《電力・管理》〈水力〉[R05:問1]圧力トンネルを伴うダム水路式発電所における水撃作用に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★☆☆☆(やや易しい)

フランシス水車を設置した圧力トンネルを伴うダム水路式発電所において,負荷遮断を実施した際の水撃作用について,次の問に答えよ。

(1) この水撃作用の概要について,発生原因を含めて\( \ 100 \ \)字程度以内で述べよ。

(2) 水撃作用による被害を避けるために,機械的強度の確保とは別に,旧来から採用されてきた設備対策を二つ挙げ,その設備の設置場所及び仕組みについて,設備毎に\( \ 70 \ \)字程度以内で述べよ。

【ワンポイント解説】

負荷遮断を実施した際の水撃作用に関する問題です。
例年問1は水力と火力が交互に出題されていましたが,令和4年から令和5年にかけては連続して水力が出題されたため,多くの受験生が驚いたと予想されます。
ただし,本問に関しては平成26年問1に類題が出題されていたため,多くの受験生が選択した問題と言えるでしょう。

1.水力発電所の主要設備
①取水口
 水を取り入れる設備です。
②沈砂池
 流速を下げ,流水中に含まれる土砂を沈殿させ,水車への土砂の流入を防止します。
③導水路
 取水口からヘッドタンク(水槽)までの水路で水路式では無圧水路,ダム式では圧力水路が一般的です。
④ヘッドタンクもしくはサージタンク
 水量供給変動を吸収する働きがあり,サージタンクにはさらに緊急遮断等で生じる水撃圧を吸収する働きがあります。
⑤水圧管路
 ヘッドタンクから水車へ導く管路で有圧管路となります。
⑥発電所
 水車と発電機からなる水力発電所の心臓部なる設備です。
⑦放水路及び放水口
 水車から出た水を河川に戻す水路です。


出典:東京発電株式会社HP
https://tokyohatsuden.co.jp/service/hydro/

2.水撃作用とサージタンク
系統事故による負荷遮断等負荷の急変が起きた際,水車の回転数の異常上昇を防ぐため,水車の入口弁が急減します。水車の入口弁を急減すると水の運動エネルギーが圧力エネルギーに変換され,水圧管内の圧力が急上昇し,水圧管が破壊される可能性があります。これを水撃作用といい,一般に流速変化が大きい場合,水圧管の管路が長い場合に大きくなります。
水撃作用の対策として,図1のように圧力水路と水圧管の接続箇所にサージタンクを設けます。サージタンクでは水撃作用の圧力エネルギーをサージタンクの位置エネルギーで吸収することで,水撃作用を抑制させます。サージタンクには,以下の種類があります。
①単動式
 太い胴の管を水圧管に接続したものです。単純な構造ですが,水撃作用の周波数とサージタンクのレベル上下の振動数が共振してしまう可能性があります。
②差動式
 単胴の中にライザと呼ばれる管を設け,断面積の違いによる水面の上下の時間の違いを利用して吸収する方式です。
③小孔式
 サージタンクの入口を狭くし,抵抗損も含めて吸収する方式です。
④水室式
 サージタンクに水室を設け,圧力を吸収しながらも,水位の上昇を抑える方式です。

【解答】

(1)水撃作用の概要
(ポイント)
・負荷遮断等により,急激に負荷が少なくなると,周波数が上昇して発電機の回転数が上昇することになります。
・回転数上昇を防ぐため,ガイドベーンが急速に閉止し,それまで水車に向け流れていた運動エネルギーが圧力エネルギーとなり,水圧管路等に水撃が発生することになります。

(試験センター解答例)
負荷遮断時には,ガイドベーンが急閉塞するため,管路を流れている水が減速され,水の運動エネルギーが圧力エネルギーに変わる。これにより,ガイドベーン直前の水圧が上昇し,その圧力が水圧管路や圧力トンネルに伝搬する現象である。

(2)水撃作用への対策設備を二つ挙げ,設置場所及び仕組みを説明
(ポイント)
・サージタンクと制圧機の二つを挙げます。
・制圧機はガイドベーン急閉と連動して開放する弁で緊急の圧力上昇時の逃し弁の役割を持ちます。

(試験センター解答例)
①サージタンク
サージタンクを水圧管路と導水路である圧力トンネルの間に設置し,水路の途中に自由水面を設けることにより,水撃作用による圧力変動を吸収する。

②制圧機
制圧機をケーシング若しくは水圧管路末端に設置し,調速機によるガイドベーン急閉塞と連動して制圧機の弁体を開放することで圧力上昇を抑える。



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