《電力・管理》〈水力・火力〉[H23:問1]同期発電機の励磁方式と過渡安定度に関する論説問題

【問題】

【難易度】★★★☆☆(普通)

同期発電機の励磁方式について,次の問に答えよ。

(1) 発電機の励磁装置の基本機能について簡単に述べよ。

(2) 代表的な励磁方式として,静止形励磁方式(サイリスタ励磁方式),交流励磁機方式,直流励磁機方式があるが,これら励磁方式のうち,同期発電機の過渡安定度の向上効果を最も期待できる方式はどれか。また,その理由を述べよ。

(3) 上記(2)の同期発電機の過渡安定度の向上効果を最も期待できる方式を採用した場合に,補助励磁装置として\( \ \mathrm {PSS} \ \)が付加されることが多い。\( \ \mathrm {PSS} \ \)を付加する目的とその基本機能を述べよ。

【ワンポイント解説】

同期発電機の励磁装置に関する問題です。
どちらかというと機械科目に分類されそうな分野ですが,発電所の発電機に使用する装置であるため,電力管理科目で出題されたのであると思います。
過渡安定度に関する出題は二次試験で非常に多いので,メカニズムを理解しておくようにしましょう。

1.同期機の\( \ \mathrm {V} \ \)曲線
同期機の界磁電流と電機子電流には図1のような関係があり,これを\( \ \mathrm {V} \ \)曲線と言います。
図の通り界磁電流を増加させると電機子電流は力率\( \ 1 \ \)を最下点として\( \ \mathrm {V} \ \)字に上昇していくという特性があり,これにより無効電力を調整し電圧及び力率を調整することができます。発電機と電動機では遅れと進みが逆になります。

2.等面積法
過渡安定度のメカニズムの説明には,送電電力\( \ P \ \)と相差角\( \ \delta \ \)の関係\( \ \left( \displaystyle P=\frac {V_{\mathrm {s}}V_{\mathrm {r}}}{x}\sin \delta \right) \ \)を表す図2のような\( \ P-\delta \ \)曲線による等面積法が用いられます。
図2の\( \ \mathrm {a} \ \)で安定運転していた発電機が事故が発生すると,多量の無効電力が流れ,\( \ \mathrm {b} \ \)点に移動します。事故を除去する\( \ \mathrm {c} \ \)点まで発電機は加速し,事故除去後,線路は一相分なくなる分事故前よりリアクタンスが大きくなるため,\( \ P-\delta \ \)曲線は緑線になり,\( \ \mathrm {d} \ \)点に移動します。その後,発電機は減速エネルギーが働き始め,\( \ \mathrm {e} \ \)点まで進むと減速を開始し,元の出力と同じ\( \ \mathrm {f} \ \)点まで行くと発電機は安定します。減速エネルギーが足りず,\( \ \mathrm {e}^{\prime } \ \)点まで行ってしまうと脱調します。
したがって,加速エネルギーを大きくしないためには,超速応励磁方式を採用し\( \ \mathrm {b} \ \)点から\( \ \mathrm {c} \ \)点までの距離を短くすることが効果的となります。

3.励磁方式の種類
①直流励磁機方式
 最も初期から使用されている方法で,直流発電機を励磁機として界磁電流を調整する方式です。ブラシ等保守に手間がかかります。

②交流励磁機方式
 交流発電機の出力を整流して励磁します。発電機を励磁する主励磁機と主励磁機を励磁する副励磁機があります。

③ブラシレス励磁方式
 回転電機子形の励磁用発電機と整流器を発電機と同一上に設置することで,スリップリングやブラシを不要とした方式です。

④静止形励磁方式
 発電機の主回路に接続した励磁用変圧器の出力をサイリスタを用いた整流器で直流へ変換し,励磁電流とする方式です。サイリスタでは点呼角を調整して直流出力電圧を変化させ,発電機の界磁電流を制御します。

【解答】

(1)発電機の励磁装置の基本機能
(ポイント)
・ワンポイント解説「1.同期機の\( \ \mathrm {V} \ \)曲線」図1を考えながら説明すると良いです。
・有効電力のバランスが崩れると周波数,無効電力のバランスが崩れると電圧が変化します。

(試験センター解答)
同期機の界磁巻線に直流電流を供給し,同期機の端子電圧を一定に保持あるいは調整する機能である。

(2)同期発電機の過渡安定度の向上効果を最も期待できる方式とその理由
(ポイント)
・直流励磁機方式→交流励磁機方式→静止形励磁方式の順に技術が発展してきたと考えれば,どの方式が最も良いかは明らかかと思います。

(試験センター解答例)
静止形励磁方式(サイリスタ励磁方式)である。
理由:静止形励磁方式(サイリスタ励磁方式)は応答速度が速いことに加え,頂上電圧(界磁の印加最高電圧)を高くすることができるので,系統事故除去後の回復電圧を高くし,発電機の電気出力を大きくすることにより,過渡安定度の向上を図ることができる。

(3)補助励磁装置として\( \ \mathrm {PSS} \ \)を付加する目的とその基本機能
(ポイント)
・\( \ \mathrm {PSS} \ \)は系統安定化装置といい,超速応励磁の採用により動揺の減衰が悪くなるのを改善する役割があります。

(試験センター解答例)
目的:高速高ゲインの励磁装置は過渡安定度の向上効果が高い反面,定態安定度(系統動揺の減衰)を悪くすることがあるので,これを改善するため。
基本機能:発電機出力偏差\( \ \Delta P \ \)や回転速度偏差\( \ \Delta \omega \ \)などを入力信号とし,発電機の動揺を抑制するように信号の位相と大きさを調整して,自動電圧調整装置(\( \ \mathrm {AVR} \ \))への信号を生成する。



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