《電力・管理》〈電気施設管理〉[H21:問4]中・小規模の電力貯蔵装置に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★★☆(やや難しい)

電力系統の負荷平準化のため,以前より揚水発電が用いられている。近年では負荷平準化だけでなく,電力品質の向上や自然エネルギー発電の変動吸収等を目的として,中・小規模の電力貯蔵装置が注目されている。これらの中・小規模の電力貯蔵装置について,貯蔵原理別(貯蔵時のエネルギー形態の種類別)に\( \ 3 \ \)種類をとりあげ,その①動作原理,②特徴(貯蔵エネルギー密度,貯蔵エネルギー量など)について述べよ。

【ワンポイント解説】

電力貯蔵装置に関する問題です。
電験の参考書ではほぼ扱われていない内容で,日常的に文献等で知見を深めているかどうかを問われている問題と言えるかと思います。ただし,蓄電池に関しては他の年度でも出題されていますので,学習しておくと良いかと思います。

1.電力貯蔵技術
電力貯蔵技術は,電力の需要曲線の平準化及び太陽光や風力等の不安定な電源の安定性を高める技術として非常に高い期待が持たれている技術です。現在の技術として確立されているものには以下のような技術があります。

①揚水発電
軽負荷時に揚水,重負荷時に発電を行います。
近年では太陽光発電システムの普及に伴い,太陽光発電で余った電気で揚水し,それを夜間に使用する等の方法もとられています。
可変速揚水発電システムも実用化され,発電時のみでなく揚水時にも周波数調整を行うことができます。

②蓄電池
軽負荷時に充電,重負荷時に放電を行うことで負荷平準化に貢献します。ナトリウム-硫黄\( \ \left( \mathrm {NaS}\right) \ \)電池レドックスフロー形電池等があります。
エネルギー密度が高く,また小型化可能なため,立地に制約が少なく,都市部近郊に揚水発電と同様な機能を設けることができます。


出典:日本ガイシ HP
URL:https://www.ngk.co.jp/product/nas-about.html

③フライホイール
軽負荷時に電力の電気エネルギーで回転体を回転させ回転エネルギーとし,重負荷時に回転エネルギーから電気エネルギーを取り出します。
回転速度がエネルギー貯蔵量により変化するため,インバータが必要となります。
軸受部の摩擦がロスとなるため短時間での貯蔵に適しますが,現在は超電導磁気軸受けの開発により大容量,長期間貯蔵が可能な技術が開発されようとしています。


出典:電気工学ハンドブック 第7版 P.1646 一般社団法人電気学会

④電気二重層キャパシタ
一般のコンデンサと異なり誘電体に電解液を用い,電極と電解液の間の界面にできる電気二重層というものに電荷を蓄えるキャパシタです。細かい原理はありますが,大容量を蓄えられるコンデンサのようなものと考えばわかりやすいです。
エネルギー密度が蓄電池に比べ小さいですが,充放電による劣化が少ないため長寿命となります。したがって,短期間における充放電の繰り返しに向いています。


出典:松定プレシジョン株式会社 HP
URL:https://www.matsusada.co.jp/column/edlc.html

⑤超電導エネルギー貯蔵\( \ \left( \mathrm {SMES}\right) \ \)
極低温まで物質の温度を低下させると電気抵抗がゼロになるという技術を利用して,超電導コイルに磁気エネルギーとして充放電を行うことによりエネルギーを貯蔵します。ただし,冷却のために電力の損失は発生します。
磁気エネルギーであるため,瞬時にエネルギーを放出できるため,落雷等による瞬時電圧低下の対応にも有効です。現在も研究開発が進められ,コストダウン化ができるかどうかが課題です。


出典:電気工学ハンドブック 第7版 P.1648 一般社団法人電気学会

⑥圧縮空気貯蔵
軽負荷時に空気圧縮機により空気を圧縮し,タンク等に貯蔵し,重負荷時にガスタービンを回転させ電気エネルギーを取り出します。
原理は単純なので,大容量のタンクがあれば実用化が可能であり,欧米では大陸の特性を利用して圧縮空気の貯蔵に地下空洞が利用され,実用化もされています。


出典:電気工学ハンドブック 第7版 P.1644 一般社団法人電気学会

【解答】

(ポイント)
・蓄電池は大前提として,あと\( \ 2 \ \)種類を知っているかどうかです。
・現在も開発が進められている内容なので,最新の情報は随時追っていくと良いかと思います。

(試験センター解答例)
1.電池電力貯蔵
動作原理
・交流電力エネルギーを直流に変換し,化学物質の持つ化学エネルギーとして貯蔵する。蓄えられたエネルギーは直流電力として出力されるため,交流電力に変換して系統に供給する。電池には,鉛電池,ナトリウム-硫黄\( \ \left( \mathrm {NaS}\right) \ \)電池,亜鉛-臭素電池,レドックスフロー形電池,リチウムイオン電池などがある。

特徴
・電池の容積当たりのエネルギー密度が高く,小型化しやすい。
・交直変換器や一部の電池は既存技術であり,実現しやすい。
・設置場所の制約が少なく,設置に要する期間が短い。
・電池の設置場所を確保できれば、大容量化も可能である。
・電池によっては,温度管理,電解液管理などの保守が必要である。
・電池に寿命がある。

2.フライホイール電力貯蔵
動作原理
・交流電力エネルギーでフライホイールを回し,回転エネルギーとして貯蔵する。エネルギー貯蔵量の変化に伴いフライホイールの回転数が変化するため,周波数変換器を用いてエネルギー授受を行う。

特徴
・容積当たりのエネルギー密度が高く,小型化しやすい。
・機械的な制約などから貯蔵容量は中容量以下となる。
・軸受けの低損失化のため,超電導磁気軸受けが開発されている。

3.超電導エネルギー貯蔵\( \ \left( \mathrm {SMES}\right) \ \)
動作原理
・交流電力エネルギーを直流に変換し,超電導コイルの磁気エネルギーの形で貯蔵する。

特徴
・超電導コイルを用いるため,コイルでの損失は零となる。
・応答速度が速い。
・冷却のための冷凍機と交直変換器の損失が全体の損失となる。
・冷凍機の電力などが必要なため,高効率化のためには大容量の装置が必要となる。
・装置の容積当たり貯蔵エネルギー密度は大きい。

4.キャパシタ貯蔵
動作原理
・交流電力エネルギーを直流に変換し,電解コンデンサ,電気\( \ 2 \ \)重層キャパシタ等の大容量キャパシタに静電エネルギーとして貯蔵する。

特徴
・応答速度が速く,容積の割に取り扱える電力が大きい。
・容積当たりのエネルギー密度は他の方式に比べ小さく,エネルギー貯蔵量は小さめである。
・キャパシタはエネルギーの授受で端子電圧が大きく変動するため,交直変換器に工夫が必要である。
・短周期の負荷変動や発電量の変動吸収に適する。
・蓄電池に比べサイクル寿命が長い。

5.圧縮空気貯蔵\( \ \left( \mathrm {CAES}\right) \ \)
動作原理
・交流電力エネルギーで\( \ 3 ~ 6 \ \mathrm {[MPa]} \ \)の圧縮空気を貯蔵し,その圧縮空気をガスタービンに供給し,電力を発生させる。

特徴
・圧縮ガスのエネルギー密度はさほど大きくない。
・貯蔵場所に地下空洞などを用い,大容量化が可能である。
・電力に変換するときは,ガスタービンに\( \ \mathrm {LNG} \ \)などの燃料が必要なため,純粋な電力貯蔵とは異なる。



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