 2 \ \)線式と比較して利便性及び安全性の観点から\( \ 200 \ \)字程度で述べよ。ただし,小問(2),(3)に関する特徴は除く。

(2) 単相\( \ 3 \ \)線式は単相\( \ 2 \ \)線式と比較して電圧降下が小さいことを示したい。単相\( \ 2 \ \)線式と単相\( \ 3 \ \)線式とで\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \)負荷を用いる場合,単相\( \ 2 \ \)線式の負荷電力と単相\( \ 3 \ \)線式の負荷電力の合計が等しい際の\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \)負荷にかかる電圧降下について計算により比較せよ。ただし,単相\( \ 3 \ \)線式の各相間(電圧線と中性線との間)の負荷は等しいものとし,各方式での電線の太さは同一とし抵抗のみを考慮するものとする。

(3) 単相\( \ 3 \ \)線式における中性線の欠相(断線)により発生する障害,欠相が生じる原因,及び障害の防止対策(防止対策については二つ)について述べよ。

【ワンポイント解説】

単相\( \ 2 \ \)線式に対する単相\( \ 3 \ \)線式の特長や単相\( \ 3 \ \)線式の留意すべき点に関する問題です。
電験のテキストでは必ずと言っていいほど取り扱う内容なので,高得点を取れた受験生も多かったかもしれません。

1.低圧配電方式
①単相\( \ 2 \ \)線式
 最も簡単な配電方式ですが,電圧降下や電圧損失が大きいです。小規模住宅に採用されます。図1における電力損失\( \ P_{\mathrm {L}} \ \)は,
\[
\begin{eqnarray}
P_{\mathrm {L}}&=&2rI^{2} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となります。

②単相\( \ 3 \ \)線式
 線路負荷が平衡している時,中性点電流\( \ I_{\mathrm {n}} \ \)は零となります。その時,単相\( \ 2 \ \)線式と比較して線路電流は\( \ \displaystyle \frac {1}{2} \ \)となるので,線路損失は\( \ \displaystyle \frac {1}{4} \ \)となります。また,中性線が接地されており上の電線(\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \))と下の電線(\( \ -100 \ \mathrm {V} \ \))を取れば\( \ 200 \ \mathrm {V} \ \)の電源を取ることができます。一般家庭に最も多く普及している方式です。

③三相\( \ 3 \ \)線式
 三相交流を供給する方式です。\( \ 6.6 \ \mathrm {kV} \ \)で配電することも多く,工場等に普及している方式です。

④三相\( \ 4 \ \)線式
 電動機等の動力負荷は三相,照明負荷は単相に接続します。ビルや工場等の負荷の電力供給に適しています。

2.バランサ
単相\( \ 3 \ \)線式の回路の右側に取りつけた,巻線比\( \ 1:1 \ \)の単相変圧器で,負荷の不平衡や異常電圧を抑制させ,負荷電流を平衡させるものです。以下の特徴があります。
①負荷不平衡時でもバランサ側に電流が流れ,中性点電流が零となる。
②単相変圧器(バランサ)の上下に流れる電流の大きさが等しい。

※バランサ接続前後の電流の変化や損失変化が勉強したい場合は3種平成28年問17をやってみて下さい。

【解答】

(1)単相\( \ 3 \ \)線式を用いた電力供給の特徴
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.低圧配電方式」の内容を参考に記載します。

(試験センター解答)
単相\( \ 2 \ \)線式(\( \ 200 \ \mathrm {V} \ \)と\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \))と単相\( \ 3 \ \)線式を下図に示す。単相\( \ 3 \ \)線式では,図に示すように電源の単相変圧器の中性点から中性線を引き出し,両外側の電圧線とともに\( \ 3 \ \)線で負荷に電力供給を行う。以下の特徴を持つ。
利便性:一つの系統から単相の\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \)と\( \ 200 \ \mathrm {V} \ \)を取り出すことができ,\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \)と\( \ 200 \ \mathrm {V} \ \)のどちらの機器も使用できる。
安全性:中性線が接地されているので,\( \ 200 \ \mathrm {V} \ \)回路の対地電位は\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \)となることから,\( \ 200 \ \mathrm {V} \ \)回路の安全性が高い。

(2)単相\( \ 3 \ \)線式は単相\( \ 2 \ \)線式と比較して電圧降下が小さいことを示す
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.低圧配電方式」の内容を参考に電流値が半分となることから電圧降下が小さくなることを示します。
・単相\( \ 3 \ \)線式は線路電流が\( \ \displaystyle \frac {1}{2} \ \)となり,中性線には電流が流れないことから戻り分の電圧降下がないので,さらに電圧降下は半分となります。

(試験センター解答例)
単相\( \ 2 \ \)線式,単相\( \ 3 \ \)線式の電線\( \ 1 \ \)条当たりの抵抗を\( \ R \ \mathrm {[\Omega ]} \ \),負荷の力率を\( \ \cos \theta \ \)(\( \ \theta \ \)は非常に小さいものとする)とし,それぞれの電流を\( \ I_{2} \ \),\( \ I_{3} \ \mathrm {[A]} \ \),\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \)負荷端での電圧降下を\( \ \Delta V_{2} \ \),\( \ \Delta V_{3} \ \mathrm {[V]} \ \)とする。題意より単相\( \ 3 \ \)線式は中性線に電流が流れないので,電圧降下は\( \ 1 \ \)線分のみとなる。よって,各電圧降下は,
\[
\begin{eqnarray}
\Delta V_{2}&=&2I_{2}R\cos \theta \\[ 5pt ] \Delta V_{3}&=&I_{3}R\cos \theta \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] \( \ \Delta V_{3} \ \)と\( \ \Delta V_{2} \ \)の比をとり,負荷電力が等しい条件\( \ I_{2}=2I_{3} \ \)を代入すると,
\[
\begin{eqnarray}
\frac {\Delta V_{3}}{\Delta V_{2}}&=&\frac {I_{3}R\cos \theta }{2I_{2}R\cos \theta } \\[ 5pt ] &=&\frac {I_{3}}{2I_{2}} \\[ 5pt ] &=&\frac {1}{2}\times \frac {1}{2} \\[ 5pt ] &=&\frac {1}{4} \\[ 5pt ] \end{eqnarray}
\] となる。すなわち,単相\( \ 3 \ \)線式の電圧降下は単相\( \ 2 \ \)線式の\( \ \displaystyle \frac {1}{4} \ \)となる。

(3)中性線の欠相(断線)により発生する障害,欠相が生じる原因,及び障害の防止対策
(ポイント)
・中性線が欠相し負荷が不平衡であると,負荷には分圧の法則により電圧がかかります。したがって,片方の負荷が過電圧,もう一方の負荷が低電圧となってしまう可能性があります。
・中性線のみでなく電線の欠相は施工不良によるねじ止めの不良や振動によるねじのゆるみが多いです。現場管理をされる方はその辺りに注意して下さい。

(試験センター解答例)
中性線の欠相により発生する障害
二つの\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \)回路の負荷が不平衡である時は,中性線が断線していると回路ごとの電圧に不平衡が生じることから,一方の\( \ 100 \ \mathrm {V} \ \)回路で過電圧が生じ,他の回路では電圧が低下して,機器類の損傷・焼損及び誤動作などの障害を起こす恐れがある。

中性線欠相の発生原因
中性線欠相の主な発生原因は,分電盤内の開閉器の端子等において接触が不完全になるものである。この接触不良は,工事施工不良によるねじ締めの不完全や,導体温度変化による導体の膨張・収縮や振動等により経年的な接触不完全への発展が考えられる。

防止対策(以下の具体的対策例の中から二つ記載されていればよい)
①開閉器類端子部の構造の改善
\( \ 2 \ \)ねじ方式,圧着端子方式等で長時間使用してもねじのゆるみが生じにくい構造とする。
②欠相保護機能付き漏電遮断器の採用
中性線欠相による過電圧発生時に回路を遮断する機能を持たせた漏電遮断器を使用する。
③開閉器類設置時の対策
高温・多湿の場所,振動やじん埃のある場所への設置を極力避ける。また,端子締め付けに適した工具を用い,確実に施工・確認をする。
④既設開閉器類に対する対策
端子部の点検のほか,異臭,テレビ・ラジオの雑音,機器類の運転の異常,照明器具の明るさの異常などから,不良個所の早期発見に努め,処置する。
⑤バランサの採用
低圧線の末端にバランサ(単巻変圧器)を設置することで,中性線断線時の電圧不平衡を大幅に軽減する。



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